5-1
「眞有さん、それじゃ、また明日」
結局私達はそれから店を出た。
どこか行きましょうかという撫山さんの提案に首を横に振り、帰ることを選んだ。
このまま、彼と一緒にいたら流される様な気がした。
彼の優しさに甘えてしまいそうだった。
撫山さんの指は私の悲しい涙を拭ってくれ、彼の空のような瞳は私を気遣ってくれた。
でも気になるのは奥で楽しげに飲み続ける武の様子だった。
なんて私。
こんな超美形が目の前にいて、こんなに優しくしてくれるのに……
あんな奴の方が気になるなんて。
何か言いたげな撫山さんに手を振り、改札を抜ける。
電車に乗り、輝くネオンを見つめた。
青い光は撫山さんの瞳を思い出す。
優しい光を放つ彼の瞳、太陽のように輝く美しい彼の髪……
それでいて月のように穏やかな彼……
頼ってしまえばいい。
彼の腕に身を任せれば、もう傷つくこともない。
でも彼の手を取れなかった。
武への想いを捨てることができなかった。
溜息をつくと、電車を下りる。
鞄の中でうなり声をあげる携帯に気がつき、足を止めると鞄の中を探る。
「武?」
それは武からだった。
もしかして気にしてる?
どきどきしながら、電話に出る。
「もしもし」
「……眞有。今、邪魔か?」
「邪魔じゃないけど」
平静を装ってそう答える。
「まだ彼と一緒にいるのか?」
「……だったら?」
賭けのようにそう口にする。
彼の反応が見たかった。
私のことを少しでも好きであれば、何か言ってくれると思った。
これが最後の賭けだった。
「そうか。邪魔したな」
しかし武はそれだけ言うと電話を切った。
ツーツーと通話音だけが電話口から聞こえる。
「ふっ、うっ、くっ…」
とたん、笑いと共に涙があふれてきた。その場に立ち竦み、携帯電話を持った手を下ろす。
馬鹿な私。
期待しちゃってさ……
本当馬鹿だ……
私は泣いてるのか、笑ってるのか、わからない声をあげて泣き出す。
声を上げないと気持ちに押しつぶされそうだった。
胸が痛かった。
馬鹿な自分がおかしくて、惨めで可哀想だった。
翌日、休みをとった。
撫山さんのパーティが一週間後に控えている今、そんな余裕はないのだが、無理やりとった。こんな状態で誰とも会いたくなかったし、会社に行っても仕事ができるとは思えなかった。
母は私のひどい顔にゆっくり休みなさいと、何も聞かなかった。
洗面所に行き、顔を見ると、目の周りに隈ができ、唇がかさかさ、髪がぼさぼさでひどいものだった。とりあえず、気持ちをしゃんとさせようとシャワーを浴びる。
シャワーから浴びて、気持ちが少し落ち着いたところでドアベルが鳴った。
「母さん~。出てよ!」
そう叫ぶが反応はなく、溜息をつくと玄関に歩いていく。
「はい~。どちら様ですか。?!」
がちゃっとドアを開けるとそこにいたのは美しい男、撫山さんだった。