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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 4  美しき友情
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4-2

 昨晩、加川さんをどうにか説得し、テクニックなんていらない普通で大丈夫だといい、たけると寝ることを留まらせた。その上、誰かを好きなら他の人とデートしたり、寝たりしたらいけないと一般常識を教えた。


 加川さんはわかったようで、素直にうんうんと頷いていた。


 これで一件落着?


 朝から脱力しつつ、電車から降りて、会社に向かう。

 そして会社の入っているビルに足を踏み入れ、異変に気がついた。

 人々の好奇の目が私に注がれていた。


 立ち止まり、今日の格好がおかしいのかスカートのジッパーが開いているのかと確認する。


 しかし何でもない。


 首をひねりながらも、会社のある五階に上がった。


「安田さん。おめでとう!」


 廊下がすれ違い様に、軽田かるたさんが祝ってくれた。


 おめでとう?

 何のお祝い?


 意味不明だなと思いながら質問しようとしたが、軽田さんは会計部の部屋へ入っていってしまった。


「安田さん!」


 会計実行部に入ると、可愛い兎が飛び出してくる。


「おめでとうございます!」

「な、なんなの?」


 この子まで。

 加川くんは目をキラキラさせて私を見ていた。その近くでは男前の芋野さんが穏やかな笑顔を浮かべ、部長と角木かどきさんはちらっと私に目線をくれ溜息をつく。


 なんなの?

 これは?




「え!誤解。誤解よ!」


 数分後、興奮した可愛い後輩に『撫山なでやまさんとお付き合いし始めたんですよね』と言われ、事態を把握した。


 昨日何にも言われなかったから、安心してたけど、やっぱり見られてたんだ!

 人の口に戸は立てられぬというのは本当よね。


「違うんですか? でもキスしてたって聞きましたよ」

「た、確かにキスはされたけど。ほっぺただし。他意はないのよ」

「え~~! そうなんですか? 池垣いけがきさんともキスしたし、安田さんって結構誰とでもキスできるんですね~」

「失礼な !どっちも自分からじゃないの!」

「……お前、そんなにキスされてるのか?」

「だから、違います!」


 優しい先輩に驚いた様子で言われ、焦って否定する


 まったく、なんで、こう誤解されないといけないのよ!


「安田」


 真っ赤な顔で後輩と先輩の前で突っ立ってると部長からひやりと声をかけられた。


「部長」


 私は顔を引きつらせたまま、部長の方を見る。部長は五十歳近くで会社設立当時からいるメンバーで社長の友人。結婚はまだしておらず、俺は一生独身と言って毎晩飲み歩いているような人だった。


「副社長が呼んでいる。ついてこい」

「はい」


 うわ。この噂のせいかなあ。

 まずいなあ。だってお客さんだし。


 私は、いつもと違いきつい表情をしている部長の後ろで、びくびくしながら副社長室に向かった。

 


「安田さん。座って」 


 部屋に入るとソファに座っている副社長に向かいの椅子を勧められた。

 相変わらずばっちりメイクで魔女のような女性だった。


「用件はわかってるわね」


 青いマスカラを色濃く塗った目で凝視される。


「はい」

 

 なんだろう。

 叱られるだけで済めばいいけど。

 減給とか?

 

 うわああ。


 俯いて彼女の言葉を待つ。

 すうっと副社長が息を吸ったのがわかった。部長は壁に寄りかかり様子を見ているようだった。


「おめでとう! あなたならしょうがないわ。六年も彼氏がいなかったもののね。撫山なでやまさんとは羨ましい……蹴り飛ばしたい気持ちだけど、しょうがないわね」

「?!」


 顔を上げると、魔女は優しい微笑をたたえていた。


「あなたのことはずっと応援してたわ。なんでいつもこう美形に弱いのかしらと思ってたけど。ついに念願かなってよかったわね!」

 

 えっと、なんですか?

 

 何とコメントをすれば……。

 いやいや、そもそも付き合ってないし。


「副社長。変な噂が流れているみたいですけど。あれは噂にすぎないんです。撫山なでやまさんと私はそんな関係じゃないんです!」

「そうなの?」

「はい」


 沈黙が流れる。


「だったら、そんな変な噂が立つような行動は慎みなさい。わかりましたね!」


 さっきまで笑顔だった彼女は、表情を変えるとそう言う。


「は、はい!」


 その迫力にたじろぐしかない。

 反射的に返事をしてしまった。


「じゃ、もう仕事に戻っていいわ。なんだかつまんないわね」


 いや、つまんないって、副社長。

 しかし、副社長相手につっこみを入れるわけにもいかず、そそくさと部長に続き部屋を出た。



「本当か?」


 部屋を出ると部長に真顔でそう聞かれる。


「え? なんですか?」


 私はなんのことがわからず、立ちどまりその背中にたずねる。


「昨日、撫山なでやまさんにキスされていただろう?私はてっきり君達が付き合ってるものと思ったのだが…」

「……部長!見てたんですか?」

「ああ、角木かどきとな。あれはどうみても恋人同士に見えたが……誤解だったとはなあ」

「部長!部長がみんなに話したんですね!」

 

 だから噂が広まるのが早かったんだ!


「違うぞ。角木かどきが今朝誤って加川くんに話してしまってな……」

「!」


 元凶はやはりあの子か……


 私は天真爛漫な加川くんの顔を思いだし、眩暈を覚える。


「まあ。悪い噂じゃないしな。あれくらいの美形だ。まあ。噂が本当になればいいんだけどなあ。副社長も言ってたが私も君に彼氏の気配がなくて心配してるんだ。うまくいくといいな」

「うまくいくとか、いかないとか。そういうのじゃないですから!」

 

 そう答えると部長の側を通り過ぎ、企画実行部に急ぐ。


 とっちめてやるわ。

 それともあんたが童貞ってことを仕返しに広めてやろうかしら!


 今日こそ加川くんの、あの天然ぶりをどうにかしようと、周りの人がぎょっとするのも構わず足を速めた。


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