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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 1  可愛い後輩
3/50

1-3

「よいっしょ」


 たけるはそう言うと加川くんの体をベッドに横たえる。

 彼はむにゃむにゃと言葉のようなものを口にし、寝返りを打った。その顔は天使のように可愛らしい。


「これがお前の可愛い後輩か」

「そう」

「ラブホに連れて行ったらよかったのに」

「誰が、そういう既成事実を作るのは嫌いなの」

「ふーん。こんな可愛い奴と寝る機会なんてもうないかもしれないのに」

「うるさいわね。じゃ、ごめん。加川くんをよろしく」


 私は逃げるように、彼に背を向けたが、彼の声が私を止める。


「帰るのか?! 冗談だろう? お前の後輩だろう? 朝まで責任とれよな」

「……わかったわよ」


 仕方ない。確かに私の後輩で彼には関係がない。一緒にいたくないけど、かといって加川くんを私が連れて帰れるわけがないし。

 私は溜息をつくと、ソファに座りなおした。


 たまたま同じ居酒屋にいたたけるに加川くんを泊めてもらうように頼んだ。彼はしぶしぶだが同意して、タクシーで一緒にマンションまでやってきた。


 私は無責任だと思いながらも、加川くんを置いて帰るつもりだった。

 だって、彼の部屋に二人っきりじゃないとしても、とても居辛い。

 だけど、そんなの自分勝手で、私はすぐに帰ることを諦めるしかなかった。


「何か飲む?」


 彼はどかっとソファの横に座るとその涼やかな顔を向ける。その黒い瞳が私を捉える。汗が背中を伝わるのがわかった。


「うん。お茶か何かある?」

「ウーロン茶がある」

「じゃ、お願い」


 彼はソファから腰を上げると台所へ歩いていく。

 安堵しながら、その背中を見送る。私を見つめるたけるの瞳、あれは明らかに誘ってる感じだった。


 セフレだけは避けたい。しかも加川くんがいる部屋でなんて。


 そうか、寝たふりをしてみよう。


 寝た人間を襲うなんて鬼畜なことはしないだろうと私はソファで横になる。寝た振りのつもりが体は疲れに正直で、いつの間にか私は意識を失っていた。


 気がついたのは唇に当たる感触だった。


「!?」


 私はぎょっとして目を開く。すると暗闇で目をきらきらと輝かせるたけっるの顔がそこにあった。


「な、何してるのよ! 馬鹿!」

「キス。だっておいしそうだったから」

「おいしそうって。ふざけないでよ。なんで寝込みを襲うのよ。馬鹿!」

「だって、起きてたら絶対に無理だろう。ずっと誘っていたのに眞有まゆはいつも断るから。でも今日はいいだろう?」


 たけるはそう言ってもう一度キスをする。 

 私は必死に手をつっぱねて抵抗を試みる。しかし、その手は彼の手に掴まれ、体をソファに押し付けられる。


「!」


 言葉を発しようとするが、たけるはそれを許さなかった。


「あ。あれ?」


 間が抜けた声が聞こえ、たけるの力が弱まる。私はその隙にするりと彼から離れた。


「安田さん?あれ、僕?」


 声の主は加川くんで、お酒が抜けたらしく、通常の彼のモードに戻っていた。


 よかった。

 へんな誤解してるかもしれないけど、助かった。


「加川くん、えっとこっちは私の大学の時の友達で、池垣いけがきたける。酔っ払ってる君をどうしていいかわからなかったから彼の家に連れてきたのよ。もう大丈夫? 家まで送るわ。家どこ?」


 私はたけるから逃げるように加川くんに近づきそう説明する。彼はすこし驚いている様子だったが、私に答えた。


「家は山野町です」

「ああ、私の家の近くだわ。一緒に帰りましょう。たける、ありがとう。またね」


 私は戸惑う加川くんの腕を掴むと、一刻も早くこの場を去りたくて玄関へ早足に向かう。


眞有まゆ!おい、ちょっと」


 たけるが追いかけてくるが私は加川くんの靴と自分の靴を持つと、玄関を出て扉を閉めた。


「安田さん?」


 扉を彼が開けることはなかった。

 状況が読めず、扉の外で顔をこわばらせる加川くんに私は笑いかける。


「ごめん。帰りましょう」


 私は後輩の腕を放すと、足元に靴を置く。


 加川くんは何か言いたげな表情を浮かべたが、何も言わなかった。そうして私達は無言でタクシーに乗り、家に帰った。


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