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玲美さんが騒いだこともあったけど、パーティーは加川さんの司会で順調に進んだ。舞台には港も上がり、一緒に盛り上げていた。
武の横でその様子を見ていた。
一ヶ月以上、準備をしてきたパーティーだった。
でもそれよりも武のことが気になっていた。
だから私は彼の震える手を握り、横に立っていた。
「武」
「大丈夫」
心配げに見上げる私に武は柔らかく微笑む。それが彼らしくなく、ますます心配になる。
結局そんな状態でパーティーが進んでいくのを見ていた。
「じゃ、眞有。終わったら電話くれよな。下のバーにいるから」
パーティーが終わりに近づき、片付けのことなどで仕事のある私に武はそう言うと、会場を後にする。
去っていく背中がなんだか小さく見えて、追いかけたくなる。
でもきゅっと拳を握ると、舞台のほうへ目を向けた。
進行は問題なく進み、終わりの挨拶を迎えようとしていた。
「ありがとうございました」
港の横に立ち、会場を後にする招待客に紙袋を渡していく。中に入っているのは可愛らしいリボンがついている小さなワインボトルだ。
私はなぜか隣にいる港に顔を向けることができず、ただ笑顔を作り、贈り物を渡していく。
最後のお客さんが帰り、片付けが始まる。
「安田さん!よかったわね」
舞台の解体作業を見ていた私に加川さんが嬉しそうに声を掛けてきた。
「……はい」
なんだか複雑な思いでそう返す。
「まあ、玲美さんの様子は気になるわよね。ぷりぷり怒っていたもんね」
「どうする気だ。安田」
どうする気だって、芋野さん。
私がそれを聞きたいくらいです。
仲良しカップルの二人から目をそらし、ホテルの従業員と話している港に目を向ける。
本当、どうしたらいいんだろう。
「あれ、ところで池垣、どこいったんだ?」
「………下のバーで飲んでます」
「そうか。じゃ、お前も帰っていいぞ。後は俺が見ておくから」
「芋野さん!?」
「大丈夫だ。撫山さんもわかってくれるだろう」
「そうそう。私もいるし」
いや、加川さんはいてもしょうがないですから。
そう言いそうになるが、口をつぐむ。
武の小さな背中を思い出す。
いいよね。
だって、今は彼についていてあげたいし。
私は二人の後ろに見える港に目を向ける。
すると、彼もちょうど私のほうを見たようで、視線が合った。
彼の青い瞳は暗く沈み、海の底のようだった。
しかし、すぐに表情を切り替えると微笑を浮かべる。
「撫山さん、後は私が引継ぎます。安田は今日は早めに上がらせてもいいですか?」
「もちろんですよ」
港は間髪いれずそう答えると、私達から視線をそらし、ホテルの従業員と話を続ける。
「ほら、安田。もう上がっていいぞ。明日はちゃんと出社してこいよ」
それを見て芋野さんが私の肩をぽんと叩く。
「そうそう」
加川さんが芋野さんの言葉に頷き、魅惑の笑顔を浮かべる。
いやいや、最後の台詞がいらないですから。
でも、早く帰れるのは嬉しい。
港には悪いけど、やっぱり武のことが心配だから。
「すみません!ありがとうございます」
二人に深々と頭を下げると、舞台や音響スタッフに声を掛けていく。
そして港にも別れの挨拶をしようと探すが、彼の姿は会場から消えていた。
あれ?
いいや、明日でもまた連絡しよ。
そう決めると、港を探すのをやめ、下で待っているはずの武の元へ向かった。