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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 10 幸せな結末
46/50

10-3

 家の一部を改装して店にしていたのだけど、店から入るのはよくないだろうと、私達はとりあえず外の玄関から家の奥に案内される。そしてその奥の畳張りの応接間に通された。

 

 畳の間なんて久々だと思いながら、武の隣に座る。港もなぜか一緒にいて、私の隣に腰掛けた。

 どう港に接していいかわからず、彼の顔を見れなかった。


 私達の向かいに座るのは武の弟の学くん。武のお父さんは先ほど私に見せた笑顔が嘘のように硬い顔をすると、店番をすると言って店の方へ向かった。


「お茶をどうぞ」


 お腹が少し膨らんだ若い女性が丸いお盆に湯呑みを入れて持ってきた。


「すみません」

 

 妊婦なのに、申し訳ない。

 私は体を浮かすと、そのお盆を受け取り、お茶を机の上に置いていく。


「ありがとうございます」


 お盆を返すと女性はふわりと笑って台所の方へ戻っていった。


 あの女性は学くんの奥さんかな?

 なんか優しそうだ。


 でも妊娠中なのに、立ち退かないといけないなんて……


「学。家のことは知ってる。助けられないで悪かった」


 武はお茶を飲む学くんに深々と頭を下げる。


 それが私の胸を痛める。

 本当は、救えるはずだった。


 でも……


「兄ちゃん、どういう意味?兄ちゃんには関係ないことだよ」

「……実は、宮元カンパニーのお嬢さんに結婚を条件に、ホテル建設計画の中止の話を持ちかけられた。でも……俺にはできなかった」

「池垣さん、そういう言い方は眞有の前でするべきじゃないと思います。それじゃ、弟さんが誤解します」


 泣き出しそうな私の隣で、港がそう口を挟む。


「学さん、池垣さんは自分で断ったんです。眞有のせいではありません」

「港!」

 

 確かにそうだけど、それじゃ武を攻めてる感じだよ。


「そうだな。眞有悪かった。俺が選んだ。好きな女を捨てて、好きでもない女とは結婚したくなかった」


 武は机の下で私の手をそっと握る。


 手が震えている。


 ごめん。武。


「兄ちゃん。それは当然なことだよ。俺が同じ立場でも多分そうしたと思うし。しょうがないんだよ。引越し先も決まりそうだから、心配しないで。商店街のみんなも、もうあきらめてるんだ」


 学くんは少し影のある笑みを浮かべる。


 結局、私達はそれ以上実のある話をすることもなく、店を後にした。


「もう少し長くいなくていいの?」


 店を出て、駅に向かって歩きながら、そう口にする。


「いいんだ」


 武はにこっと笑う。

 学くんは武のことを残念そうに見送った。お父さんは結局まともに武と話そうとしなかった。


 どうしただろう。

 

 ギクシャクした親子関係、家族に思えた。


「池垣さん、眞有。昼食でも取りませんか?」


 先を歩く私達に港がそう提案する。


 もうそんな時間? 

 そういえばお腹がすいてる。


 っていうか何で港が一緒に来てるか知りたいし。


「そうだな。久々に田舎の飯でも食べようか」


 そうして私達は、池垣商店から少し離れた食堂で食事を取ることにした。




「いらっしゃい。あれ、武じゃねーか!」


 食堂に入ると、奥から私達と同じくらいの年頃の男の人がそう声を掛けてきた。


「鈴木。久々だな」


 武は少し苦笑いを浮かべて、そう返した。


「うおお。外人じゃねーか。すごいなあ。お前のお客さんか何か?」


 武と港がスーツを着ているせいか、仕事中だと思われたらしい。鈴木という男の人は港を珍しそうに見ていた。


 港はトラウマなのか、少し戸惑いの表情を浮かべている。


「まあな。鈴木、おまえんとこのお勧めはなんだ?」

「それは当然、すずっちスペシャルよ」

「?!」


 なんてネーミング。

 それはありなの?


 武も港も唖然と一瞬したが、鈴木さんはそんなこと気にしてないらしく、すずっちスペシャルについて説明している。


 なんでも親子丼だが、その鳥と卵が地元産で、お新香は手作り、お味噌汁の味噌も自家製らしい。


「……じゃ、俺はそのすずっちスペシャルをもらおうかな」

「OK。そうこなくっちゃ。そちらの二人はどうする?」

「えっと、じゃ、私もそれで」

 

 なんか頼まないといけない雰囲気だし。


「じゃ、私もそれで」

「あれ、外人さん。日本語話せるんだ。すごいね!」

「ハーフなので」

「そっか、ハーフ、ははっは」


 鈴木さんは陽気に笑いながら台所へ消えていく。


 なんか、変わった人だ。


 おかげでなんか武が元気になったみたいだ。やっぱり昔なじみに会うと違うよね。しかも陽気な人だし。


 うーん、でもこれからどうしたらいいんだろう。


 学くんは心配しないでって言ってたけど。


「眞有。悪かったな。心配かけた」

「そんなこと」


 そう言った武はやっぱりいつもの調子じゃなくて、心配になる。


 実家がなくなるのはやっぱり辛いもんね。

 

「眞有。池垣さんはあなたが、私と一緒にどこかに行ったと勘違いしてたんですよ」

「撫山!それは言わない約束だろ!」

「そんな約束しましたっけ?あなたばかり、いいところを持っていくのはやはり許せませんから。眞有、今朝、会社を休んで連絡が取れないあなたのことを心配して、池垣さんは私に電話をかけてきたんですよ。本当、どうしようもない人だ」


 それって、私を疑ってるってことだよね。

 なんか頭に来るんだけど?

 武を裏切るわけないのに。


「眞有。悪い。でも心配だったんだ。お前が俺の側からいなくなるかもって」

「本当、馬鹿な人です。眞有がどれだけあなたを好きか、知らないなんて」


 港は深いため息をつく。


「反省してる。でも撫山、何でお前は眞有が俺の実家に向かったってわかったんだ?」

「そんなの眞有の性格を考えればわかることです。まったく。やっぱり私はあなたが嫌いです。だから、眞有のことはまだ、あきらめられませんから」

「?!」

「撫山?!」

「あなたが眞有のことを本当に想っていると思えるまでは、あきらめないですから」

「……そんなの。勝手にすればいいだろう。俺は絶対に眞有を渡さないから」

「はいはい」


 二人は私が呆然としているのに構わず、そんな会話を繰り返す。なんだか息の合ってるような二人のやり取りに、私は自分のことを話されているのに笑ってしまう。


「あれ、昼ドラ中?」 


 ふいにそんな声がして、タイミングよく大きなお盆を二つ抱えた鈴木さんが現れる。


「そんなんじゃない」


 武は子供みたいに口を尖らして答える。


「池垣、お前は昔からそうだよな。他人のものを欲しがる」

「ど、どういう意味だ。眞有は俺の彼女だ」

「あ、そうだったんだ。悪かったな」


 鈴木さんは意味深に笑った後、お盆をテーブルに置くと台所に再び消えた。


 

 どういう意味?

 昔から。

 ああ、昔から女癖悪かったってこと?

 昔って高校生だよね。


 本当どうしようもない男だ。


 眉間に皺を寄せて隣の武を見る。


「何?」

「何でもない」


 大人気ないと思いつつ、顔を背けてしまった。

 そんな私に向かいに座っている港は穏やかな笑みを浮かべている。


「眞有。食べ始めようぜ」


 港に気を取られたのがわかったようで、武が少し怒った調子でそう囁いてきた。

 目の前にはすずっちスペシャルが置かれ、親子丼のおいしそうな香りが漂っている。


 とりあえず腹ごしらが先よね。


「いただきます~」


 私達はそう言うとすずっちスペシャルを食べ始めた。



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