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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 7  美しい友人
30/50

7-1

「安田さん、そろそろ帰ったほうがいいですよ」

「いや、まだ飲むもん」


 いやいやと首を横に振る。

 出されたカクテルがおいしくて何度もおかわりした。

 

 さすがに舌が回らなくなり、子供っぽくなり始めた私を心配し始め、木村さんはおかわりをくれなくなった。


「今日はとことん飲むの~。木村さん、おかわり!」

「駄目です」

「?!」


 木村さんの声ではないが、聞き覚えのある声がして、するりと私の隣の席に男が座る。


「な、撫山なでやまさん?!」

「こんばんは」


 驚く私に彼はにこりと微笑む。


「な、なんでここに?」

「……木村さんに電話をもらったんですよ」

「木村さん!?」


 顔を上げると、木村さんはそうそう、と頷いている。


 この二人、友達?

 知らなかったんだけど?


 でも私の酔って、使い物にならない脳みそは、そんなことどうでもよかった。

 飲む相手ができたと単純に喜ぶ。


「じゃ、一緒に飲みましょうよ!今日は私のお馬鹿な失恋記念です。おごりますよ~」


 ふふふと私が笑うと撫山さんは一瞬躊躇した後、笑い返した。


眞有まゆさん、お誘いは嬉しいですけど、明日も仕事ですよ。帰りましょう」

「え? なんで? 大丈夫、大丈夫。明日はしゃんとしてますから。撫山さん、お願い、飲ませて。飲まないと、死んでしまう。気持ちに押しつぶされちゃう」

「……わかりました。おつきあいしましょう」

 

 泣きそうな私に彼の青い瞳が注がれる。


 ああ、きれいな色。

 今日はなんだか海の色に見える。


「木村さん。ビールありますか?ください」

「……はい」


 木村さんはにこりと笑うと、背を向けて準備をし始める。


眞有まゆさん、今日はとことん飲みましょう。私がお付き合いします」

「本当ですかあ?ああ、嬉しいなあ。こんな綺麗な人と飲めるなんて天国みたいですよ~」


 はははと私は笑う。

 なんだが鼻がつんとして、視界が揺れ始める。


 まずい、なんで私。

 こんな最悪。


 木村さんのハンカチで目頭を押さえる。


「ははは。私、酔うと泣き上戸なんですよ」


 馬鹿な私はしゃっくりをしながらそう口にする。


 馬鹿な私。

 武に本気で好かれたなんて思っちゃって。

 ありえないわ。


 自分が滑稽に思える。


眞有まゆさん」


 そう呼ばれ、彼が私を抱きしめたのがわかった。


「撫山さん!」

眞有まゆさん、無理しなくてもいいんですよ。泣きたければ私の胸を貸しますから」

「そんな、そんなこと」


 彼から伝わる優しさに私の心がほぐされる。


 でも、こんなのよくない。


「大丈夫です。襲ったりしませんから」


 くすっと茶目っ気たっぷりに囁かれて私は笑う。


「面白いこといいますよね。撫山さんは」


 彼の胸を押す。


 いつの間にか酔いが醒めてきていた。

 彼の優しさに頼り、つぶれた心を一時的にも癒してもらうこともできる。

 でも、そんな関係、嫌だった。


「撫山さん、帰りましょう。明日もいろいろ大変ですから」

「……そうですね」

 


「タクシーで送ります」

「そんなの、いいです」

「駄目です」


 撫山さんはぐいっと私の肩を掴むと、タクシーに乗り込む。


「中野町に行ってください」


 一回しか来たことないはずなのに、彼はそう私の家の住所を運転手に伝える。そしてタクシーは走り出した。


「覚えてるんですか?」

「でも番地があやふやです。近くまできたらよろしくお願いしますね」


 隣に座る撫山さんは金色の髪を揺らしながら笑う。


 ああ、なんて綺麗な人だ。

 窓から差し込むネオンの光が、髪に輝きを与える。

 

 私はその輝きを見ながら、いつの間にか眠りに落ちていた。


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