表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

3.無茶な注文



 カルテン迷宮四層に辿り着いた。

 未知の空間に放逐されたにも等しい状況下で、正体不明の少女と共に、黒曜石の様な光沢を放つ岩盤の上を歩いて進む。眼下の景色は灼熱の溶岩が波打つ地獄、厳しい自然の力が目視できる場所は、やはり足を踏み入れれば絶命は必至。

 この環境下に生息する魔物は屈強であり、戦闘経験の皆無な冒険者カイトにとっては、もはや何処が安全地帯であるかも判断が付かない。否、存在しないというのが正しい解答だろう。

 何より、第四層となれば一流の冒険者がパーティーを組み、万全な装備でない限りは生存率も低い危険地帯。そこへ自若として踏み入る少女の度胸は見上げたものだが、如何せん表情の乏しい相貌からは危機感が伺えず、果たして本当にこの階層の危険度を弁えた上での行動なのかと疑う。

 装備も一流とは言えず、軽甲冑を纏っただけの華奢な肢体では、魔物と対峙した時にか細い枯木に見える。異様なのは、あの鍔も無い黒い刀剣であり、鞘に納まってはいるが刃渡りはおよそ二尺を上回る。そんな長物を扱える筋力があるとは到底思えない。

 道行く先々で、魔物との交戦後で休憩する冒険者と擦れ違うが、誰もが瞠目して此方を見守る。いつもなら慣れた奇異の視線も環境が明らかに違うため、カイトは羞恥に堪えて少女に後続した。振り返って少し確認すると、その衆目はどちらかといえば、カイトではなく少女に注がれている。

 銀髪碧眼の少女の先導する足は倦まず弛まず、岩盤の凹凸にも軽快に飛び越えたり、揺れる桟橋にも恐れず乗る。


「君って何者?」

「そんな事聞いて、どうするの?」

「いや、別に……理由は無い。興味あっただけ」

「生きて還れたら、教えてあげる」


 碧眼が妖しく光り、カイトは桟橋の上で足を止めてぞっとする。美貌の中に混在した大きな力の波動を、魔力に鋭敏でも無い自分でも感じられた。只者ではない少女の迫力に圧され、口は自然と閉じてしまった。

 橋を渡りきって、其所から更に奥へと進む。

 気づけば、遠い岸壁の上に出発地点となる第四層入口が望める場所まで来ている。呆然と見つめるカイトの前で、唐突に少女が足を止めた。


「どうした?」

「……来た、依頼(クエスト)達成を頑張ろう」

「は?どういう……」


 問い糺そうとした言葉は届かなかった。

 何の脈絡も無く瓦解した岩壁の音に掻き消され、また口を閉ざされてしまった。


 瓦礫を押し退けて前方に屹立するのは、赤い魚鱗の光沢を見せ、両翼を拡げて咆哮し、逞しい四肢を唸らせて地面を叩く巨大な魔物。剥き出しの歯牙の先端で、ちらちらと炎が点く。岩壁を撓り打つ尾は終端が鉤の形状をしていた。

 全長は目測四メートル以上、誰もが知るその威容が目前に佇んでいた。

 第四層でも手強く、Aランクの冒険者が集団で闘っても討伐が困難と称される強敵――火焔竜(ファヴニール)

 第四層以降の深層に生息し、遭遇と同時に撤退を選択するのが定石とされる。年齢を重ねる毎に攻撃力、耐久力等が増して行く。喉にある火袋(ハート・オブ・ファイア)と呼ばれる竜特有の器官が存在するが、火焔竜の物は竜種の中でも溶岩ほどの高熱に耐えるため、火炎放射量や威力が桁違いとされる。

 カイトは常に危険性を考慮し、冒険者組合が提供する魔物に関連した書物を渉猟し、あらゆる偶然性にも対応すべく知識だけは蓄えていたため、初対面であっても分析し得た。


「うん、大きいね」

「この大きさ……結構生きてるなコイツ!依頼内容ってまさか……」

「依頼SSランク『火焔竜の鱗と火袋の採取』」

「バカなのか……!?二人で挑む相手じゃ……」


 火焔竜が頭上を顔で仰ぐ。

 その動作のみで空気が蠕動するかの様な圧力を伴い、カイトが後退りする中でも少女だけは平然と直立していた。この化け物を前にしても、まだ余裕綽々とした態度を崩さない!

 これは相当の強者なのだろう。ただの命知らずでも、流石に火焔竜と相対すれば、危機感に逃げ出す。カイトは微かな期待を懐いて少女を見ていた。

 しかし、彼女はその場で跳躍すると別の岩場へと着地して、此方を見遣る。カイトではそちらに行けない、自分の身体能力では間の溶岩流に落ちるのが関の山であった。唖然とするカイトに、少女は頷いた。


「カイトの実力、今ここで見せて」


 少女の言葉に時間が停止する。


「は……はあああ――――!?」





次回、火焔竜と対決!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ