十二話目
動けないぼくとは違い、ふたりは機敏だ。ぼくと彼の間に入るように前に出ると、サムが剣の柄に手をかけ、魔女は箒を構える。魔女の動きに合わせるように、鎧も戦闘態勢を取った。
「よくもぬけぬけと王の御前に姿を現せたものだな、偽物」
「手間が省けた。お前の奪った『王』を、返してもらおうと思っていたんだ」
「ぼくが奪った?失礼だな。そいつが捨てたんだよ、王であることを」
なんとも嘆かわしい、というようにため息をつかれる。捨てた?ぼくが?分からない。本当だろうか、嘘だろうか。一瞬で思考がぐちゃぐちゃになるぼくに向けて、「ぼく」はにこりと笑いかけてくる。
「そいつはいつも思っていたんだ、自分なんかが王でいいんだろうかって。何かあるたびに、どうして自分が王なんだって」
自分が王でいいんだろうか。
その言葉が、ぼくの中でぐわんぐわんと響いた。どこか聞きなれた後悔。あざをぐっと押されるような鈍い痛み。
その痛みでぼくは知る。それが真実であることを。
「だからぼくがすべてを請け負って、王になった。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないな」
堂々と、「ぼく」が笑う。鏡で見たぼくにはとてもできなさそうな、自信にあふれた表情と仕草。そう、まるで……王様みたいな。
「王はぼくの中にある。だからぼくが王だ。そいつは王の搾りカス。ただのガキだよ。王の騎士。王の魔女。あんたたちが付き従うべきは、それじゃない。ぼくだよ」
ゆったりとした動作で、胸にあてていた手を動かして、前へ差し伸べる。
「ふたりが傍にいないと、怪しまれるんだよね。ぼくがこの先完全な王になるために、ぼくの側近に『戻って』くれないかな?」
「断る」
吐き捨てるようなサムの即答に、彼は動じない。
「それは残念。ま、王の騎士ってそういうものらしいね。あなたは?」
視線を向けられた魔女が、黙って首を横に降った。
「おやおや。じゃあ、君たちもこっちで作ることにするよ。だからもう、いらない」
彼は壁に手を当てる。その壁には、緻密なつくりのレリーフがあった。何かをつぶやく。その声ははっきりと聞こえたのに、何を言ったのか、認識ができない。ああ、「名前」だ。何を、と問いかけたぼくのほうをまっすぐに見つめ、彼が言う。
「そしてお前はもっといらない。王がふたりいてはならない」
その言葉に呼応するように、高い咆哮が響いた。
「グリフィンか」
魔女が呟く。咆哮とともに、レリーフが身じろぎをする。石であったそれがみるみる質感と色彩を取り戻していった。壁からとびたった二匹は、ぐんぐんと大きくなる。大きな金にも見える明るい茶色の羽を廊下のなかでも器用に動かして、静かに着地する。鋭く太い前足の鉤爪、力強く筋肉の張った後ろ足。絨毯に降り立ち、嘴を開いて威嚇する。
顔は鷲。体はライオン。有翼の守り神が、猛々しく僕らの前に立ちふさがっていた。