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十四話目

 名前を呼んで手で叩けば、廊下に敷かれた長いじゅうたんが、うねった。まるでカメレオンの舌のように。長い長いそれが、二匹のグリフィンに絡み付く。暴れる二匹をものともせず、羽、手足、嘴と縛り上げていく。それに合わせるように、鎧とサムも二匹を床へと押さえつけた。

「よし!よくやった!」

 魔女の声に背中を押されるように立ち上がり、暴れる二匹に駆け寄る。危険です!と焦ったサムの声が聞こえたけれど、足を止めるわけにはいかない。声を聞いて、目を見て、いろいろなものが湧き出てきていた。だから、あと少し、あと、少し。杖やじゅうたんとは違う、自分の中にはない、と思う。でも、繋がっている。それを手繰り寄せる。

 右手で一匹の固い羽を撫でる。逆立っていて、冷たい。左手を伸ばして、もう一匹のなめらかな嘴を撫でる。こちらも冷たい。もとの、石の温度だ。ぼくの知らない攻撃的な光を宿した目がこちらを見る。ぼくの知っているのは、もっと、穏やかな目。

 ふだんこの姿にさせることはなかったけれど。ぼくは、よく彼らにあいさつをした。おはよう、いってきます、今日はいい天気だね、ただいま、おやすみ。あいさつをして、呼びかけた。そう、そうだ。

 タダ。ヘッダ。止まれ。

 もがいていた二匹の動きがぴたりと止まった。魔女が横でガッツポーズをし、サムが安堵のため息をつく。先程までとはうってかわって、理知的で冷静な光を宿した目が二対、ぼくを見下ろしていた。

 ファーラ、ありがとう。離してあげて。

 長い廊下を覆うやわらかなじゅうたんは、心得たとばかりにくたりと力をなくす。不思議な幾何学模様を一撫ですると、ゆったりと波のように、もとへ戻っていった。その間も二匹のグリフィンは、じっと動かずにこちらを見ている。

 ごめんよ。ぼくは大丈夫。戻って、お休み。

 代わる代わる、グリフィンの首元に抱きつく。ぎゃあ。優しく甘えるように、二匹が鳴いた。それからぼくのそばから少し離れて柔らかく羽ばたくと、目を閉じてお互いに額をこすり合わせ、壁へ戻ってひとつのレリーフに戻っていった。

 座り込んだままのぼくの膝下にサムがやってきて、お怪我はありませんかと心配げに声をかけてくれる。それにうなずいていたら、ばしん、と背中を魔女に叩かれた。

「1分で片をつけるとは、えらいぞ。何もないとこで転んだときは、こりゃだめだと呆れ通り越して爆笑したけど」

「一言多いんですよ」

 またも喧嘩が勃発しそうなふたりに向けて、手を挙げる。こちらを向いてくれたふたりに、わかったかも、と告げた。

 名前。何がとられて、何が残っているけれど思い出せないのか。

 「本当か?」

 たぶんですけど。王になると名前の力を使えるようになる、とサムから聞きました。それで、その名前は王になったときに記憶を受け継ぐ。でもなかには、杖のように、王になったときに自分でつけるものや、サムのように、直接教えてくれるものもある。

 とられたのは、受け継いだもの、だと思う。

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