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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 7  美しい友人
32/50

7-3

「あれ?」


 会社の入ったビルに入り、いつもどおり受付嬢の野田さんに挨拶をする。

 彼女は武をとられたと思っているらしく、彼が私を昼食に誘った日から冷たい。しかし、それはここ数日感じていたことで、いつもと変わらぬ彼女のツンとすました態度に違和感を感じた。


 いつもと同じ?


 今朝、必死に体を起こし、睡眠時間一時間の私は電車に乗った。電車の中で、眠気に負けそうになる私に発破をかけ、駅を出る。そして会社へ歩きながら、予想される好奇な視線に覚悟を決めていた。

 

 でも野田さんを始め、誰にも変な視線を向けられることはなかった。おかしいと思いながら、五階に上がる。そして廊下を歩き、企画実行部の部屋に足を踏み入れ、そのよどんだ空気に気がついた。


 いつもなら元気いっぱいのはずの加川くんが青白い顔をして、椅子に座っていた。部長と角木さんはまだ出社していない。芋野さんの姿も見えなかった。


「おはよう。加川くん。元気ないわね?」


 人のことなど構っているような余裕はないのだが、不幸オーラを出している加川くんをほっとけなかった。


 しかも芋野さんもいないし。


「安田さん!僕どうしたらいいんでしょうか?」


 目をうるうるさせて、子ウサギは私を見つめる。


 可愛い。


 状況も忘れ、その可愛らしさに目を奪われる。


「僕、もうだめです。どうしていいかわかりません!」


 子ウサギは可愛さいっぱい、そう言うと私に抱きついた。




「で、どうしたの?」


 ちょっと打ち合わせしてきますとメモを部長の机に置き、私は加川くんをつれ、近くの喫茶店に来ていた。

 温かいものがいいだろうと、彼が好きなホットココアを頼むと私は彼に向き合った。


「あの、姉さんが芋野さんと喧嘩してみたいで、昨日の夜から僕と口を聞いてくれないんです」

「………」


 えっと、単なる姉弟喧嘩?

 え、でも、芋野さんって言ったわよね?


「芋野さんも僕のメールに返事を返してくれなくて、やっとメールが来たと思ったら、今日は休むってことだけで……」


 そういえば、忘れていたけど、加川くん、うっかり口を滑らせて、武が永香さんとつきっていたこと話したんだっけ。

 それが原因で喧嘩?

 でも過去よね?


 まあ、芋野さんはショックなのか。

 しかもあの姉のこと、うまく説明してなさそう。


 本当、武って、最低だわ。

 でも、忘れられない。


「うーん、加川くん。君にできることは何もないわ。知らない過去も必要だけど、知ってしまったらしょうがないでしょ。あとは二人の問題。時間が解決するでしょ。君も大変だろうけど、しばらくしたらお姉さんも芋野さんも元に戻るでしょ」

「本当ですか?」


 運ばれてきたココアの入ったマグカップを掴み、加川くんが私を見上げる。

 

 可愛い……


 いや、そんなこと考えている場合じゃないんだった。


「多分ね」

「よかった~~。安田さんに話してよかったです」


 私の言葉に加川くんは微笑む。


「じゃ、次は安田さんの番ですね!」

「は?!」


 不意に元気になった加川くんに顔をしかめる。


「昨日遅くに撫山さんから電話ありましたよ。おかしな電話だったので、池垣さんに電話したら、なんか電話切られちゃいました。どうしたんですか?」


 こっちが聞きたいのよ、馬鹿!

 なんで、武に電話したのよ!


「安田さん?」

「私のことはほっといて」

 

 私の口調が冷たかったのか、加川くんははっとした顔をして口をつぐむ。


「会社に戻るわよ。もういいでしょ?」


 机の上に置いてある伝票を掴むと席を立つ。そして清算するためにレジに向かった。加川くんの何か聞きたそうな視線を感じたが、無視をした。



「安田。これよくできたな。ありがとう」


 パソコンに向かい来週締め切りの新しい企画に関する書類を作っていると、ぽんと肩と叩かれる。


「ま、いろいろあるだろうけど。お前はお前のままでいいからな」

「?」


 部長はひらひらと手をふって、部屋を出て行った。


 意味不明?

 なに?


 っていうか、もう訳わかんない。

 

 寝不足の頭を抱え、机にぽてっと顔を伏せる。

 部屋には誰もいなかった。

 お昼休みで、出て行ったようだった。


 お腹すいてない。

 食欲なんてあるわけないじゃない。


 とん、とん。

 

 ドアをたたく音がした。

 部屋のドアは閉められていなかった。ノックなんて誰がするんだろう?

 

 私は顔をしかめたまま顔を上げて、入り口を見る。


「撫山さん?」


 するとそこには昨晩ぎゅっと抱きしめられ、盛大に嘔吐物はお見舞いしてしまった金髪碧眼の美形が立っていた。


「こんにちは」


 美しい彼は艶やかな微笑を私に向けた。


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