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十話目

 あの、そもそもなんですが、相手は今『王』でしょう?簡単に近づけるもの?

 会う前にこちらが偽物だろうと言われて捕まったりしたら困る。誰が敵なのか明確ではない状況で、誰かと敵対するのは嫌だ。

「ばれるのを恐れてか、異様に人払いしてたから、腹を決めて近づくのは難しくないと思う。謁見と執務のための王の間がある壱の塔なんて、塔の全体が無人だぞ。おそらくあそこを根城にしてるな」

「不用心な」

 不満そうなサムに、魔女が手を横に振った。手にパンを持ったままだから、ばらばらと粉が落ちる。それを見て、サムの顔が一層険しくなった。

「でもそのせいで、探るのはやりにくかったんだよ。近づくと目立ちまくるから。今日やっと来客かなんかで王の間から出てきたところを目視できたんだ。まあ、あっちにもすぐ気づかれたんだけどな。城の他のやつにはこんな変装でもバレなかったんだけど、お前の記憶のせいか、あたしを認識する速度がはやかった」

 それで鎧に追われてたんですね。

 いまはもう静かに、鎧は部屋の片隅にうずくまっている。動いたことなど一度もないというように。あんなに機敏に激しく動いていたのに。魔法とは不思議なものだ。ぼくの視線をなぞるように、魔女も鎧を見る。

「ああ、そういや、鎧が戻らないから、結果を見に来るというのも有り得そうだな。壱の塔まで行くまでもなく、この部屋から出ればやつが待ち構えているとか」

 魔女からとても軽く放たれた言葉に、サムとぼくは揃って扉を見た。分厚く重厚な上に王の力で閉じられた扉は、もちろん粛然と立っているだけで、向こう側に何があるとも分からない。サムがため息をついて額に手をやった。

「なおさら、王はお部屋からは出られないほうが良い気がしてきました。宰相たちに連絡を取り、この部屋に招いて対策を練りましょう」

「だから、まどるっこしいっつの。しかもその間にバレたら、相手の行動の予測がなおさらつかなくなって危ないだろ。」

 行こう。

 幾度目かの平行線をたどるやりとりに割って入ると、ふたりが一緒にこちらを向いた。

あのね、ふたりの話を聞いて、ちょっと考えていたんだけれど、急いだほうがいいんじゃないかな。

「急いだ方がいい、ですか?」

 偽物の王が人形で、それに気づいた者には攻撃をしかけてくる。今分かったのはそれくらいで、そもそも相手が誰なのか、目的は何なのか、分かってないんだよね?

「相手はわからんが、目的は王になること、だろ?」

 いえ、僕が思う目的は、王になって何がしたいのか、です。

「……なるほど。王になる、までで思考停止していました。お恥ずかしい」

「いやいや、特別これというのもないんじゃないか?王になれば大抵のことはできる。だから王になりたい。それも充分あり得ると思うが。それとも、なにか心当たりでも?」

 心当たり、というわけではないんですが、永遠に王に成り代わるのが目的じゃないんじゃないかなと思うんです。だって、無理ですよね。本物の王が守られた手の出せない場所にいる。偽物だと確信している親しい、しかもきちんとした地位の者がふたりもいる。どうやら、不審に思っている者も多い。どう考えても一騒動起きるまで長くは持たない。

 ぼくの言葉を検分するような沈黙が落ちた。少しあげた眼差しを戻して、魔女がうなずく。

「まあ、そうだな」

 今何の知識のないぼくでもそう感じたくらいだから、相手もそれは分かってこの事態を引き起こしたと考えてもいいんじゃないでしょうか。だとしたら、相手の目的は、いつかはばれても構わない。偽物が王である期間が長くなくてもいい『何か』。

「……サム、お前は思い当たることあるか?」

「いえ、残念ながら。ですが、ばれても構わない前提、というのは納得感があります。本当に成り代わろうというのであれば、王や私達は最初に潰されていないとおかしい。生かしておけば、あとになればなるほどやっかいだ。静かであれば放っておくという態度は、確かにもっと短期的な目標があることを思わせます」

「王であることはある一定期間でいい。その間に『何か』をしたい、か」

「そしてさきほどあなたを見つけて追いかけてきたということは、まだ目的は成されていない可能性が高いですね」

 そう。だから彼らの目的を達成させないためには、今動いた方がいい。何であれ、良い目的とは思えないから。二人はどう思う?

「あたしはもともと行くぞっていってたろ」

 ひらひらと片手を泳がせた魔女は、その手をサムに向ける。サムはぼくの目をじっと見ている。自分が何か分からないのは怖い。何も知らない外へ出るのは怖い。できることなんて何もないのが怖い。でも、ぼくが王だというのなら、ぼくはこの部屋から出て立ち向かう。サムに向かってしっかりうなずくと、嬉しそうに彼は笑った。

「御心のままに」

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