九話目
「反撃とは?」
「簡単だ。偽物と接触して、記憶を奪い返す。もともとはこいつのものだ。接触すれば、引き寄せられるはずだ」
「本当に、そんなに簡単にいくものでしょうか?」
「行くさ。瓜二つの入れ物を持って、こいつの中身を持っている、でもあっちはただのお人形だ」
チーズの塊をパンに乗せてはさみながら、こともなげに魔女が言う。まるで、こうしてサンドイッチをつくるくらいの出来事だとでもいうように。
具体的に、ぼくは何をすればいいんでしょうか?
「何も。強いていえば、記憶を返せと強く思え。おまえは生きている。心もある。記憶は記憶だけでふわふわしてるもんじゃない。魂や、心や、体に紐付いているから、お前のほうがくっつきやすい」
なんだか自分がトリモチかなにかになった気分だ。記憶もなく自分のわからないぼくにはそれが正しいのかなんともわからなけれど、魔女が言うならそうなんだろう、となんとなく思う。生徒であった自分が残っているのだろうか。
簡単に了解しそうになったぼくとは逆に、眉を顰めたのはサムだ。となりでミオが嬉しそうにパンのかけらを抱えている。ひげにパンのカケラがついていて可愛い。サムはちゃんと食べているのだろうか。
「しかし、直接対面しなければいけないのは危険です。わたしも、王さえお目覚めになり王の間にお戻りになれば、偽物を排除するのは容易いと思っていました。しかし、今はここから出て良いものかと思っています。いまの王は、お力を万全に行使できない状態です。
それにいままでこちらに接触してこないから、直接の危険性は低いと思っていましたが、見つけたとたんにいきなりこんな鎧をけしかけてくるなど、攻撃性が高いのも気になります。王を対面させて危険ではないでしょうか」
「そりゃ、妨害はされるだろうな。で?それが何だ?何のためにお前がいる?」
「王が安らかに政を行なわれるためです。それは、無謀な行いをすることや自分の力をやみくもに奮うことと同義ではありません。1%でも王の御身の安全性が高い選択肢を選ぶことがわたしの務めです」
あからさまな挑発に、サムは乗らない。つまらんやつだなあ、と魔女が天井を仰いだ。
「ここは扉も窓も『王を守れ』という命が機能したままだから、完全に安全だ。お前が生まれたてみたいなこいつを外に出したくないって気持ちもわからないでもない。だが、だからって籠城じゃ、事態はかわらないぞ」
「それはそうですが、他にも何か手がないか、きちんと考えるべきです。例えば、城の人々をじわじわ味方につけていくとか」
「まどろっこしい。そもそも違和感をもつものがあるといえ、あれだけちゃんとした偽物だ。いきなりこちらを信じろというのも、難しいぞ。ひとりひとり、この部屋に呼べってのか?」
白熱していくふたりに口を挟んでいいものかと思いながら、そろそろと手をあげた。ふわふわと考えがかたちになろうとしていた。