表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 4  美しき友情
18/50

4-3

「加川くん!」

「な、なんですか?」 


 部屋に入ってくるなり、私が怖い顔をして名を呼んだので可愛い後輩が身構えたのがわかった。


「噂広めたのは、君だってね」

「……違いますよ!僕はただ嬉しいニュースだったので、みんなに知ってもらいたいといろんな人に話しただけなんです」


 その行動が噂を広めるって行動なの!


 脱力しながらも、噂を消そうと作戦を練る。

 これはやはり一人びとりに否定していくしかないわね。


「加川くん、本当は首に紐つけて引きづり回したい気持ちだけど、みんなに噂はデマでした、すみませんと謝ってきたら許してあげるわ」

「本当ですか?」

「ええ」

「じゃ、今からしてきまーす」


 色よい返事をすると加川くんは手を振って部屋を出て行く。

 数時間後、状況が前よりひどくなるなど考えてもいなかった。



「やっぱりねぇ。そんなわけないんだよ」


 昼食を食べにいこうとビル内を歩いているとそんなひそひそ声が聞こえた。


 失敗した。


 自分に浴びせられる非難の視線を感じながら、加川くんに命じたことが失敗だったことがわかった。


 付き合っていると思われた方がましだったかも。


 視線に耐えられなくなり、俯く。

 するとふいに隣に誰か近づいてきて、私の腕を掴んだ。


「!」

 誰だと思って顔をあげて、その姿に驚く。

 それはブランドもののスーツに身を固めたイイ男、池垣いけがきたけるだった。




「救世主登場だろ?」


 会社近くの喫茶店に入り、メニューを広げながら、たけるはにこっと笑う。

 昨日会ったばかりだが、昼間見るたけるは仕事モードのためか印象が異なった。


「なんで来たの?」

「確かめたいことがあって」


 彼はふふんと笑ってそう答える。


「それにしても、お前馬鹿だなあ。広まった噂がデマだったなんて、友亜貴に言いふらさせるなんて」

「!なんでそんな細かいこと知ってるのよ!」

「知りたい?」

「……別に」


 日の光に照らされたけるの黒い瞳が茶色に輝く。それを見てドキドキした自分が嫌で私はぶっきらぼうに答える。


「つまんないな。友亜貴に聞いたんだよ。あいつ、永香と同じですんごい面白いな」


 くすくすとたけるは子供のように笑う。


 友亜貴って、加川くんとたけるはいつの間にそんな仲良くになったんだろう?

 首を捻りながらも私はふとお礼をするのを忘れていたと気がつく。


「とりあえず来てくれてありがとう。あの時、たけるが来なかったら私、多分動けなかった」


 美形に身の程も知らずにアプローチした馬鹿な女という視線が痛かった。

 昨日で懲りていた視線、今日浴びたのはさらに痛い視線だった。


 長年、美形に焦がれ告白してきた。この会社に入ってからはさすがに面と向かってアプローチしないから、噂とは無縁だった。

 だから今日の視線はかなり痛かった。


「本当、お前って不器用な女だよな」


 たけるは溜息交じりにそう言う。


「悪かったわね」


 ふんと鼻を鳴らす。

 噂を早く消したくて加川くんに頼んだらもっとひどいことになった。馬鹿だなと私自身でもわかってる。


「でも、キスされたのは本当なんだろう?」


 武がふいに笑みをやめ、その瞳をまっすぐ私に向けた。その瞳は射る様な鋭さで見返すことができず、俯く。


「……うん」


 不思議な雰囲気が流れた。

 たけるが私を見ているのがわかる。


 もしかして気にしてる?

 どんな表情をしてるか、気になり確認しようと顔を上げる。


「ご注文御決まりでしょうか?」

 

 しかしそう声がしてたけるが店員に顔を向ける。おかげで彼の表情はわからなかった。


「えーと、俺はこれだ。カレーライス」


 いつもの調子で彼がそう注文し、落胆と共に安堵を覚える。


「カレー? それでいいの?」


 笑いながらそう口にする。


「ああ。お前もカレーにしたら? 時間もうないんだろう?」


 そう言われて、私ははっと腕時計を見る。

 昼休み終了まであと二十分しかなかった。


「じゃ、私もカレーで」


 そう慌てて注文すると店員がぺこりと頭を下げてキッチンに走っていった。


「時間ってあっという間に過ぎるのね」

「俺と過ごす時間だろ?」


 彼はにやにや笑いながらにそう言う。


「そんなわけないでしょ。馬鹿。昼休みが短すぎるの。で、あんたの用事なんだったの?」

「……忘れた」

「……信じられない」

「俺もだ」


 その答えになんだかおかしくなって笑いだす。するとたけるも一緒になって笑いだした。

 そうして私達はカレーを食べる時間がなくなりそうなくらい笑って、別れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ