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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 2  可愛い女と美しい男
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2-3

「ごめん。今日は残業だから」


 そう言って武の誘いを断った。 

 残業は半分嘘で、半分本当だった。


 今日はやらなくてもいい仕事をしていた。

 先輩にあげてもらったワインの取り扱い業者、レストラン関係者、デパート関係者に招待状をメールと郵便で送る必要があった。今のご時勢メールだけで事は足りるのだが、美しい招待状を送ったほうが心に届くのではと撫山なでやまさんの要望もあり、郵送で送ることにもしていた。


 デザインと書く内容は彼に伝え、同意をもらっていた。

 後は業者に注文するだけだった。


「多くの人に来てもらわないと」


 気合を入れると、業者にメールを書き、決めたデザインと内容を添付で送る。

 

「明日、ドラフト見てokだったら、決まりね」


 静かな事務所で私の声だけが響く。

 時間を見るともう八時になろうとしていた。


 背伸びをするとパソコンの電源を消す。

 そして事務所の照明を消し、廊下に出た。


 まだ残っている人もいるらしく、建物内の別の場所から明かりが漏れている。


 今日は早く帰って、寝よう。


 大きな欠伸をすると、守衛さんに手を振ってビルを出た。ビルの外は繁華街で今日もきらきらと輝いている。

 

 駅に向かって歩きながら、私はふと見知った顔を街の中に見る。それは加川くんで、彼とつりあわない感じの普通の容姿の女の子と一緒に歩いていた。

 

 あれが彼女か。

 つりあわないあ。でも、加川くんは幸せそう。

 彼女は……。


 そうだよね。

 彼氏があれだけ可愛いから、気後れするよね。


 でもがんばって。


 なんだか思わずエールを送った自分に驚きながら、若いカップルに声をかけることなく、駅へ急いだ。


 電車にのり、つり革につかまる。


 加川くんの姿にたけるが重なり、彼女の姿に私が重なった。

 

 やっぱり釣り合わないわよね。


 きっと一緒に飲んでても世間はそう思ってるわね。


 大きなため息をつくと、電車の窓から外を見る。ネオンが瞬き、私はその光を避けるように俯いた



 家に帰り風呂からあがると、携帯電話が鳴っていた。

 着信番号に見覚えがないが、とりあえず出てる。するとそれは驚いたことに撫山なでやまみなとからだった。

 

 私は一気に仕事モードになり、直立し、机の上にメモとペンを出す。


「なにか変更とかでしょうか?」


 招待状のことかなと思いながら、私は携帯電話を耳と肩の間に挟むと、メモをとれる姿勢になる。

 しかし、電話口から聞こえてきたのはまったく別の用件だった。


「明日のお昼、お会いできますか?」

「…え?」


 思わぬ誘いに私はどきっとする。


「空いてませんか?」

「空いてますけど…」


 どういう展開なんだろうか?

 加川弟ならいざしらず、私?

 それとも姉のことを探るため?

 あの意味深な笑みはなんだったんだろう?


 私が脳裏でそんなことを考えている中、撫山なでやまさんは勝手に話を進めて行く。


「じゃ、明日。十二時半、私の事務所の下のカフェで待ってます」

「ああ、はい。それでは」


 断る理由もないし、ましてはお客さんだ。

 怪訝に思いながらそう答えた。


 美男が電話を切り、ツーツーという音を聞きながら、通話終了のボタンを押す。

 そしてベッドに体を投げ出した。


 あの美男が私に気があるなんてなどと、乙女チックなことを考えるような私ではなかった。絶対に何か別の考えがあって誘われたに違いなかった。


 やっぱり加川姉弟関係?


 天井を見ながら私は頭を悩ます。しかし、ええいと気合を入れると携帯を掴み、事の真相を知っている可能性が高い人物に電話をかけた。


「もしもし?」


 高い女性の声が聞こえた。

 

 あれ?


 私が電話を切ろうとすると電話口から慌てた声が聞こえる。

「安田さんでしょ?ごめんなさいね~。弟は今御風呂入っているのよ」

 

 ……いや、お姉さん。

 だからと言って弟の電話とったらいけないでしょ?


 私はかなりあきれながら、どうしようかと迷った。しかし、撫山なでやまさんのことを一番知っているだろう人物はこの姉である。


 私は息を吐くと、姉に話しかけた。


「加川さん、ちょっとお時間ありますか? お聞きしたいことがあるんです」

 


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