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第10話 泡沫(うたかた)

お待たせしました!

調整と編集を繰り返していたら大分時間をとってしまいました。


その知らせは驚愕とともに伝えられた。


「三日後の丁度今頃の時刻に、天使の大軍がこの村へ進行してきます」


イポスに突然招集された各地区の代表は驚きを隠せない。


「何故だ!早すぎる!!」


話を聞き代表の一人である、青年の悪魔が拳を握り顔を歪めてそう叫んだ。


他の代表も同様の反応を見せ、狼狽えたり、怯えたりなど反応は様々であった。


そんな彼らにイポスは話を続ける。


「ここができてまだ4年…ようやく落ち着き始めてきましたが…。今回は戦いを覚悟してください」


その言葉に、悪魔達は気を引き締めた。いつまでも驚いているわけにはいかない。何故ならば、イポスの予言は必ず当たる。いつまでも何故だ、どうしよう、などと言っている暇は無いのだ。


今までも今回と同様で、村へ危険が及ぶ場合はイポスから事前に村の悪魔達に伝えられ移住を選択してきた。

移住を繰り返し続けた理由は、戦闘可能な悪魔の少なさである。


現在の村では約20万の悪魔達が暮らしている。


だがそれはあくまで"総数"。

実際に戦闘の出来る悪魔は全体の4分の1程の約5万。

天使達は最低でも倍以上の戦力で攻めてくるだろう。

それくらいならば、イポスの先読みの力で戦力差など覆せるかもしれない。勝ち目が無いわけでは無いのだ。

しかし敵は、数体の上位天使達が指揮個体として現れる。その上位天使達は並の悪魔では太刀打ちできない。

自分と、数人程度ならそんな上位天使にすら力では勝っているとイポスは自負している。

だが戦闘終了後、その数人のみが生きていて、他の悪魔が全滅しているのでは意味が無い。

戦いに勝つことより、一人でも多く生き残る事。それがイポスの考えでもあったため戦闘を可能な限り避けてきた。



だが今回は事情が違った。

イポスの能力でみた未来(ビジョン)で、悪魔達(われら)の今後を左右する存在を確認できたのだ。

その天使ルシフェルは、ある程度戦いが進まなければ出て来てはくれない。

どうにか事前にルシフェルのみと接触する方法は無いかと考えるも、どうやらなにかに守られるかのように存在がぼやけている。

村の少年、トーヤから彼との接触を聞かされたときは心底驚いた。そして、その時に見たトーヤの運命にも…。

だが、同時に納得もしたのだ。

彼は、神の傍にいるときに強い制限をかけられているのだ。

祝福なのか…はたまた呪いなのか。

神の傍を離れてしばらくすると、イポスの予知にルシフェルの存在が浮かび上がってくる。

つまり、予知できる範囲ならば確実に神は傍にいない。

無理に神の近くに行って危険を冒すことは無い。

戦闘を避けることが出来なくなるが、ルシフェルとの対話を望むならば一番の安全策なのだ。

それまで持ち堪えることは他の悪魔達にとってかなりの難易度になってしまうが、悪魔達の未来のためには絶対に必要だ。


…つくづく己の能力を恨む。

もちろんこの力のお陰で助かったことは数え切れないほどある。

だが、同じくらい変えられぬ未来に絶望したこともあるのだ。

そして今回は、あえて変えないことで数多くの死人を出すだろう。

けれどそれをするだけの価値を、彼は持っている。


(すまぬ…同胞よ。だが、無駄死にはさせぬ!必ず彼を…!)


「…各地区の代表は、急ぎ戻って集会を開き同様のことを伝えてくれ。その後非戦闘員は移住の準備を。それと今回、戦闘を避けるのは不可能な為、戦闘要員を中央へ集める。その二点を伝えてほしい。以上だ。」


そうして悪魔達の平穏だった村は急激に慌ただしくなっていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



私はレイ!魚人と悪魔のハーフの女の子!

家族みんなでこれからこの家を出るんだ!

天使が襲ってくるからなんだって。

でもお母さんやお父さん、お兄ちゃんが居れば寂しくないよ!………………………


そう。寂しくない"ハズだった"




「トーヤ、レイ?荷物はまとめ終わった?」


「うん!荷物まとめ終わったよ!ママ!」


「すっかり元気になったわねレイ。お兄ちゃんにちゃんとお礼は言った?」


キラキラの青い髪とピカピカの腕や額の鱗。

私とママのおそろい!

ママはとってもキレイで優しくて、私の自慢なの!


「母さ~んそろそろ出ないと村の皆に置いてかれちゃうよ~!」


ひょこっと扉から顔を出したのは、大好きなお兄ちゃん!

パパに似たから鱗とかはついてないけど、魔力がとっても強くて、しょーらいゆーぼーなんだって。えへん!すごいでしょう!


「そうね。じゃあ行きましょうか」


強くてカッコいい自慢のパパは村の中央へ天使と戦うために行っちゃった…。

でもでも、パパはイポスさまの側近だから、村で二番目に強いんだよ!だから絶対大丈夫!


村の友達も、裏のおじいちゃんとおばあちゃんも、皆で一緒に村を出て歩く。

お兄ちゃんのお陰で最近外に出られるようになったから慣れない道を歩くのはとっても疲れる。荷物を背負ってママの引く荷車を押して歩いていると腕が痺れて、足がすぐ痛くなってしまう。

ゼイゼイと息が切れ始めた頃、村からだいぶ離れたところにある大きな岩がある所へ来た。

大きな岩と木々の陰に、休憩の為に足を止めた。

そこでふと思い出す。

…あれ?私、荷車押してて…持ってた宝箱どこおいたっけ?


「…あ!宝箱テーブルの上に置いてきちゃった…!」


そうだ。荷物を乗せるためにギリギリまで扉に近づけていた荷車が、荷物を積んだら思いの外ピッタリと扉にハマっちゃって、押し出すためにテーブルに置いたんだった!


「あら…でも、戻るわけには行かないわ。置いていかれちゃうわよ」


じわじわと涙がこぼれる。

言ってることはわかる。

…でも、だって、あれは…とっても大切な…


「なら僕がとってくるよ!僕、走るのには自信があるんだ!」


「え!?ホント!?」


「ダメよ!もう天使だって来ているかもしれない。そんな所へ一人で行かせるなんて出来ないわ。」


「大丈夫だって!天使が来るのは確か未の刻くらいでしょ?まだ時間はあるよ!行って戻ってくるくらいすぐだから!」


「…はぁ。わかったわ護衛の人に言って数人とこのまま待機してもらうから、急いでいってらっしゃい」


「やったー!お兄ちゃんありがとう!」


思わずお兄ちゃんに抱きついた。

涙?流してないもん!涙はこころのあせだってパパがいってたもん!泣き虫じゃないもん!


ママは「くれぐれも気をつけて」とお兄ちゃんを行かせてくれた。



そしてお兄ちゃんが村へ向かって少したった頃だった。


突然の爆音とともに、天使達が攻撃してきたのは…。


ママと私は手を繋いで必死に逃げた。

周りの人は天使に追いたてられ、炎に焼かれて、1人、また1人と倒れていく。


「ママ…もう、走れないよぉ…!」


途中で靴が脱げてしまった所為で裸足の足には血が滲んでいる。


煙を吸い込んでしまった喉がイガイガして、息がし辛い。苦しくて熱くて痛くて、クラクラする。


「もう少し走れば川につくわ!レイ、もう少しだけ頑張って!私たちだけでも、生き残らなければ…!」



ママの声に、ふと周りを見渡して気がついた。

走っているのはもう、誰もいない。

きっと皆、この火の海の中で…


「レイ!川よ!早くここを渡っ…!!」


振り返ったママが突然、私の体を引っ張って、そのまま突き飛ばすように近くの木の根元に押し込んだ。


衝撃が大きかっただけで大きな怪我はないけど、地面と木に擦った傷がヒリヒリと痛む。

思わず涙目になりつつ根と根の間からママに目を向けた。


「……!!」


ママの体には光の矢が刺さっていた。


ママはこちらをじっと見つめ静に首を振る。

出てくるなというサインだ。


大声で叫びそうになって、口を手で覆った。

目の奥が痛くなるほど熱いのに、さっきまで滲んでいた涙は溢れてこない。まるで涸れてしまったみたいだ。


(ママ…!!ママ…!!ママ…!!)


心で連呼する。声が出なくて、手で押さえていたことを思い出す。

けれど、固まってしまったように手は動かないし、足はガクガクと震えて治まらない。


(誰か…!ママを助けて…!!)



ーーーーーーーーーーーーー



矢を放つ体勢から姿勢を正すと、天使の指揮官らしきその男はくるりと後ろを振り返った。


「あーお前ら、もうここはいいから反対側行ってこい。」


それは熾天使第2柱べリアルだった。


「…べリアル様。もう少し具体的かつマシな指揮はできないのでしょうか。」


「えー?じゃあウリエルにやらせればー?」


「ウリエル様は脳筋ですからちょっと…まあウリエル様よりマシか…」


「脳筋とか酷い言われようだな…まあいいから、お前らとりあえずバアル達の手伝いでも行っといて。こっちはもう終わるしなー。」


渋々といった形で他の天使達は全員反対側の方向へ飛んでいった。


「さてと…」


べリアルは固まったように動けない母親のもとへ向かい、近くへ寄り何か話をしているようだ。小さい声で私のいる場所まで声は届かない。


そしてべリアルは立ち上がる。

母親はこちらを見て涙を流しながらも笑顔を作っていた。


(助けてくれるの…?)


そう思った私が根の間から出ようとした時。


「救済の囁き(ヒルフェ・フリュスターン)」


母親は光と化し消滅した。


「え…?ま、ママ…?」


隠れていた根を掻き分け母のいた所まで行き母だった光を手に掴む。


「あ…あぁ…っ」


開いた手には何も残っていなかった。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


半狂乱になるレイ。


その私をみて何をするわけでもないべリアル。


キッと私はそいつを睨み付け飛びかかり攻撃した。


「何でママを殺したの!?どうして!?」


べリアルは何も言わない。


「なにもしていないじゃない!反抗してすら!」


私はひたすら攻撃した。

だがその攻撃は掠りもしない。


そして戦闘などしたことのない私の隙だらけな攻撃を避けべリアルは私のお腹に攻撃を受けた。


「あぐ…かはっ…!」


意識が飛びそうになるのを私は必死に抑えつつ声を出した。


「もっと…わた、しに…力が…!妬ま…しい…!必ず…お前を超えて…こ、殺してやる!」


それを聞いたべリアルは一言も話すことはなくその場を去った。


この日、この時。私は初めて"嫉妬"に目覚めた。

次回バルバトスでます。※忘れていたわけではないです。

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