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犬になりたい猫の人生  昔の写真

作者: なつき

ある日突然の出来事・・・


一枚の写真が蘇らせる

何年ぶりになるのだろう

閉まってあった昔の写真を出す

大好きなひまわり畑

彼と私が幸せそうに微笑んでいる

彼の顔が好きだった

遠く昔に忘れた声が

浮かんでくる

大好きだった声

色々な思い出が浮かびながら

一粒の涙が零れ落ちた


彼を思い出すことはなかった

いや思い出せなかったのだ



夏の暑い日

朝から蝉の甲高い鳴き声が聞こえる

何もいつもと変わらない朝

ただいつもいる彼は実家に帰ると出かけていた

何気なく電話をかけた


おはよう

いつ帰ってくる?


もう帰らないよ


彼の突然の言葉に

すぐには理解出来なかった


ずっと?


もう二度と帰らない


そういうと彼は電話を切った


一瞬息が止まりそうになる

鼓動が早くなるのを感じた

横には何事もなかったかのようにまだ首の据わらない息子が寝ていた

息子を抱き上げると目を開けて私をじっと見つめている


どういうことだろうね?

そう息子に語りかけながら不安な気持ちを押し殺すかのように強く抱きしめた



その時の息子の顔は今だ忘れることなく

昨日のように鮮明に思い出せる


それが私と彼の最後の言葉になるとは

私はその時思ってもいなかった


その日から彼は二度と帰ってくることはなかった

突然の別れだった



彼がいなくなった後もいつも彼がいたときと同じように息子を見続けながら生活をしていた



そばに居るのにケンカばかりだったね

ケンカしては皮が一枚繋がっているかのように

また二人でいたね

私に離れて気がつく大切さを教えたかったの?

いつの間にかあなたは笑顔を見せなくなったような気がする

どうして?

いつもみたいに

ただいまって

笑って帰ってきてよ

ケンカしたわけじゃない

あなたを待っていれば

いつか帰ってくるのよね?

待ってるから

帰ってきてよ


減っていくトイレットペーパーに願いを込めた

これがなくなるまでに帰ってきますように

なくなっては

また買い直し願いを込めた



次に会った時

一人ではなかった

横に弁護士がいて

私を見る目には

昔愛し合った面影はもう残ってなかった

その目は

もう愛してない

そう語っているようだった


心が

身体が

震えていた

直視出来ないその目に


その夜

何かが壊れたかのように涙が言葉がこぼれ出す

どうして?

なんで?

寂しい!

寂しい!

帰ってきてよ!

ずっと一緒にいるって約束したじゃない!

そばにいるって約束したじゃない!!


横で寝ていた息子が泣き出した

その泣き声は

今まで聞いたこともないような泣き声だった

自分も悲しいと言っているのか

ママ泣かないでと励ましているのか

悲鳴にも近い泣き声で泣き続ける

ごめんね

息子を抱きしめながら

一緒に声をあげて泣いた


彼が姿を消して初めて泣いた

後にも先にも彼のことで泣いたのは

その一度きりだ

どこかで強くしっかりとしていないといけないと

自分の中で思っていたのだろう


何を聞かれても

何を言われても

私は待っています

彼とちゃんと話がしたいんです

話したら帰ってきます

そう答えた


ただひたすら

彼の荷物がある部屋で

彼の帰りを待ち続けた



本当の終わりは

彼の口からでなく

赤の他人から別れが告げられた

待っていた年月は二年半という月日が流れていた

最後まで二人で話すこともなく

理由というものもはっきりはしていなかった

ただもう彼の帰る意志がないので

という結論だけだ


私は元々知っていた

彼が私より長い年月を過ごした元彼女と

ずっと会っていることを

だけどそれが直接的原因なのかは

未だ知る由もない


それからただ前だけを見て走り続けた



昔の写真を見ていると

声が聞こえた


ただいまー!

ずいぶんと大きくなった息子の声


久しぶりに見る彼の顔は実は私は毎日見ている


あなたにそっくりの男の子よ

きっと一粒の涙はそのせいね


お父さんお帰りー!

彼を知らない息子には新しくお父さんと呼ぶ人がいる


さようなら

そう呟くやくと

昔の写真を破り捨てた



あなたに言えることがあるとすれば

待っている

ではなくて

別れてくれてありがとう


やっと今彼にそう言える自分になれた




誰でも辛かった過去があると思います。

でも、悩んでいる時は苦しいですが

いつか思い出になる日々は必ず来るものなんだなと思います。

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