オレさ、今、小説を書いてるんだ
よく小説などで目にする『ただならぬ気配』。『起動戦士ナントカZZ』ですと『ざらついたプレッシャー』なる表現だったはずです。『ナントカ星矢』ですと『燃え上がる小宇宙』、『ナントカの拳』ですと『闘気』が該当するでしょうね。その名称は様々ですが、さて本当に人間にそのような第六感的な能力が備わっているのか。その問いかけに、自分なら自信を持って可愛らしい声でこう答えるでしょう。「スタップさ…………」、ゲフンゲフン、失礼、「ただならぬ気配は、あります」と。あの細胞、もうほとんど話に出なくなってしまいましたね。さておき、自分は最近、そういった体験をしたことがあるのです。それはとある休日の早朝のことでした。ふと目を覚ますと、息子が枕元で仁王立ちをしておりました。三十歳を過ぎたころ、元気の無さに困り果て『仁王勃』なるサプリメントを毎日欠かさず飲んでいた話もおいておきまして、息子は満面の笑みと笑い声をこぼしながら、筒先に右手を添え、とある有名な角刈りの狙撃屋よろしく我が顔面に狙いを定めてまして、あわや水難に巻き込まれるところでありました。『あわやホームラン』などと『あわや』の使い方が最近おかしんじゃね? と思うのは 自分が鶴田浩二氏バリの古い人間でございましょうが、あのとき目を覚まし事なきを得たことこそ、人に備わりし説明のつかない感覚、いわゆる『ただならぬ気配』だったのではないかと。何気に電話を手にした瞬間、着信があったことも何度かありました。これは能力の無駄遣いです。ちゃんとした場面で発動できれば、小学生のころあれほどカンチョーやらヒザカックンやらを食らわずにすんだのにと、今更ながらに思います。ちなみに自分が所有している携帯電話は二つ折りのガラケーです。親指の先を二つ折りの間にちょっとだけ潜り込ませ、手首を勢い良く捻りぱかっと開く。その仕草がカッコいいですよね。ですよねっ! タバコのソフトケースの銀紙を片方だけ開けて、トントンして出てきたフィルター部分を直接口にくわえる仕草も、カッコいいです。それに憧れて中学生のころタバコをこっそり買いまして、いざトントンしてみたのですがタバコはきれいに揃ったまま、出てきませんでした。しかも一本も口をつけないうちに学校の先生に見つかってしまいまして、こっぴどく怒られてしまいました。ライターやマッチのたぐいは持っていませんでした。あくまでも目的は「トントンしてくわえる」だったものですから。なので、タバコの箱をトントンした罪だったのでしょうね(皮肉)。先生と母親が鬼の形相で叱りつけてくるなか、一昨年亡くなった父は最初こそ「タバコを吸いたくなる気持ちは分かる」と理解を示しておりましたが、真相を知ると「アホだ。お前は本当に分からん」と180度反転、困惑しておりました。「お前は分からん」、子供のころよく親に言われた言葉です。で、今は似たような言葉を、しょっちゅう妻に投げかけられております。先日、創作の資料にと「角川日本地名大辞典 第二巻 青森県」なるものをネットで購入したのですが、妻が箱を勝手に開けてしまいました。妻には「なろう」で活動していることはナイショです。帰宅すると、分厚く物々しい、鈍器としてもそれなりであろう一冊を傍らに「お前は分からん」と、怒りのこもった胡乱げな眼差しを向けてきました。気持ちは分かります。ですがそれでも「オレさ、今、小説を書いてるんだ」……恥ずかしくて打ち明けられませんわ。