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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 3  罪な美形たち
13/50

3-3

『ありがとうございます。ところで景品は決まりましたか?』


 午後六時、加川くんが修正し、部長に確認を取った台本を撫山なでやまさんの送るとすぐにメールの返事が返ってきた。


 忘れていたとはいえないよね。

 とりあえず芋野さんのおかげで旅行券予約できたし、他の景品も数日以内に購入することにして、後日連絡すると返事しておけばいいか。


 そう思って返信を返すと、彼からありがたい連絡が入る。


『こちらで考えているものがあります。明日会場設営の打ち合わせの際にお見せします』


 やった。

 これはいいかも。


『ありがとうございます。明日は楽しみにしてます』


 そう打って、短すぎかもと思ったが、そのまま送る。


 するとすぐにもっと短い返事が返ってきた。


『私もです』


 なんだろう。

 普通の意味なんだけど、嬉しい。


 ああ、やっぱり恋をしてしまったのかなあ。


 芋野さんと同じ、報われないだろうな。

 ああ、でも撫山なでやまさんは優しく断ってくれそうだけど。


 加川姉はなんかすごいこと言って断りそうだ。


 眼鏡は嫌いだとか言われたりして。


 あの可愛らしい口で恐ろしいことを言うのを知っている私は、今日嬉しそうだった芋野さんの姿を思い出す。


 やっぱり、忠告していたほうがいいのかなあ。

 芋野さんはいい人だから深く傷つきそう。


 私はそんな他人のことを心配しながら事務所を後にした。




 翌日、午前十時、会場が空いているということで、まずは会場設営にかかわるメンバー、音響、舞台設営の人達と会場を確認した。


 それから、撫山さんの事務所に行き、打ち合わせを始める。

 話はトントンと進み、昼食前にはお開きをなった。


「お疲れ様です。ありがとうございました」


 皆を見送り、机に広がったペットボトルを片付ける。撫山さんも一緒になって片付けようとするので慌てて止める。


「撫山さんは大事なお客さんなので、こんなことはしなくてもいいんですよ」

「そうですか?」

「そうです」


 美形にこんな仕事させるのはよくない。

 

 そんなあほなことを思いながら、ペットボトルを集め終わる。


 あとは中身を捨てたり、分別だ。


「そうだ。撫山なでやまさん、景品にしたいというものはどんなものですか?」


 ふと思い出し、作業の手を休めると彼を見つめる。すると彼は艶やかに笑うと棚から箱を取り出す。


「これです」


 箱に入っていたのはワイングラスだった。しかし、グラスは普通のものではなかった。カップの部分は花びらのようになっており、薄桃色だった。ステムと呼ばれる持つ部分は茎の部分を形どり美しい新緑の光を放っている。


「すごい、綺麗ですね」


 通常のワイングラスしか見たことなかったので、そのユニークで可愛いデザインに心魅かれた。


「そうですか?これは父が作ったものなんです」

「お、お父様が?!」

「ええ、私の父はガラス工芸職人なんです」

「ええ?!」


 撫山さんには悪いが、驚きで大きな声を出してしまう。


 きっとお父さんは撫山さん同様、美しい人なんだろうと想像ができた。それが職人だなんて……想像がつかなかった。


「父は亡くなった祖父に勘当同然の扱いを受けてました。だから、こうやって会社の手伝いができれば喜ぶと思うんです。どうですか?」

「……いいと思います。これは本当に綺麗なワイングラスです。きっと喜んでもらえると思います」

「そうですか?よかった。父も喜ぶと思います」


 彼は本当に嬉しいようでその美しい顔をいつもに増して輝かせて微笑んだ。




「で、なんで俺に電話?」

「だって、いいじゃない。どうせ今彼女いないんでしょ」


 その夜、またたけると飲むことにした。

 彼はしょうがないといいながら、家の外まで出てきてくれて、この前と同じ店で飲んでいた。


たける、どうしよう。好きになるかもしれない」

「……そのハーフの美形か?」

「うん」

「やめとけ。そいつは永香えいかが好きなんだろう?」

「…うん。多分。まだ」

「じゃ、無理だろう。やめとけ」


 たけるになぜそんなこと相談するのか。私もわからなかった。

 ただ、今日、撫山なでやまさんのあの笑顔をみて、心が揺れてしまった。

 

 昼食に誘われたが、仕事があると断り、会社にもどった。しかし、完全に仕事ができないくらい腑抜けになっていた。


「そうだよね」


 大きな溜息をつくと、グラスを持つ。


「今日は普通よね?」

「うん。いつのもやつだ」


 たけるの返事を聞くとぐいっとグラスを煽る。すると、苦い味が口の中の広がり、ふわふわした気持ちになる。


「げ、たけるの馬鹿。違うじゃないの!」

「たまには酔えよな。面白くない。大丈夫、家まではちゃんと送ってやるから」

「あんたの大丈夫は信用ならない」


 苦さを誤魔化すため、水を飲む。


「つまんないな。眞有まゆ。一度くらい俺と試してみない?」

「誰が!」


 こいつは!

ばんっとテーブルを叩くと立ち上がる。


「帰る」

「眞有(まゆ!)」


 店を出ようとして、体を回転させバランスを崩した私を武が慌てて支えた。


「あ、ありがとう」


 至近距離で武の瞳を見て、心臓が止まるかと思った。瞳の輝きが撫山なでやまさんと同じだった。色も、骨格も違うのに、二人は似ていた。


 だから、惹かれるの?

 私は?


眞有まゆ?」


 武の瞳の中に、驚く私の姿が見えた。


「ごめん。やっぱり帰る。ありがとう」


 瞳の中の私は悲しげに笑う。


眞有まゆ


 するりと彼の腕をすり抜けた私に武はそう声をかける。


「またね。たける。おやすみ」


 振り向くこともせず、手だけを振ると店を出た。


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