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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 7  美しい友人
33/50

7-4

 明後日はいよいよ、パーティーだった。

 今日は確か彼の会社と、当日の景品と招待客に配る品物の確認のため、打ち合わせが入っていた。

 でも時間は確か、午後三時……


「何、食べますか?」


 彼の事務所下の喫茶店で、彼の向かいの席に座っていた。

 断れない雰囲気で昼食に誘われ、ここにきていた。


 昨日吐いたしね。

 勝手に部屋も出たし。


「あ、撫山さんは何食べますか?昨日ご迷惑をかけた分、今日は私がおごりますから」


 メニューを彼に見せる。


「迷惑なんて。本当、眞有さんはわかってませんね」


 彼は苦笑しながら、私からメニューを奪う。


「私は迷惑なんて思ってことはありません。今朝だって泊まっていってくれればよかったのに」

「いや。それはさすがに」


 彼の言葉に甘えていたくなかった。


「本当、眞有さんは強情ですよね。でもそこがあなたの魅力なんですけど」


 青い瞳が太陽に照らされた海のように煌めく。


「撫山さん。すみません。私は……まだ武が好きなんです。振られてなさけないですが。だから、これ以上優しくするのはやめてください」

「眞有さん……」


 私の言葉に彼の瞳が曇る。


 傷つけた。

 でも私はこういう風に流されるのは嫌だ。

 彼にはもっとふさわしい人がいるはずだし。


「……本当、あなたは……」


 撫山さんは自虐的な笑みを浮かべ、目を閉じる。眉が痛みを答えるように寄せられた。


 沈黙がながれ、彼が目を開いた。


 その青い瞳は悲しげな色だった。 


「眞有さん、私はやはりあなたが好きです。だから幸せになってほしい。本当のことをいいますね。言いたくなかったのですが……」

 彼は肘を机につき、手を重ねた。そしてその青い瞳に暗い影を落としたまま私を見る。

「昨晩……私に連絡してきたのは池垣さんです。木村さんのお店で飲んでるあなたの面倒を見てほしいと電話してきました」

「?!」

「……最初は悪い冗談かと思いました。でも彼の声が真剣で……。どうやら、彼は何かトラブルに巻き込まれたみたいですね。今朝ちょっと調べてみました。そして、わかったことがありました。本当はあなたに話すつもりはありませんでした。この隙にあなたの弱った心に付け込もうと思ったんです。でも……しょうがないですね」


 彼は悲しげに笑う。

 でも私はそんな彼の様子よりも、武が私のことを想ってくれていたという事実が泣ける程うれしくて、そのトラブルが知りたかった。


 そんな私に撫山さんは心底がっかりした表情をみせる。しかし、彼は持ってきた鞄から折り曲げた紙を取り出し、私に見せた。


「玲美さんのお父様の会社が、池垣さんの実家のお店に立ち退きを命じたみたいですね。どうやらそこにホテルを建設するようです。しかし、池垣さん側は抵抗しているようです。でも分が悪く……。多分、玲美さんはそれを利用して、池垣さんに結婚を迫ったんではないでしょうか?」


 実家?

 そういえば、実家は小さな商店を開いてるっていってたっけ。

 進学を親から反対されて、大学から家に帰ってないみたいなこと言ってたような気がする。


「まあ、これはあくまでも私の推測ですが……。眞有さんはどう思います?私の推測、当たってると思いますか?」

「……わからないです。でも確かめたい」


 撫山さんは私の言葉にふっと笑う。


「そう言うと思ってました。今日の夜、打合せが終わった後、彼と会う約束をしてあります。あなたが直接会うと玲美さんに勘ぐられるので、私が代わりに確かめましょう。その場であなたに電話します」

「……ありがとうございます」


 彼の信じられないくらいの優しさに、思わず頭を下げる。


「眞有さん。私もそんなに優しい人間ではありません。交換条件というのは卑怯ですが一つ私からお願いがあります。聞いてくれますか?」


 交換条件?なんだろう?

 恐る恐る、頭を上げる。

 

 彼のきらりと煌く青い瞳が私を捉えた。


「私と友達になってください」

「?!」


 友達?!

 

 たぶん間抜けな顔をしていたと思う。


 予想外な言葉だった。

 私にとって彼はお客さんというより既に友達に近い関係だった。


 私は彼の真意を知りたくて、眉をひそめて彼を見る。


「おかしいですか?今更」


 すると彼はくすっと笑って、私を見つめ返した。


「私を名前で呼んでください。池垣さんを『たける』と呼ぶように、私を『みなと』って呼んでください」

「名前……、みなと……」

「そう」

 彼の名前をつぶやいた私に彼は満足げな表情を浮かべる。


 そうか。

 彼の下の名前ってみなとっていったんだっけ。

 でも仕事上、やっぱり名字で呼ばないといけないし。

 でも、これだけ親切にしてもらってるんだから、これくらいいいよね?


「わかりました、な…みなとさん」

「さん……、さん付けもいりません」

「え?」

「私は『みなと』って眞有に呼んでほしいのです」


 え、呼び捨て?

っていうか眞有って呼ばれたし。


「じゃ、交渉成立ですね。私は友達として、眞有に協力しますから」


 ちょっと変わった、優しい美形は、戸惑う私にそう言うとにこりと笑う。

 

 いいよね。  

 だって、協力してくれるし。 

 武のことだって、確認してもらえる。


 あの時の武、確かに何か言いたげだった。

 武のことがやっぱり好き。 

 だから、彼の真意が知りたい。


「さあ、眞有。あなたの問題が片付いた後は、私の仕事です。でもその前に腹ごしらえしましょう。先ほど眞有がおごってくれるって言ってましたよね?」

「え、ああ、はい」


 覚えていたんだ。

 

 目ざとい。

 これは経費で落とせないよね。


「私は、唐揚げ定食にします。眞有は何を頼みますか?」


 不思議な友情関係を結んだ美形はさわやかな笑顔を浮かべ、そうたずねる。


「じゃ、私はマカロニグラタンで」


渡されたメニューで最初に目に入った食べ物が、それだった。


「店員さーん」 


 撫山さん……違った、港は後ろを振り返ると大きく手を振る。


 美形なのに本当飾らないなあ……

 私はそんなことを思いながら彼を見つめる。


「どうしました?眞有?」 


 店員に注文し、私の視線に気づいた彼が顔を向ける。


「なんでも……」

 私は美しい友人から目をそらし、そう答えた。


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