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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 9 The End of the Party
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9-2

 春を意識している今回の会場は花々で色とりどりに装飾されており、そこに現れた彼女はまさに春を祝い花々の間を舞う蝶々のように見えた。クリーム色のスーツのスカートはふわりとしたプリーツ、ジャケットは女性らしい丸いシルエットのデザインで、フリルがついた可愛らしいものだった。


 これはすごいわ。

 

 あまりの可愛らしさに目が奪われた、

 隣の港も同様の感想らしく、私と話していたことを忘れたように言葉を失っていた。


 やっぱり普通の感性なんだよね。

 なんで、私にこだわるんだろう。


 あ、でも今更加川姉にアタックかけられても、芋野さんに申し訳ないんだけど。


「今日も一段と綺麗ですね。永香さん」


 彼はそんな私の思いを知ってるのか、知らないのか、私より先に彼女に話しかけた。


「ありがとう。そういうあなたも今日もまたキラキラしてて眩しいわね」


 いや、その返し? それ褒めてるんですか?


 外国人の顔が苦手な彼女らしいけど、もう少しましな言葉はないのかと、心配になって港を見る。すると彼は予想通り、顔を強張らせていた。


 ほら、やっぱり。 

 トラウマなんだよね。

 顔のことは。


 こんなに綺麗なのにね。


「加川さん、あの件どうなりましたか?」


 港の様子を気にしながらも、頼んでおいたことの結果を聞く。


「ばっちりよ。父の力を借りちゃったけど。まあ、この際仕方ないわ」


 彼女はにっこりと笑ってそう答えた。


「父?」

 

 なんでそこにお父さんが? 


 目を瞬かせる。


 そういえば、私、なんで加川さんが玲美さんのお父さんを呼べる術があるのかよく考えていなかった。なんか港が自信たっぷりで彼女なら大丈夫って言ってたから勢いで頼んだんだけど……


「眞有。永香さんはアドリの社長令嬢なんですよ」


 戸惑ってる私に港が先ほどのショックから回復したようで、優しい笑みを向ける。


「ア、アドリ?!」


 意外な答えに思わず素っ頓狂な声を上げる。


 アドリといえば、いまや世界に名を馳せる家電製品の大企業。

 なんでそんなとこの社長令嬢が普通に働いているの? しかも、弟はうちみたいな小規模の会社にいるし……。

 いや、おかしい。

 だって、この間弟を家に送ったとき、普通の家だったけど。


「驚かせちゃったわね。社長令嬢って言っても私と弟は普通だから。父が倹約とかで、家も普通だし、特に何かすごいというわけでもないんだけど」


 加川さんは少し困ったような笑顔を浮かべる。


 いやああ。

 すごいですよ。


 社長令嬢かあ。

 だからちょっと普通とは違うんだ。


 浮世離れした二人の可愛い姉弟の存在に改めて納得させられる。


 ああ、でも今はそれに驚いている場合じゃなかった。


「それで玲美さんのお父さんは……?」

「来るわ。招待状ないけど、大丈夫よね?」

「もちろんです」


 受付担当は、芋野さんだ。

 芋野さんに事情を話しておけば大丈夫だろう。


「じゃ、今度は私のほうを手伝ってくださいね」


 港がおずおずと加川姉にそう話しかける。

 

 そうそう、メインは彼の会社のパーティだった。

 忘れちゃいけない。


「もちろんよ。さあ、リハーサル始めましょう。あ、でもまだ舞台が整っていないわね」


 加川さんはそう答え、舞台のほうを振り返る。するとスタッフの一人でアルバイト風の青年が慌てて作業を始めるのが見えた。


 見とれてたんだ。

 確かに可愛いもんね。

 本当罪な人だ。

 

 芋野さんも気苦労たえないだろうな。


 でもあのハンサムぶりなら、つりあって問題はないか。


 私とは違うもん。


 ふと私は気持ちが暗くなる。

 美形と一緒にいると、周りの視線が痛い。

 でも美形に憧れるんだよね。


「安田さん?」


 じっと見つめ、そんなことを考えていたら、加川姉が訝しげにそう聞いてきた。


「ああ、なんですか?」


 慌てて我に返り答える。


「安田さんのことは好きだけど、私はそういう趣味はないから。ごめんなさいね」

「?!」


 何を言われたのかわからず、ぽかんとする。

 すると港が笑い出した。


「な、何言ってるんですか。まったく!私が好きなのは武なんです」


 言葉の意味がわかり私は怒りを込めて、そう言う。すると港が笑うのをとめた。


 あ、今の失言?


 なんか青い瞳がすごく暗くなったけど……


「冗談に決まってるでしょ。安田さん。本当、面白い人ね。池垣さんの彼女だけあるわ」


 加川さんは声を立てて笑う。

 

 いや、面白いって。あなたに言われたくないです。

 っていうか、港がなんか落ち込んでるし……。


「あら、撫山さん? どうしたの? リハーサルでしょ? どこか痛いの?」


 デリカシーのない、というか不思議ちゃんの姉は港にそうたずねる。


「いいえ、大丈夫です。リハーサルですね。舞台がまだ整っていないので、上の部屋で打ち合わせをしましょう」


 港は気を取り直すと微笑んだ。


 む、無理してる。

 でも、うーん。フォローできない。

 だって、やっぱり気になるのは武だもん。


 だいたい、なんて港は私が好きなんだろう。

 やっぱりおかしいよね。


 フランスでやっぱり頭のネジを落としてきたんだ。


「眞有」


 そうだ、そうだと勝手に納得していると、港がその青い瞳を私に向けた。

 心臓がドキリとして、鼓動が早まる。


 うう、やっぱり綺麗だ。

 綺麗過ぎる。


「眞有も一緒にきてくださいね」

「え、はい?」


 必要ないと思うけど?


打ち合わせは私なしでも問題ないはずだった。

だいたい、フランス語わかんないし。


 しかし、来てくださいと言われ、断る理由はない。

 もしかしたら舞台とかで変更があるかもしれないし。


「眞有」

 ついてこない私に港が来るように手招きをする。

「はい~」


 私は作業をしているスタッフに何かあったら携帯電話に連絡くれるように伝えると、美しい二人を追って会場を後にした。


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