8-1
「眞有」
名前を呼ばれ顔を上げる。すると武が愛しげに私を見つめ、髪を優しく撫でていた。
そうしているうちに彼は私を抱きしめる。その端正な顔が近づき、自然と目を閉じる。するとふわりとキスが落とされた。
「眞有」
名を呼ばれ、再び目を開けると、そこにいたのは青い瞳に金髪の美しい男だった。
リリリリーン
がばっと体を起こした。携帯電話が鳴っているのがわかる。胸がどきどきしていた。
なんで、撫山…さん…港が……
リリリリーン
動揺している私に構わず、携帯電話が鳴り響く。
ベッドから降りると、電話を取った。
「もしもし?」
「……俺だけど」
かすれた声でそう言ったのは武だった。
「ごめん。本当に。でも、眞有を好きなのは本当だから。説明しなくてごめん。本当……」
武は声を詰まらせる。
胸を突かれるのがわかった。
こんな風に苦しげな武の声を聞いたのは初めてかもしれなかった。
「……武。私はあんたに振られてすごく傷ついた。でも……」
そう口にしながら、なんて言っていいか、わからなかった。
胸に痛みが走る。
武になんと言葉をかけていいか、わからなかった。
「眞有……」
私達はそれ以上言葉を発せられなかった。
何を言うべきがわからず沈黙が訪れる。
「池垣さん、電話をかしてください」
沈黙を破ったのは港で、遠くから彼の声がした。
「眞有。このまま池垣さんが結婚するのは、私も納得がいきません。何か対策があるはずです。それを考えましょう」
「……うん」
「そうですよね、池垣さん。あなたもこのまま、結婚してもいいんですか?眞有へのあなたの気持ちはそんなものなんですか?」
「そんなことはない。俺は眞有が好きだ。あんたには負けない」
「なら、何か考えてみてください。じゃ、眞有。そういうことで、私の推測はあたりです。あなたはゆっくり休んでください。あとは私と彼が話し合うことですから」
二人の会話が電話越しに聞こえ、最後に港がまとめて電話は切られた。
ツーツーと通話が切れた携帯電話を握り締める。
武が私を本当に好きだという事実は嬉しかった。
携帯電話を机の上に置くとごろんとベッドの上に横になる。
仕事から帰り、電話を待っていたらいつの間にか寝ていた。
昨日の無理がたたって体が疲れていた。でも頭が妙に冴え、眠れなかった。
リリリリーン
再び電話がなり、体を起こす。
「もしもし?」
覚えのない着信番号だと思い、電話に出る。
「安田さん。私です、永香です」
それは加川くんの姉だった。




