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友情という名の関係  作者: ありま氷炎
Chapter 3  罪な美形たち
11/50

3-1

「じゃ、こんな感じで大丈夫ですね」


 午後九時、撫山なでやまさんと当日料理担当のシェフとの打ち合わせを終わらせた。

 パーティーまで二週間を切り、準備は大詰めを迎えていた。送った招待状はかなり好評らしく、参加する業者が続々と招待状を送り返してくれていた。パーティーで出す料理の打ち合わせも、お互いが満足するものになった。

 撫山なでやまさんはどうやら現社長の甥っ子らしく、日本に進出するために彼は勤めていた仕事をやめ、トゥーサン社の日本代表として動いているようだった。

 ホテルのロビーに着き、別れを言おうと撫山なでやまさんのほうを見る。すると彼はその青い瞳を煌かせ私を見つめ返した。


 うお。

 まずい、美形に見られた。


 私は慌てて顔を背ける。

 最近、打ち合わせのため、ほぼ毎日というほど、彼と会っていた。

 勘違いしそうになる視線を時たま向けられ、私はかなり参っていた。


 しかも、なんだかたけるの視線に似てるんだよね。

 骨格とかも全然違うし、色も違うのになんでだろう?


 性格?

 でもあんなにひどい性格ではないと思うけど……


 撫山なでやまさんは加川くんほど可愛い性格はしてなかったが、そこそこ素直な性格だった。


「安田さん、この後一緒に飲みませんか?」


 その言葉にぎくっとする。


「……すみません。明日は早いので。やることもありますし」


 ぺこりと頭を下げると、逃げるよう背を向ける。

 一緒にいるとあの瞳に見つめられ、勘違いするのはわかっていた。美形は罪な生き物だ。平凡な人間を勘違いさせ、苦しませる。


「安田さん。おやすみなさい」


 そんな私の背中に撫山なでやまさんが声をかける。


「おやすみなさい」


 振り向くとそう返事をする。すると彼の美しい笑顔が向けられ、私はぞくっとした。


 やばい。


 顔が真っ赤になったのが、夜の暗さでばれない事をラッキーだと思い、頭を下げると繁華街に溶け込む。


 あれはまずい。

 綺麗だ。

 綺麗過ぎる。


 私の美形センサーがかなり反応していた。

 ああ、また無謀な恋をしてしまうのか。


 私は自分の嗜好に溜息をつく。


 駅に近づく中、鞄の中から着信音が聞こえた。

 私は立ち止まると携帯電話を取り出す。


 それはたけるからで、私はなんだか救いの神がきたと電話に出た。



「ははは。お前、懲りないなあ。これで何度目?」

「うるさいわね」


 結局、電話で話しているうちに武と飲むことにした。場所は彼の家の近くだ。めずらしく家にいたらしく、家で飲もうと誘われたが、丁重に断り、家の近くの小さなバーで飲むことにした。


「でも一度付き合ってって、言われてるんだろう?」

「まあね。でも裏があってのことだけど」

永香えいかか」


 武はくすっと笑う。


 やっぱりこの男はかっこいい。

 そして罪な男だ。

 

 私は自分の抱える想いを封じ込める。


「それにしても永香えいかも罪なことをするよな」


 彼はいつものように私の想いに気づくことなく……。気づかれても困るのだが、言葉を続ける。


「それはあんたもでしょ」


 溜息をもらしながらそう口にする。

 しかし当の本人は意外そうに目を細めた。


「俺?どこが?」

「どこがって」


 まったく。

 本当頭にくる奴だ。


 人の気持ちなどに気づくことはない。

 私はすこし加川さんに同情する。

 弟に嫌いだと言っているが、多分好きだった違いない。

 もしかしたらまだ好きかもしれない。

 それなのにこの男は……。


「なに?」


 ふと自分の思考から我に帰り、私はじっとたけるに見つめられていることに気づく。黒い瞳が照明の光を反射して煌く。私はその瞳に囚われそうになる自分に発破をかけ、視線を外すとカウンターの上のカクテルを煽る。今日も甘めのカクテル…のつもりだった。


「うわあ。これなに。苦い」


 舌に苦味がひろがり、体がぽっと温かくなった。


「いつも同じじゃつまんないだろう?ちょっと辛めにしてみた」

「何よそれ。おいしくない」

「そうか?」


 たけるはそう言って私のグラスを掴むと飲んでみる。その仕草がなんだか色気があって、俯いてしまう。


「おいしいけど。じゃ、俺が飲むわ。木村さん、やっぱり普通のカシスオレンジにして」

「はいはい~」


 たけるは店の常連のようで、木村と呼ばれた男は微笑むと軽く返事をする。


「最初から普通にしてくれたらよかったのに」

「今日は酔わせようかと思ったんだ」


 この男は。

 また意味深な台詞と言って!

 

「ふん。その手には乗らないんだから。それよりもあんたのほうはどうなの?夜のこんな時間の一人で家のいるなんて、めずらしいじゃないの。彼女は?」


 たけるが女を絶やすことはなかった。セフレか彼女、どちらかと夜を必ず過ごしているような男だった。


「今はいない。しばらくは作るつもりはない」

「めずらしいね。あんたが。あ、でもセフレがいるから一緒か」


 木村さんが作ってくれたカクテルを受け取ると口をつける。ちょうどいい甘さが口の中で広がり、幸せは気持ちになった。多分口元は緩んでいるはず。


「可愛い顔するな。たまには」

「たまには余計よ」

「じゃ、乾杯しようぜ」

「乾杯?今日は何に?」

眞有まゆの新たな失恋に」

「失恋って、まだ恋でもないわ。本当失礼な男よね。あんた」

「失礼って。俺はお前にしかそういう態度をとらないけど」

「私だけってますます失礼じゃない」

「それだけ特別ってことだろ?」

「そうね。私はあんたには珍しい純粋な女友達だから」

「……そうだな。ほら、乾杯しよう」


 たけるは、口元を小さく笑みを浮かべグラスを掲げる。


「じゃあさ、失恋じゃなくて、私達の純粋な友情に乾杯しましょ」

「純粋ね~。いいけど」

「じゃ、乾杯」


 カチンとグラスを重ね、私とたけるはそれぞれの色鮮やかな液体を飲む。

 たけるとこうやって馬鹿なことを言い合い、一緒に飲めることが楽しかった。


 どうか、彼が私の思いに一生気づきませんように。 

 

 私は、このままずっと彼の純粋な友達でいられることを願った。


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