10-2
電車を二本乗り継ぎ、その町に降り立った。
駅を出ると程なく、大きな立て看板を見つける。
看板には立派なホテルの写真が載っており、その下に宮元カンパニーの名前が書かれていた。
そしてその裏にお店がいくつか並んでいる。店の多くが少しレトロな感じで、半分くらいはシャッターが閉められていた。
きっと、武の実家はこの辺なんだ。
そう思いながら、一軒一軒を見て回る。お店の人達はなんだが寂しげな表情を浮かべていたが、私の顔を見るといらしゃいと笑顔を見せた。
そうして五分くらい歩いて、店の外にアイスクリームの入った冷蔵庫を置いてある、店に辿りつく。屋根の方に『池垣商店』を書かれた看板が架かっていた。
「こ、こんにちは」
そう言いながら、中に入った。
「いらっしゃいませ!」
元気な声がして、二十代前半に見える青年が顔を覗かせた。
うわあ。木村さんに似てる。
笑顔の青年は武の行きつけのバーの木村さんの顔に似ていた。
「えっと、あの……」
戸惑いながら、店内で何かを探している振りをする。
あれって武の弟?
弟なんていたの?
それとも従業員?
「あ、いらっしゃい」
そんなことを考えていると日用品を売ってるコーナーにたどり着く。するとそこにはゆっくりとした物腰で商品を並べ替えているおじさんがいた。
武のお父さん?さっきの人に似てるけど。
先ほどの青年と顔の造詣が似てて、親子であるのがわかる。
じゃあ、この人達は武の家族なんだ。
「父さん!父さんは奥で休んでていいのに。後は俺がやるから」
弟くんはお父さんの声を聞くと、慌ててスリッパを履いて、ぱたぱたと走ってくる。
なんか動きまで木村さんに似てる。
「そうか、悪いな。お客さん、ゆっくり見ていってくださいな」
お父さんは弟くんにそう声をかけると、私に軽く頭を下げ、店の奥へと入って行った。
「お客さんは観光客?この辺の人じゃないですよね。この町はのんびりするのにはうってつけな場所だから、ゆっくりしていってくださいね。あ、もしかして俺、邪魔ですか?」
私が黙っているのを見て、弟くんが慌てたようにそう口にする。
「いえいえ、邪魔なんて。あの……外で大きな看板を見たんですけど、ここ一帯にホテルが建つんですか?」
迷いながらもそうたずねた。
「……そうなんですよ。だから、このお店もあと1ヶ月で店じまいです」
弟くんは苦笑いしながら答える。
聞かなきゃよかったかな。
でも……
どうしよう。
「学!眞有!」
どう言おうか、何を話せばと戸惑っていると、後ろからそう声が聞こえた。
「武?!」
「兄ちゃん!」
私と弟くんはぎょっとして入り口を見つめる。
え?なんで?!
店の入り口には武がいることは想像できた。しかし、その横に立つ彼を見て私は目を見開く。
それは華やかな金髪が輝かせ、青い目を瞬かせる港だった。
え?なんで港が武と一緒に?!
「眞有。俺に黙って実家に来るなんて」
武はつかつかと店に入りながら、少し怒った顔を見せる。
「学。この女性は俺の彼女なんだ。ちょっと話がしたい。いいか?」
彼は戸惑う私をその胸に引き寄せる。早まる鼓動を感じ、武が緊張してる様子がわかった。
「……いいけど」
弟くんは突然現れた兄、港、そして私に目を向けた後、こくんと頷いた。