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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 4  美しき友情
16/50

4-1

 美女と野獣……

 言われちゃったなあ。


 事務所に戻ってきた私に加川くんと芋野さんが何か言いかけたが、ぎろりと睨むと何も言わず席に戻った。


 ああ、ショックだ。

 キスされたよりも人にそう言われた方がショック……


 やっぱりそうなんだよね。


 武と一緒に飲み始めるようになり、そういう視線も気にしないようにはなっていたが、今日のは痛かった……


 ああ。

 心が痛い。


 だけど思い悩む暇もなく、撫山なでやまさんの企画以外にも他の案件が迷い込み、時間はあっと言う間にすぎた。

 気がつくと企画実行部には私一人になっていた。


 やられた……

 しかし、送られてきた会場のレイアウトを今日中に確認して撫山さんに送った方がいいし……もう少し頑張る……


 そう決めて仕事を終えて時計を見ると午後八時を過ぎていた。


 疲れた……


 なんか精神的疲労が激しい。

 早く帰って寝よ。


 重い体を引きずると部屋を出て、エレベーターに乗り込む。

 いつも通り会社のビルを出て、駅に向かって歩いているとふと黒基調のおしゃれなバーが右手に見えた。大きな窓が道沿いに設置されており、人々が楽しげに飲む様子が窓越しに見えた。

 

 こんな店あったっけ?


 興味本位で中を覗き込む。

  

 すると背が高いハンサムな男と小柄な可愛い女がカウンターで話しこむ様子が視界に入った。


たける?加川さん?」


 なんであの二人が?

 終わったんじゃないの? しかも加川さんは芋野さんと?


 じっと再度二人の様子を見る。二人は隣同志に座り顔を寄せ合い、親しげに話をしている。絵になる感じでどう見ても恋人同士の雰囲気だった。


 信じられない~!


 お昼から帰ってきて、ちょっと浮かれた様子の芋野さんの様子が頭をよぎり、怒りがこみ上げて来る。


 やっぱり遊びなんだ。

 本当、信じられない。

 だいたい、たけるの奴も節操がなさすぎ。


 文句言ってやるわ!

 美形だからって何でも許されるわけじゃないんだから!


 私は拳を固めると、ずんずんとその店に近づいた。




「あれ? 眞有まゆ?」

「安田さん?」 


 私の顔を見て二人が顔を上げる。


「ちょっと話があるんですけど」


 そう切り出し、私達はカウンターで話し合うことになった。


「じゃ、眞有まゆはいつもの甘いのな。スプモーニとかでいい?」

「うん」


 むっつりした顔でうなずく。

 二人の美形に私の怒りは通じることはなく、なにやら二人の間に座らされた。

 美形に囲まれて何だか周りの人の視線が痛かった。

 でもそんなことに構っていられなかった。この二人がしっとり会っていたことが許せなかった。


「加川さん。今日芋野さんとデートしてたんじゃなかったんですか?」


 怒りをあらわに、加川さんを睨む。

 彼女は長いくるくる睫毛の目を大きく見開くと、ぱあと顔を赤くした。


 えええ?


 その反応に私のほうが驚く。


「知ってるのね。そうよね。同じ会社だものね」

「はあ」


 可愛い女性がさらに可愛い反応を見せるので、怒りを忘れ戸惑ってしまう。横ではたけるが面白そうに笑っているのがわかった。


「加川さん、芋野さんは優しい誠実な人なんです。彼を弄ぶのはやめてください!」


 怯んでしまった自分を勇気付けると、再び厳しい視線を向ける。


「弄ぶなんて、そんな。ひどい」


 私の言葉に加川さんは心底傷ついた顔をした。


 えっと、なんか私がいじめているみたいだけど?


 気がつけば周りの人々がちらちら私達をみてるのがわかった。


 私はいじめてるわけじゃないんです。

 だって、この人、二股かけてるんですよ!

 そう叫び出したいのを堪え、加川さんを見つめる。


 加川さんは何やら悲劇のヒロインのような雰囲気を醸し出していた。


 この人、本当に傷ついているの?

 ってことは芋野さんには本気ってこと? 

 でもそれなら、なんでたけると会ってるのよ!


 やっぱり絶対遊ぶ気なんだ。


「加川さん、そんな演技をしても騙されませんよ。撫山なでやまさんだって、あなたによって傷つけられたんです。その上芋野さんまで傷つけたら許しません!」

「撫山さんって、あれは本当に好みじゃなかったもの。外人顔はだめなのよ。本当。でも芋野さんは私はずっと探し求めていた人なの。眼鏡を取ったのは残念だったけど、あの優しげなまなざし、奥手のところなんて、本当……」


 えええ?


 隣でうっとりする彼女をみて、私は目をぱちくりさせる。


眞有まゆ永香えいかは今回は本気らしいぞ。苦手な俺を呼び出してセックスの指南を求めるくらいだから」


 えええ?


 だから二人は会ってたの?

 でもなに? セックスの指南?

 ってことはやっぱりやるつもりだったの?


 混乱する私の前に木村さんがにこりと笑ってスプモーニを置く。ピンクの液体が綺麗で一瞬だが見とれてしまう。


 ああ、この店、木村さんの?


眞有まゆ? 大丈夫か?」


 いろんな情報が一気に頭に流れ込み、私の脳はパニックに陥る。


 これってどういうこと?

 芋野さんには本気?

 でも武を呼び出して事におよぼうとしてるの?


 意味わかんないよ。

 もう。


「安田さん。そうだ。いいこと思いついたわ。池垣さんに教わるのはなんだし、安田さんが教えてくれない? 芋野さんとはいい関係を築きたいのよ」


 混乱してる私の脳に加川さんの摩訶不思議なお願いが響く。


 やっぱりこの人変だ。

 芋野さん、

 こんな人と付き合っていいんですか?


 にやにや笑う武と懇願する加川姉の間に挟まれ、私はすっかり参っていた。

 おかげで昼間、撫山なでやまさんにキスされ、人々に野獣扱いされたことなど頭の片隅に追いやられていた。


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