第12話 散華
ちゃんと本編にもどります!
トーヤの胸に差し込まれた自分の腕が目に映る。
訳が分からない。一体何が?どうしてこんな事…
ただ、血は出ていない事から体を貫いた訳では無い事だけは理解できていた。
トーヤに差し込まれていた腕をゆっくり引き抜くと、蒼い光を放つ宝石のような物が手の中にある。
これが核なのか…?
すると、その核から体へ力が流れていく様な感覚があった。
まるでトーヤが自分が溶けて混ざり合うような。眩い光とともに、そんな感覚が全身を覆った。
そして蒼の閃光が収まり目を開けると…トーヤは消えていた。
思わず掻き抱いたマントに残っているはずの止血した跡も、滴り落ちていた血も…この腕の中に残っていたはずの体とともに全て消えていた。
妹の物だと笑っていた箱だけが、ポツリと落ちていた。
もうあの人懐っこい少年と会話をすることはできなくなってしまった。トーヤの核は俺と混じりあったが魂まで混ざったわけではない。俺にはよく分かる。
俺はやり場のない気持ちに苛まれた。
決してラファエルは悪くない。
ラファエルは悪魔から俺を守ろうとして、死力を尽くして槍で刺したのだろう。
視界はぼやけていたであろうが感じる波動で目の前の者を悪魔だと認識し攻撃に出た。
意識を失っているからと不用意にラファエルの目の前で会話をしていた俺のせいだ。
もう少し離れていれば槍に気付くことも出来て、トーヤが死ぬこともなかった。
考えれば考える程どうすることもできなかったことに気がつく。
…せめて。
「…せめて墓だけでも作ってやろう」
石を積んだだけの簡単な墓。
土の下には何も埋まっていない。
…あぁ…だからか。
墓、なんて物を、俺はこの世界で見たことが無かった。
何も残らないからか。全て砂のように、灰のように……泡のように、消えるからか。
ならばこの世界の人たちにとって、死とは何なのだろう?
亡骸すら残さず掻き消えて、弔うことすら出来ず散っていく…
冥福を祈りたいのに、ここには何も無いのだ。この下には、誰もいない……。
俺はやるせない気持ちで手を合わせて拝んだ後、ラファエルを背負い本陣へと戻るのだった。
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天使軍の攻撃は成功に終わった。
約20万の悪魔の討伐が完了したとの情報部隊からの連絡が入った。
天使軍の被害は軽微。最初に上位悪魔と戦闘に入った数十名が重傷、死傷者として治療中だが、全体で見れば極々一部であり充分成功と言えるだろう。
現在は目を覚ましたラファエルさんとその支援部隊が負傷者の手当てをしていた。
そして俺は各々の戦果の報告のため熾天使達を集めていた。
「皆、戦闘ご苦労様。何か報告ある人はいる?」
「目立った報告はないなー。一応粗方の報告はバルバトスの部隊に伝えてあるからー」
べリアルがそう言ったが…バルバトスって情報武官だったのか。途中から姿無かったけどそれでか…。
「了解。バアルとサマエルも特に目立った報告は無しか?」
「俺も特に無しだな。」
「あの~ルシフェル様。悪魔との戦闘中の援護ありがとうございました。その後あの悪魔は倒されたのですか?」
サマエルは申し訳なさそうにそう聞いてきた。
「ああ、適当に魔法発動させたらね。」
「さすがとしか言い様がありませんね…!」
「っておいおい、またルシフェルも戦闘参加したのかよ!」
べリアルが驚いて突っ込んでいる。
「サマエルとマルコシアス押されてたからまあ少しだけ」
「総大将がそんなホイホイ出ちゃ不味いってのにまったく…」
「うむ、べリアルの言うとおりだな。だがまあ、そう過度に心配する必要がないのも確かだな」
(うーん…まぁ適当に撃った魔法があの威力じゃそりゃ心配要らないだろうな…)
当の本人もそう感じていた。
「もう治療も終わってる頃だと思うし全軍に撤退命令だそう。それと、この村の入り口に花を添えていこう」
ルシフェルがそういうとバアルとサマエルはきょとんとした顔をした。
「何で花を添えるんだ?」
バアルは初めてこんなことをルシフェルが言い出した為、理由が知りたいようだ。
「20万の悪魔を討伐したけど少なからず非戦闘員もいたはずだ。子供とかな。全滅させておいてなんだけど…巻き込んで命を奪ってしまった罪滅ぼしって所かな」
ルシフェルは哀しそうな顔をしてトーヤの墓がある方を見る。
そしてこの提案に乗ったのが意外にもべリアルだった。
「ああ、まあいいんじゃねーか?死者を誘うのが俺らの本来の仕事だし、な」
その言葉にバアルやサマエルが驚きを見せている。
「べリアルがそう言うとは…意外なこともあるもんだ」
バアルにそう言われるとべリアルはばつが悪そうにそっぽを向いた。
この熾天使達の心境の変化を大きくする出来事がべリアルを始まりとして起きていく。
だがその引き金が俺にある、と言うことに気付いたのは大分後のことになる。




