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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 9 The End of the Party
40/50

9-3

 あれ?

 この人確か、港のお父さんだったよね?


 打ち合わせをするため、港の本社の人が宿泊している部屋に入った。

 そこには数人の外国人がおり、そのうちの一人は港のお父さんだった。


 こうして見ると親子に見えるわ。


 あの工房でTシャツを着て、汗を流していたお父さんは今日はスーツに身を包み、恰幅のいい男前に変身していた。

 でも視線はやっぱり厳しく見える。


 あ、こっち見た。


 お父さんの視線を怖くて顔をそむける。


 港はそんな私に苦笑しながら、私達を会社の人に紹介し、打ち合わせは始まった。


 わからん。


 交わされるフランス語の音を聞きながら、ぼんやりしていた。

 通訳してもらうわけにもいかなし、ま、なんか変更あったら私に聞くでしょ。


 そう思って聞いていると携帯電話が鳴る。

 それは覚えのない番号だった。


 一応断りを入れると、打ち合わせの部屋から出て、電話を取った。


「もしもし?」

「安田眞有さん?」

「そうですけど?」


 誰?


「私は宮元みやもと玲美れみです。父をあなたの会社のパーティにお招きいただき、ありがとうございます。私も婚約者と一緒に参加したいと思ってるのでよろしくお願いしますね」


 その言葉に電話を落としそうになる。

 携帯電話を持つ手ががたがたと震えていた。

 

「変な小細工してもだめだから。あなたには絶対に、武を渡さないから」

 

 何も答えない私に玲美さんはそう言い、電話を切った。


 武……

 ばれてる?

 

 うまくいくと思っていた計画、でも玲美さんは何か感づいたみたいだった。


 武は玲美さんに逆らえない。

 逆らえば、武の実家のお店は立ち退かないといけない。


 十年連絡をとってないといっていた。

 家なんかどうでもいいっても。


 でも本当は違う。

 ずっと気にしてたんだ。

 それはそうだよね。

 生まれ育った家なんだから。


 でも、それを使って無理やり結婚に持っていくなんて、玲美さんは間違ってる。

 武を本当に好きならそんなことしたらだめだ。


 どうしたらいいんだろう。

 今日彼女が来るということは、私達が宮元社長に近づくのは難しいってことだ。

 近づいても彼女の邪魔が入るだろう。


 どうしたら


「眞有?」


 そう声が聞こえ、自分を呼んだのが港だとわかる。

 優しい彼が自分を心配して、部屋から出てきてくれたとことが予想できた。


「港」


 私は泣きそうになる自分を奮い立たせて、振りかえる。

 これ以上、彼に頼ったらだめだ。

 しっかりしなきゃ。


「どうしたんですか?」


 港はその青い瞳を心配げに曇らせている。

 

 ありがとう。

 でもごめん。港。


「なんでもない」


 本当は玲美さんのことを言うべきだった。

 でも私はこれ以上彼を煩わせたくなくて、そう笑って答えた。




「永香」


 開場2時間前、男前に変身した芋野さんが会場に現れ、加川さんがすこし驚いた顔をした。


「メガネ姿のほうがいいのに」


 加川姉は残念そうだったけど、笑みはとても柔らかかった。そうして二人は周りの目を気にもせず、仲良く話をし始めた。


 大丈夫なのかな?


 少し心配になり港を見上げるが、彼は気にしていない様子だった。


 完全に吹っ切れたんだ。

 それは、よかった。

  

 安堵している私に港が顔をかしげ、その美しさに息が止まるかと思った。

 青い瞳が吸い込まれるような色で、思わず見惚れてしまう。


「眞有。最終確認のリハーサルをしましょうか」


 言われて私は、視線を慌てて外す。


「そ、そうですね。始めましょう」


 顔が真っ赤になったのを悟られないように、背を向けると音響の人達に呼びかける。


 そしてリハーサルが始まった。


「永香って本当にフランス語話せるんだな」


 舞台の右端で様子を見ていた芋野さんが感心したようにそうつぶやく。

 

 そっか、フランス語話しているのを見るのって初めてだっけ?

 惚れ直してるって感じだなあ。


 隣に立つ、男前に変身した先輩を見上げながらそう思う。

 

 しっかし芋野さん、いつもこうしていればいいのに。 

 目の保養にもなるし。


「安田」


 そんなことを考えていると、芋野さんが私に顔を向ける。

 いつもと違うハンサムな先輩に私は一瞬だがドキリとする。


「安田、今回のことありがとう。お前のおかげで永香と仲直りができた。お前のほうもうまくいくといいな。池垣って男のことは好きじゃないけど、お前が好きなら応援するから」

「芋野さん……」


 優しい先輩の言葉に涙が出そうになる。


 応援してくれてる人がいる。

 それがなんだか嬉しかった。


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