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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 10 幸せな結末
44/50

10-1

 シャワーヘッドから、温かいお湯が私の体に降り注ぐ。

 

「眞有?」


 なかなか出てこない私を不思議がってか、武の声がした。

 そしてガラッとドアを開けられる。


「入ってこないでよ!」


 慌てて両手で体を隠す。するとシャワーヘッドが私の手をすり抜け、勢いよくお湯を撒き散らしながら床に落ちる。


「いいだろう。一緒に入ったほうが時間も節約できるし」


 彼はずぶ濡れになりながらもにこっと笑う。武は一糸も纏わぬ姿で、シャワーヘッドを掴み、壁に掛けた。


「私は嫌。出るから!」


 武に裸を見られるのが嫌でバスルームを出て行こうとすると、彼がぐいっと私を引き寄せる。

 彼の皮膚を直に感じ、私の心臓が跳ねる。


「眞有、お前嘘ついただろう。でもその嘘が嬉しい」

「?!」


 そう囁かれ、ばんと武の胸を叩くと、シャワー室から出て行く。



 私は彼に嘘をついていた。

 経験があるなんて、嘘。

 結局武が私の初めての男になった。


 それがなんだか、嬉しいような悔しいような複雑な思いが胸を交錯する。

 

 でも武は本気だった。

 今度は冗談じゃない。


 それがわかってる今、悔しいより恥ずかしい思いが勝っていた。


「じゃ、また」


 着替えを持ってきてないため、一旦家に戻ることにした私はバスルームから出てきた武に声を掛ける。


「眞有。ちょっと待って。家まで送る」


 濡れた髪をかきあげて、色気たっぷりにそういわれ、真っ赤になる。


「……うん」


 そしてどうにか返事をした。



「じゃ、会社に着いたらメールくれよな」


 タクシーの中から、武がそう言い、私に手を振った。そして車が走り去る。夜が明け始めようとしている空の下、車を見送り、家に入る。



 いろんな思いが交錯しては消える。武は私のために家族を犠牲にした。その想いに答える必要がある。


 でも……、もうだめなのかな。

 武の実家のほうのお店……


 武から実家の話を聞いたことがない。

 家族の話になると、彼はいつも適当にはぐらかしていた。


 一旦は家族のために私と別れた。

 家族に想いがあるのは確かだった。


 武……


 部屋に入り、ベッドの上で丸くなる。


 もしかしたら、まだ救う方法があるかもしれない。


 私のために武が家族を犠牲にするのは嫌だ。


 そうだ、武の実家に行って見よう。

 行ったら何か方法が見つかるかもしれない。


 そう決めると、今日休む事を伝えるため、加川くんと芋野さんにメールを送る。


 『まったく、明日は必ず出て来いよな』

 『お幸せに~』

 すると芋野さんと加川くんからすぐそうメッセージが返ってきた。


 もう起きてるんだ。


 時間は朝の六時だった。


 そういえば芋野さんは、朝ジョギングしてるとか言ってたな。でも加川くんは?


 疑問に思ったけど、そんなこと考えてる場合じゃないとパソコンの電源を入れる。

 武の実家の住所を調べるつもりだった。


 池垣商店で検索すると住所が出てきた。

 住所を紙に書くと、出かける準備を始める。

 

 自分を選んでくれた武のために、何かしたかった。


 動きやすそうな服を選び、小さな鞄を掴む。電車で三時間ほどかかる道のりだった。


「眞有?」


 玄関に向かって歩いていた私に母が声を掛ける。


「どこ行くの?仕事じゃないわよね?」

「ごめん。母さん。今は言えないよ。でも悪いことじゃないから」


 いい年して言う台詞じゃないなと内心思いながらも、そう口にした。


「……あなたがすることに口出するつもりはないわ。ただ、後悔しないようにね」

「うん。わかってる。ありがとう。母さん」


 スニーカーを履いて玄関を開け、その眩しい光に目を細める。


「行ってきます」


 夜が完全に明け、朝を迎えた街に足を踏み出した。


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