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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 6  Sweet dreams
25/50

6-1

眞有まゆ

「待って!」


 シャツのボタンに手をかけた武の手をつかんだ。


「ダイエットするまで待ってて」

「なんだよ。それ!」


 せっかくのいいムードだった私逹はとたん、元の友達モードに戻る。


「だって、お腹ぶよぶよだし。ちょっと見られるのが嫌」

「だったら電気消せばいいだろう」


 武は大げさに肩をすくめ、ソファから体を起して電気を消そうとした。


「嫌、頑張ってダイエットするから。待ってて」


 彼氏、彼女になってから3日目、武に断れない状況で誘われ、彼の部屋で飲んでいた。すると武がキスをし始め、そのうち……気がついたらソファに押し倒されていた。


 気持ちよさに頭が蕩けるチーズのようになっていたが、ふいに嫌な考えがよぎる。


 本当に好きなの?


 それは新しい関係を始めてから、ずっと付きまとっている疑問で、何度好きだと囁かれても解けないものだった。


「ダイエットなんていいのに。俺は柔らかい方が好きだから」


 私の言い訳に、武は色気たっぷりにそう返し、深くキスをする。

 

 付き合うようになり、たった三日だが武は変わった。頻繁にメールをくれるようになり、私に事あるごとに触るようになった。友達だったころは肩を掴まれても何も感じなかったのに、今はその手に触れられるだけでどきどきした。


 でもそんな気持ちの中、踏み切れないでいた。


「なあ、眞有まゆ。だったら、服着たままでいいから」


 首筋をぺろりと舐められ、ぞくっとする。

 その目は獲物を見る豹か、なにかの野生動物のように鋭い。


「着たまま?!」


 ぎょっとすると、彼はぺろりと唇を舐める。


「うん。その方がそそられそう。オフィスで愛を確かめ合う男女ってシチュエーション。どう?」


 どうって!

 エロい!エロすぎる!

 その思考に眩暈を覚えた。


 いや、だめ。

 このまま流され抱かれたらまずい。

 

 理性的な私は彼の腕の下から逃げ出す。


眞有まゆ


 武はすこし責めるように私の名を呼んだ。


「だめ、ダイエットしてから」

「頑固だなあ」


 彼は大きな溜息をつくと髪をすくいあげ、ソファにどかっと座る。その仕草が何だがぞくぞくするような色気があり、私は思わず顔を背ける。


 うわあ。なんか武って、馬鹿みたいにフェロモンたっぷりだ。


 その反応を見て彼がにやっと笑った。


「俺は眞有まゆの今が見たいのに。きっとベッドの上のお前は全然違うはずだし……」


 彼は熱を帯びた視線を私に向ける。


 このエロめ。


 そう思ったところで、ふいに携帯の鳴る音がする。


「誰から?」


 鞄から携帯電話を取り出した私に武がそう問う。


「誰でもない。アラームセットしてたの。時間忘れるとまずいから」

「ふーん」


 彼は府におちない顔をしたけど、実際アラームなのは本当で、嘘じゃなかった。


 だいたい、電話だったら電話だって言うし。

 嘘ついてもしょうがないじゃない。


「じゃ、武。私、今日は帰るね」

「え、帰る?なんで?」


 鞄を持った私に、武は眉間に皺を寄せるとソファから立ち上がる。


「明日は朝から打合せがあるから早く帰りたいの」

「……それって撫山の?」

「うん」


 彼が目を細めて私を見つめる。


「……行くな」

「?!」

「行くなって言ったら?」

「無理に決まってるでしょ」

「冗談だよ」


 彼はクスッと笑うと腕を組む。しかし目はなんだか笑ってなかった。

 おかしな様子に私は首を傾げる。


「今度来る時は着替えもってこいよな」


 そう言った武はいつもの彼で、ほっとして頷く。




「じゃ、明日こそは帰さないから」


 駅まで送ってくれた武は改札口を抜けようとする私に囁く。


「?!」


 真っ赤になった自分に、彼はしてやったと微笑んだ。


「またな」


 甘い、甘い……

 武がエロくて甘くて堪らない。


 電車の中で私は顔が緩みそうになるのを必死で堪える。


 なんて幸せなんだ。

 私……


 でも、理性的な私はそんな甘い一時の中でも「信じていいの」と私自身に問いかけていた。


 彼の甘い言葉はもう何十人の女性に囁いてきた言葉だ。

 

 特別ではない。


 抱かれてしまったら、もう終わりかもしれない。

 武に飽きられて捨てられるかもしれない。


 その考えに至り、私の幸せな感情は一気に萎む。


 電車は、家の最寄り駅に到着しようとしていた。


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