9-6
十五禁ギリギリの表現があります。
「港?!」
エレベーターで一階に降り、バーに向かってを歩いているとぐいっと引き寄せられた。
それは港でぎょっとして彼の美しい顔を見上げる。
「眞有。やっぱり、私は耐えられない。本当は池垣さんとなんてうまくいってほしくない。友人なんてなれません」
彼は眉を苦しげに寄せ、かすれた声を出す。
「最低だとはわかってます。本当は、こんな結果望んでなかった」
「港?!」
彼は私をぎゅっと強く抱きしめ、私の肩に顔を伏せる。
その様子が弱弱しくみえ、私は拒絶することもできず、体を硬直させる。
早く離れないと。こんなのだめだ。
そう思いながら、身動きができなかった。
「眞有?撫山?」
そう声が聞こえ、私は顔をそちらに向ける。
すると一メールほど先に武がいて、こちらを凝視していた。
「武!」
彼は私達の様子をみて、顔を引きつらせた後、皮肉な笑みを浮かべた。
「そういうことか。馬鹿は俺か」
武はそうつぶやくと、くるりと背を向けた。
「武!待って」
私は港の腕の中から抜け出ると、武を追う。
「武!」
必死に追いかけてそう声をかけるが、彼はホテルを出て、タクシーを拾おうとしていた。
「武!」
武の前に飛び出し、それを止めようする。
「馬鹿!」
タクシーが私を轢きそうなり、武がとっさに私の腕を引き、その胸に抱く。
「何やってるんだ!」
車を慌てて止め、タクシーの運転手が窓から顔を出し、怒鳴りつける。
「すみません」
武は私を抱きしめながら頭を下げる。
彼の鼓動が早鐘を打っているのがわかった。
ごめん、武。
馬鹿なことをした。
わかってる。
でもこのまま、武と別れたくなかった。
結局私達はそのタクシーを別の客に譲り、タクシーを待つ列から離れた。
「眞有。お前、本当は撫山が好きなんだろう?」
ホテルの入り口の端っこで、武はその腕から私を解放し、そう問う。
その瞳は真っ暗で、いつもの輝きは消えていた。
「……違う」
とっさにそう答え、彼を見つめる。
「じゃ、なんで奴の腕の中でじっとしていた?」
「それは……」
彼に見つめ返され、うつむく。
それは私にもわからない感情だった。
答えに困ってる私に武はため息をつく。
「それは奴が好きだからだ」
「違う!私は好きなのは武だもん」
「……じゃ、俺の部屋に来て。今夜は俺と一緒に寝て」
そう言った武の瞳は真摯で、射るように私を見ていた。
「うん」
私はゆっくりと頷く。
武が好きだ。
その気持ちに嘘はない。
だから決めた。
私達は何も話さなかった。
タクシーから降りて、無言で武の部屋に入る。
彼が寝室に来るように私を誘う。
ベッドに座った私に彼は優しくキスをした。
何度も繰り返されるキスは、私の思考を失わせる。
熱を帯びた彼の瞳が私を見つめる。
「眞有。俺は奴にお前を渡すつもりはない。お前が奴を好きでもだ。好きだ。ずっと俺の側にいて。俺だけの眞有でいて」
彼は顔を上げ、私をじっと見つめてそう口にする。
その表情は懇願するようなもので、その声がなぜか掠れていた。
私は何かに突き動かされるように彼の頬を両手で包む。
武が泣いているように見えた。
初めて見る、彼の様子に私の胸が締め付けられる。
「武。私はいつも側にいるから。安心して」
そう言うと彼の頭を胸に抱きかかえた。
彼のことが心配だった。
なんだかほっとけなかった。
「眞有……。側にいて。俺の側に」
私はその夜、初めて武とひとつになった。




