ぷろろぉ~ぐ
味覚は大事よねって話です。
キミは飢えを知っているか?
食べ物ってのは、空腹を満たしたり栄養を摂取したりという目的以外にも、存外に大切な役割があるもんだ。
心を満たすこと。人生を薔薇色に染めること。
――愛する人に作ってもらった手料理はどうだい?
――世界最高のシェフに作ってもらった渾身の一皿は?
うまいだろう? 考えるだけでも垂涎モノだ。
けれどもし、舌が壊れて味覚を失ったらどうだろうか。
――愛する人に作ってもらった手料理はどうだい?
――世界最高のシェフに作ってもらった渾身の一皿は?
それでもキミは美味しいと言えるのか? いいや、無理だね! 無理だ!
キミの心はきっと、満たされることない飢餓と渇望を叫び続けるだろう。生ける屍が、命を求めて夜な夜な彷徨い続けるようにだ。
だからおれは魔法を喰い始めた。
国内有数の魔術師が放った風刃のスッキリ爽やかな噛み応えに歓喜し、俗世間を捨てた高名な賢者の作り出す氷の棺を摺り下ろしてシャリシャリする口溶けを味わった。
天上の全知なる神々の雷を直接口で受け止めてビリビリくる喉ごしを楽しみ、煉獄より這い出し凶悪なる魔族のアッツアツの黒炎をも舌で転がしてハフハフ堪能してやった。
もちろん温度や食感だけじゃない! 魔法には味があったんだ!
それらは初恋のごとく甘酸っぱく全身の細胞を苛み、大切な人と過ごす時間のごとくまったりと舌に広がり、感情が爆発するかのごとき強い刺激と、失恋のような切ない苦さ、そして夏の雨上がりを思わせる濃厚で芳醇な香りを、おれに与えてくれた……。
だが――いや、だからこそだ。
足りない! 足りないんだ! 誰かこの飢餓を満たしてくれ! この渇望を潤してくれ! もっと! もっと! もっとおれに美味しい魔法をぶち喰らわせてくれっ!!
おれは今日も口もとの涎を手の甲で拭って叫ぶ。
「おかわりっ!!」
左手に盾ではなく飯の盛られた茶碗を持ち、右手に剣ではなく箸を持って。
究極の美食家“魔法喰い”現る――!
次回から文字数が少し増えます。