第99話 神々滅亡の時
俺が現世に飛ばされた頃。
フリューゲル達はお祭り状態だった。
どこに居ても感じ取れた俺と言う存在が急に感じ取れなくなったからだ。
俺と言う存在を強引に引き剝がされた事にフリューゲル達はほぼ恐慌状態だ。
普段は冷静なゼルセラやルノアールに限らず全員がだ。
指示を通そうにも全員がご乱心の様子。
そんな様子を見ていたシーラには憐憫と思うしかなかった。
全てを知って居るが故の安心に過ぎないが彼女らは本当に主が負けると思っているのだろうか。
だとすればそちらの方が許せない。
学院から遠視にてフリューゲル達の様子を確認していたが...授業どころでは無い様だ。
今日はまだしっかりとした授業は始まっていない、現在は代理の教師が研究棟の紹介をしている。
そこで活動する上級生たちが各々の活動内容を報告し新入生を勧誘する。
どれも退屈なものばかりなので聞かなくても問題はない。
既に決まっているのだから。
「先生。気分が悪いので早退します」
上級生が話をしているのを遮って教師に向けて言葉を放つ。
今じゃなくてもいいだろ...と言った表情を浮かべる同じクラスの者達。だが私に続く者も居た。
それはメトラとデフォルだ。
「マオーもなのだ!!!急用ができたのだ!!!」
「すいません私も...」
流石に急に三人も早退がでると怪しまれてしまう...。
流石に不審に思ったのか、教師たちは私達を注意深く見つめる。
「本当の事を言えば許してあげます」
この女教師は意外と話の分かる人の様だ。
「お兄様に呼ばれたので。失礼します」
私は早々に告げ教室を出て行く。
「マオーも呼ばれたのだ!!!」
「うんうん!私も!!」
流石に無理があるだろうと思ったが教師は名簿に目を通すとあっさりと許可が下りた。
私の身の上を知ったのだろう。
いや...ここはメトラのフルネームを知ったからだろう。
最強の魔王と言われた存在が代理で来た教室に居たのだから。
メトラもデフォルと長く一緒に居るせいか少し脳が溶けてきているかもしれない。
以前、襲撃したときはもう少し理知的で感情なんて表に出さず、冷酷な表情をしていた。
あれが本来のメトラなのだろうか。
心とは不思議なものだ。
廊下を歩くと背後から足音が近づいてくる。
「廊下は走ってはいけませんよ」
私は諭す様に言った。
「ごめんなさい!姉さま!それより兄様が...」
キーラの顔を見れば動揺しているが、ゼルセラ程ではない。
「意外と冷静ね」
「うん。だって兄様がそんな簡単にやられちゃうなんて思えないし...それに兄様なら...」
感心。感心。
そんな事を思っているとメトラ達も合流する。
それから忠告を一つ告げる。
「デフォル。みんなの前でマオーと名乗るのはやめた方が良い」
「ならマオーはなんと名乗ればいいのだ...」
その言葉を聞き少しショック受けたデフォルの声を聞き私の心には一つの確信ができた。
このままでいい。と
この子が自分をマオーと呼称しようが、まさか本物の魔王だとは思は無いはずだ。
「マオーって言っちゃったの!?」
「仕方なかったのだ...マオーにはなんて言えば良いかわからなかったのだ...」
キーラは驚いている。
キーラは魔法科なので教室どころか棟が違う。
なのでデフォルの自己紹介を知らない。
はっきり言って酷かった。
『マオーなのだ!!ハオーと共に世界を征服するのだ!!よろしく頼むのだ!!』
はっきりと魔王と名乗ったし世界征服するとも言った。
だが、教室のみんなは冗談だと思い真に受けなかった。
それが正解だ。
それこそが一番平和な道だ。
この世界には知らない方が良い事の方が沢山ある。
これもその一つだ。
総合科のSクラスには魔王が二人に覇王の妹が1人居るのだ。
そんなの知らない方がいいに決まっている。
それは兎も角、覇王城に転移する。
まずは取り乱すゼルセラを落ち着かせる。
現在の状況を伝えると意外と冷静になってくれた。
現在の状況と言っても、グレースが現世に飛ばされたと言う事だけだが。
生きて居る事にほっとしたのだろう。
ほんとうにそれを疑っているのか問いただしたい所ではあるが。
今はそれどころではない。
落ち着きを取り戻したゼルセラに指示を出す。
バカンス中の兄はいいとしてエミールとスカーレットの安全の確認だ。
その安全が確保出来次第フリューゲル達を世界全体をカバーできるように配備させる。
念の為の処置だが必要な事だ。
これをすることで相手はうかつに行動することが出来なくなるはずだ。
地上の安全が保障されたら次はある程度の精鋭のみで天界に赴きクロノスの始末だ。
ベストなタイミングでバカンス中の兄を召喚し止めを刺す。
ただ一つ気がかりなのはロキだ。
彼女が一体何を考えているのか。
もし先走る事があれば計画は破綻する。
聡明であの方に忠実な彼女であれば問題ないと思うが...。
おっと。
先の不安よりもまずは現状の打開だ。
エミールとスカーレットは時空の狭間に居る。
と思いきやスカーレットとエミールは私たちの居るところに転移をしてくる。
玉座の間に転移してきたスカーレットとエミール。
一目で気付くことが出来る程圧倒的な強さ。
一体エミールは何をしたらここまで強くなるのだろう
現在のエミールのステータスはゼルセラに勝っている。
あの短期間でそこまで成長するとも思えない。
いや、案外スカーレットの教育の仕方が良いのかもしれない。
効率を重視した立ち回りを極めればそれくらいは容易い....だろうか...。
それにこの懐かしい感情はなんなのでしょう。
流石にじっと見つめ過ぎたのかエミールは戸惑い始める。
おっと、今は無駄に混乱させている場合ではない。
このステータスならば相手がグレースとかでなければ負ける事はないだろう。
エミールの進化に驚きはしたが安全面は大丈夫そおうなので次のステップに移行する。
大天使クラスのフリューゲルであってもこの世界の神程度であれば全く問題ない。
世界は広いので200人でカバーできる範囲はたかが知れている。
だがある程度の広範囲を一人ずつ任せる様に配備しつつ全体を覆える様にする。
リーエルは戦闘には向かないのでわざわざ戦闘はさせない。
念の為に学院に留まらせてはいるがジルニルは精鋭に組み込む。
もし仮にグレースに万が一、いや億が一、いや.....ときりがないのでやめておくとして。
便利な事にグレースが危機に陥れば覚醒するので備えとしては彼女は最適だ。
自分やグレースが負ける程の存在と戦わねばならないとすればそれ以上の戦力を用意するしかないのだ。
ひとまずはこれで現状は維持出来るはずだ。
あとは選別。
キーラは連れて行くとしてエミール、スカーレット、メトラ、デフォル、最後はゼルセラでいいだろう。
どうせ置いて行くと言ってもついて来るだろう。
それと保険でジルニルはいつでも転移できるように覇王城に待機させる。
フリューゲルの指揮はルノアールに任せ精鋭の6人を連れて天界へと向かう。
全員がフル装備なので万が一は起こらないだろう。
天界に向かう陣営の士気は高い。
だが、足を踏み入れた一行の士気は少し落ちる事になる。
「うわぁ....」
「ゴミがワラワラと....」
「すごい量なのだ...」
「面倒くさい...」
「力を試すにはちょうどいいかもね」
「張り切りすぎないでよエミール」
約二名ほど楽しそうな者もいるがそれ以外のキーラ、ゼルセラ、デフォル、メトラ、は神達の量にうんざりしている様だ。
展開を埋め尽くすほどに大量の神達の軍勢。
億や兆では表せないほどの神達の数。
どうやら予想通りクロノスは行動に移したようだ。
時渡りのスキルで別の時間軸の神をかき集める。
時渡りのスキルの改変した際の影響を無くす効果の併用だ。
別の時間軸から神を召喚すればそっちの時間軸の秩序が乱れる。
だが、クロノスが望めばその秩序を乱すことなく完全な分身体をこの時間軸に飛ばすことが出来る。
奴自身も無茶をすることは出来ない。
何故ならその時間軸の中で私やグレースに見つかってしまえばそこでクロノスの計画は潰える。
だからこそ、奴はグレースが転生する前までの時間軸の神しか連れてくることは出来ない。
故に...神達のステータスはこちらの世界基準の最強格。
だがそのステータスは100万前後。
今の自分達を基準に考えればあまりにも矮小な存在でしかない。
ぶっちゃけ連れて来た精鋭どころか大天使クラスのフリューゲル一人でも十分だろう。
だが、その数は膨大だ。それを全て殲滅しなければならないと知った彼女たちは面倒くさいと思ったのだ。
強者との戦闘を楽しみにしているゼルセラとしてはあまりにも退屈。
新規スキルの獲得も無い以上戦う必要は皆無だ。
だからなのかある提案を私にする。
「私が元の世界の守護をするので。あの子達をここに連れてきませんか?」
たしかにそれの方が効率も良い。
彼女らはもっていないスキルあると思うので尚更だ。
スキルの大収穫祭と言っても過言ではない。
ゼルセラの意見を肯定しフリューゲル達とゼルセラの位置を入れ替える。
そして召喚されたフリューゲル達に下すのは殲滅。
「戦争を始めます。皆殺しにしなさい」
私の命令を受け戦争の火蓋が切って落とされた。
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ロキはクロノスの横に立ち笑う。
始まったあまりにも凄惨な光景。
クロノスの召喚した神達はどんどんと数を減らしていっている。
これを笑わずには入れるだろうか。
憎き奴らは漏れなく瞬殺だ。
成す術なく蹂躙されていく神達。
腹の底から笑いが込み上げる。
―――まさに混沌。
これを望んでいた。
私とあの方の復讐は始まる。
全ては世界を混沌に陥れる為に―――
『神々の滅亡』が始まる