第9話 ひとひら
あービックリした。
何となく思い付いた技使ったら突然大災害起きて次は落雷、そして大爆発。いやー焦った焦った。あやふやなイメージだったからみたいだが、これからは絶対になんとなくで使わないようにしなければ…!
あと俺も巻き込まれないように気を付けないとな。うん。コレ大事。
自分の放った魔法に冷や汗かいたがひとまず先を進むルシフェル。
イポスの居るであろう場所は戦闘になる前に上空から確認してある。
未だ天使の軍勢はその地点に到着していないようだが、他の戦闘の決着もそろそろつきそうだ。
歩を進め、そして遂にイポスと思われる者の姿を視界に入れた。
「お前が…イポスか…?」
何故疑問系のなのかは奴の見てくれのせいだ。
天使とも悪魔とも取れるその容貌。
黒色の天使の羽にシルバーの輪を頭上に浮かせている。
「そうだ。私はソロモン22柱の予言者イポス。」
…予言者イポス?未来のことでも知っているのだろうか。
だとしたらこの状況は不自然すぎる。自ら追い詰められる状況を作ったことになる。
「予言者、ね…ならなぜこの襲撃を予知できなかった?」
「…予知はしていた。回避しなかった目的は君、ルシフェルに会ってみたかったからだよ。」
俺に会いたかった?
いったい何を考えて…というか俺のことを知っているのか…?
「どういうことだ?何故俺に?」
「ん?君はなにも知らされていないのか?」
予言者イポスはルシフェルについて何かを知っている様だが、それについてまだ思い当たる節がない。強いて言うなら転生の事だがイポスが知っているとも思えない。
(俺が、知らされていない…?一体何を…?)
「イポス!お前はなにを…」
ルシフェルがイポスに疑問をぶつけようとしたその瞬間。
ドォォォォォォン!!
激しい音とともに何者かが俺の目の前に飛んできた。
派手に土煙を上げながら現れたのは…
「な…!ラ、ラファエル!」
現れたのはラファエルさんだった。だが様子がおかしいように見えるのは何故だろうか。
「お手伝いします。」
そういってラファエルさんは槍を構える。
イポスも戦いを避けられないのをすぐに理解し槍を構える。
そうして、イポスとの戦いは突然開始したのだった。
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(な、なんでラファエルさんがこんなとこに…てかサマエル達の回復終わったのか?)
イポスとラファエルは鋭い攻防を続け槍を交えていて、ルシフェルは参加できずにいた。
(なにも知らされていない彼と予定ではこのタイミングで現れない筈の天使…。彼に余計な情報は与えないつもりか…!)
イポスは内心焦っていた。
この未来を知らなかった為だ。普段イポスの能力は自分に関わる事に対する未来が見える。常時発動型の為なにか転機になることの前に本来は発動するのだが今回は発動しなかった。
(私の権能発動を封じることが出来る存在も一人しかいない…そしてこの天使が来た理由は私の存在の抹消、ということだな…!)
更に二人の攻防は激しさを増していく。
しかしイポスは動揺と思考の渦にはまりラファエルに一瞬の隙を見せてしまう。
ラファエルはその隙を見逃さなかった。
「…雷十字刺突!(ブリッツ・クロイツ・シュトース)」
稲妻を帯びたラファエルの槍はイポスを貫通する。
その瞬間槍に帯びていた稲妻が十字を象り(かたどり)
イポスに激しい電撃を浴びせる。
「ぐぁあぁぁぁぁぁぁあ!!…がはっ……!」
槍を引き抜かれ体に大穴が出来る。その体には稲妻で焦がされた跡が全身に残っていた。
しかしそれでもイポスは立っていた。
「…ルシ…ル……まえ…を
…ごろじ……のは……か……み……!」
喉を焼き潰されたイポスは手を伸ばし何かを懸命に伝えようとしているがルシフェルにその言葉は届くことはなかった。
「やはり君は知っていた様だね。消えてもらおうか。」
ラファエルは、いやラファエルの声を借りた何者かはイポスに囁く。
「…!!!やは…り……ギザマが!!!!」
驚愕し確信を得たイポスは潰れた喉で叫ぶ。
そしてラファエルの体を借りたその者は天使には似つかわしくない顔でニヤリと笑みを深め、その手を振り上げる。
ズサッ
槍が脳天に貫通し、鈍い音をたてた。
頭を無くしたその体は、頽れるように倒れた。
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一連の流れを唖然と見つめていたルシフェル。
イポスが地に伏す音で呆けていた意識を取り戻す。
「…!ラ、ラファエル…?」
ラファエルは振り向き無機質に笑みを作る。
「目標の討伐に成功しましたね。発光弾を上げて全軍に知らせましょう。」
あ、ああと言うと青色の発光弾を打ち上げるラファエル。
「それでは私は…」
言いかけた途端、糸が切れたように突然倒れるラファエル。
「え!?ちょ!ラファエル!!」
慌てて駆け寄り状態をみる。
何処かから攻撃を受けた訳ではなさそうだ。意識を失っているだけだった。
…先程感じた違和感はすっかり無くなっている。
意識が無くなったからだろうか?それとも…
ひとまず近くの民家の壁を背にラファエルを座らせる。
その時不意に声をかけられた。
「ケンヤお兄ちゃん…?」
それは何かの箱を大事そうに抱えたトーヤだった。
「トーヤ!?どうしてこんな所にいるんだ!?」
「お兄ちゃんはどうしてここにいるの?ここ僕の住んでる村なんだけど…」
「…え?てことはトーヤは悪魔だったのか?」
「知ってると思ってたんだけど…」
戸惑いながら呟くトーヤ。
…通りで違和感を感じたわけだ。
だが、明確な判断ができなかったのは多分敵意がないのが大きいのだろう。
だがこんな所で立ち話をしている場合ではなかった。
「…!トーヤ!今すぐここを離れるんだ。」
イポスは討伐したが、全員が害意のない者や子供にまで手を出さないとは限らない。
「うん。分かってるんだけどレイが宝物を家に忘れちゃって取りに戻ってたところなんだ!すぐ離れるよ!」
最初から俺を天使だと気付いていたのだろう。奇襲を仕掛けた側の俺の話を素直に聞いてくれるトーヤ。
「ここで会った天使がお兄ちゃんでよかった!他の人だったらどうなってたか分からないから」
にぱっとトーヤは笑う。
無邪気な笑顔が、無条件の信頼を表しているようで、くすぐったいような気持ちになる。
「そっか…とりあえず、ここはまだ危険だ。軍が完全に引き上げるまで安全な場所に行って隠れているんだぞ?」
「うん!じゃあお兄ちゃんま…た…」
刹那
暖かな飛沫が顔を濡らす。
視界が赤く染まり、その中に鋭い鋒を見つけて、ようやく思考が回り始める。
別れを告げようとしたトーヤの胸から、槍が突き抜けたのだ…!
「あ……くま……あく……ま…」
気を失っていたラファエルは、完全に意識を覚醒させてはいないものの、朦朧とした意識のなか本能的に悪魔を感じとったのだろう。
そしてその先にいたのは…主である俺だった。
守らなくてはいけない、危険な存在を近付けてはいけない!
そんな感情が、虚ろな瞳から見え隠れして、どうしたら良いか解らなくなる。
「…かはっ…!」
大量の血を吐くトーヤ。
ズルリと抜け落ちる槍が、止めていた胸の血液を噴き出させる。
崩れ落ちる体をとっさに支えた。
「トーヤ!!!」
「……お…にい…ちゃ…」
トーヤは手に持っていた箱を覚束無い手つきで俺に渡してくる。
「こ、れ……レイ…に…」
「わかった!わかったから喋るな!血が…!」
咄嗟に胸に当てたマントを持つ手が見る見るうちに赤く染まる。
喋るために力を入れる度に、ゴプッと脈打つように血が溢れ出るのだ。
トーヤは、俺の言葉に苦しそうな表情をするも、ゆっくりと笑顔を作った。
「そ…れと……おに…ちゃん、に…僕の…核……あ…げる…」
そういうとトーヤの左胸が青く光始める。
「何を言って…どういうことだ…?」
訳が分からない状況に、思考が追いつかない。今にも消えそうな命があるのに!
「ひき…ぬい…て…」
俺は訳も分からず、なにも言えずに手を伸ばす。すると、辺りは蒼の光に包まれた。