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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 10 幸せな結末
47/50

10-4

 がたん、がたんと揺れる。


 私は見られているのを感じた。


 はいはい、わかってますよ。


 帰りの電車は空いていて、座席に座れたのだが、両脇をしっかりと武と港に固められた。

 

 いやあ、両手に花。


 でも嬉しくない。

 視線が痛いし、武はむっつりしている。


「眞有は次の駅で降りるんですよね?」

「はい」


 しかし港は武とは対照的に、にこにこと笑顔を浮かべて私に話しかけてきた。


「俺も一緒に降りる。眞有のお母さんにも心配かけたし」


 武はぐいっと私の肩を引き寄せる。

 それを見て港は苦笑し、私は真っ赤になる。


 公共の場でちょっと、恥ずかしいかも。

 しかも、周りの視線が痛い……

 わかってます。言いたいことは……


 でも武、どうしたんだろう?

 こんな風にするタイプじゃなかったと思うけど……

 

「じゃ、眞有、池垣さん。また」


 港は電車を降りる私達に手を振る。

 武は私の手を握ると、硬い表情のまま、階段を降りていった。


 改札を抜け、駅を出たとき、ふとその足が止まる。


「眞有。やっぱり、お前は撫山が好きなのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!」


 武を見上げる。

 彼は眉間に皺を寄せ、私を食い入るように見つめていた。


「だって、俺はわがままだし、あいつみたいにお前を想えない。だから、もしお前が撫山を好きだったら、俺……」

「どうするの? 武は私を好きなんでしょ? 違うの? 宮元さんと結婚すればよかったと思ってるの? 後悔してるの?」

「!」

 

 しまった。

 感情が先走り、言わないでいい事をいった。

 実家に戻り、彼は自分を責めているはずだった。

 

 でも私も辛かった。

 私のせいで、彼の実家を救えなかったのが辛かった。


「そんなこと思ってるわけないだろう! 例え、お前が撫山と付き合ったとしても、俺は玲美と結婚するつもりはない!」 


 武は怒りを交えてそう言う。


「なんでそこに港が出てくるのよ。私が好きなのは武なんだから!」


 自分に瞳から涙がこぼれるがわかった。

 武が私を信じてくれないことが悲しかった。

 私のせいで彼を苦しめていることが嫌だった。


「……ごめん!」


 武がはっと気がつき私を抱きしめる。


「離して!」


 そう言って体をよじり、彼の腕から逃げ出そうとする。


「俺が悪かった。不安なんだ。すごく」


 涙を流す私をぎゅっと抱きしめ、彼はかすれた声でそう漏らした。




「池垣さん、ありがとうございました」


 気まずい雰囲気のまま、私は武と一緒に家に到着した。

 玄関を開けると、お母さんがほっとした様子で出てきて頭を下げる。


「すみません。俺が不安を煽るような電話をしてしまって」


 それを見て武は頭を下げる。


 元はといえば携帯電話取らなかった私が悪いんだよね。

 どう説明していいか、わからなくて取れなかった。


 武の隣でぼんやりそう考えていると、母さんがぎろっと私を睨む。


「いえいえ。とんでもないわ。本当、うちの娘も連絡くらいすればよかったんだけど」

「か、母さん。何かやってたんでしょ。早く行ったら!」


 説教が始まる予感がして、そう母さんを急かす。

 いい年して母親に怒られるところなんて、見られたくなかった。


「わかったわ。池垣さん。本当、今日はありがとうございました」


 母さんは溜息をつき、もう一度そう言うと、頭を下げ家の奥へ戻っていった。


「……じゃ、俺会社に戻るから。またメールする」


 母さんの姿が見えなくしてほっとしてる私に武がそう言葉を返す。


「うん」


 私は、ただ頷く。

 

 なんだろう。

 なんて言っていいか、わからない。


 結局、玄関を去る武にそれ以上声を掛けれなかった。



 


 どうしたら、 

 どうしたら。


 部屋に戻って、その言葉を繰り返していた。


 武は私のことを好きだ。

 でも、もしかして、私が邪魔をしなければ、宮元さんと結婚して、案外うまくいっていたかもしれない。

 実家は助かるし、宮元さんはお金持ちだ。


 ツルルル……


「誰?」 


 私は机の上で鳴り始めた携帯電話を取る。


「港……」


 それは港で、私は出るか迷う。

 なんだか、港と話すだけで、武に不安を与えるような気持ちがしていた。


「ごめん」


 携帯電話の電源を切ると、ベッドに体を投げだし、うつぶせになり、頭を枕で覆う。


 何も聞きたくないし、何も考えたくなかった。



「眞有!」


 怒鳴り声がして、部屋の扉が開けられる。

 部屋の中が薄暗くなっていて、もう日が暮れてることに気がついた。

 

 私、寝てたんだ……


「また、あんた携帯電話の電源切ったの?池垣さんから電話よ!」

「武?!」


 何だろう?

 慌てて体を起こすと、扉を開けた母さんの横を擦り抜け、電話機に向かった。


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