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十三話目

「王の安らぐところ、すなわち最深部の守りです。一対のグリフィン」

「随分と軽々しく、とんでもないカード切ってくれるじゃないか」

 サムの説明に、忌々しげな魔女の言葉が続く。彼はグリフィンの影から手を振る。とてもにこやかに。

「じゃあ、さようなら」

 そう言い捨てて、彼は背中を向け、廊下の向こうへ消えてしまった。見届けなくてもグリフィンが片付けてくれるだろうという自信があるのだろうか。

「おい待て」

 一歩魔女が踏み出すと、遮るようにグリフィンが頭を下げた。ち、と鋭い舌打ちが響く。

「廊下が狭い。抜けるのは難しい。倒さないと追えないな」

「早く片付けましょう。時間のロスで相手が何をするか読めません。と、言いたいところですが」

 強そう、だね。名前って、こんなこともできるのか。

「ちょいと特別製だけどな。レリーフはグリフィンにできない。グリフィンを名付けて従わせた上で、レリーフに擬態する別の魔法をかけてるんだ。お前、あいつらの名前ぱぱっと思い出せないのか?」

 そんなこと言われても。

 名前の記憶。いったいどういう仕組みなんだろう。杖、テトンは手にしたら思い出せた。でも、さっき部屋でドアや窓を触ってみたり、サムと握手してみたりしたけれど、名前は出てこなかった。サムはもう教えてもらっているから、そもそも関係ないかもしれないけれど。

もしかして「王」が知っているとわからないのかとも思ったけれど、ドアを開けて入ってこずに待ち伏せしていたということは、彼もドアの名は知らないのだろう。

「ま、そう都合よくはいかないよな」

 そう呟いて頭を掻いた魔女が、こちらに大きく手のひらを広げてみせる。

「5分だ。5分、あたしとサムであしらってみる。その間に名前を思い出せればよし、思い出せないようなら一旦部屋へ引く。いいな、サム」

「賛成です。それから、なるべく傷つけないでください。大切な王の守りです」

「それは、あっちの出方次第だなあ」

 魔女がほうきを肩に担ぐ。鎧が一歩前にでた。牽制するようにグリフィンが足を踏み鳴らす。気迫に廊下がぐらりと揺れたように思える。

 これ、建物壊れる、というか、誰か見に来てしまうのでは?

「王の塔は、太古の巨人族が10人跳ねたってつぶれない。安心しろ」

「そしてこの塔は王の私空間だから、中の様子は外へ伝わりません。基本的に無人で、招かれたもの以外は、選ばれた数人しか入れず、護衛も必要ありませんので」

「こういう事態が起こるとすると、その辺り見直した方がいい気もしてきたな」

「今する話では」

 ありません、と続くはずだっただろうサムの言葉は、グリフィンが一声吼えたために掻き消えた。片方が繰り出した右前足を、魔女の鎧が受け止める。もう片方が突き出した嘴は、弾かれたように飛び出したサムが受け止めた。凄まじい音がふたつ、廊下に響く。息を飲んで硬直したぼくに、魔女が後ろを指差した。

「ぼーっとしてないでもっと下がってろ」

 慌ててうなずき、後ろずさりしたぼくは、じゅうたんの長い毛に足をとられた。あっけなく転ぶ。目のはしで、魔女が爆笑しているのとサムが慌てているのが見える。

 あ、ふかふか。

 戦いながらこちらを気遣うふたりをよそに、のんきにそんなことを思う。そして、前にもここに倒れ込んだことあるな、と気づく。そうそう、王になった、かなりはじめの頃だ。自分の限界がわからなくて、部屋に行く途中に目が回って、しゃがみこんで、ついに倒れ込んで。今みたいに慌てているサムに申し訳なく思いつつ、ああこのじゅうたん、毎日踏まれているとは思えないふかふかさだなあと感動したんだ。あのときも、いまも。

 このじゅうたんを、ぼくは知っている。その確信とともに、口から言葉が飛び出していった。


 まき込め!ファーラ!!

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