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第3話:玉虫色の瞳

 ーー30分後。

 実験場となるビル周辺には、他の40番台支部の面々が姿を現していた。しかし、支部ごとによってよこした人数はまちまちのようで、41番支部は20人となかなかの大所帯だし、その一方で47番支部のようにクレハたった一人を派遣しているような支部もある。その中でも瀬崎がリーダーを務める45番支部はなんと53人と全メンバーを揃えている。

 「40番台の全支部を合わせて100人ちょっとってところかしら」

 あるものは他の支部のメンバーとの交流を図り、またあるものは実験のための計器を点検している中、クレハは実験場となるビルより少し高い10階建てのビル屋上にてその光景を見下ろしていた。


 ーーそして、実験場内部。

 瀬崎を筆頭に十数人の研究者と6体の戦闘アンドロイドがビル三階の一室に集結していた。

 部屋の真ん中には机の上に置かれた暗黒の装置『LPD-2024』別称ペネトレーター発生装置。

 そしてそれを取り囲み、さらには三階フロア全域に血管のように張り巡らせれた計測機器の数々。 フロア内の境界が破れても活動できる機材を確保するためだ。

 装置の作動方法は単純。発生装置のボタンをONにすればいい。

 そうすれば、LPD-2024から特殊な電磁波が放たれ、空間の境界が歪み境界を破ってペネトレーターが現れる。

 --だがしかしだ。

 「これより、LPD-2024によるペネトレーター大量発生の原因を探る再現実験を行う」

 普段ならば、適量のペネトレーターの出現で抑えられるはずの装置は原因不明の欠陥が生じている可能性がある。

 「この実験により俺たちに及ばされる危害は未知数。全員心して作業に当たれ」

 瀬崎の言う言葉にその場にいた全員が了承の返事または首を縦に降る。

 「それでは、実験……開始だ」

 漆黒の箱に赤い光りが点灯した。




 (始まったようね……)

 実験場となっているビルの三階から赤い光がこぼれ出す。他ならない発生装置を作動させた合図だ。

 先ほどまで地上で話していた別支部の面々も既にそれぞれの持ち場につき動向を伺っている。



 ーーそして数秒後。何か透明感のある謎の破片が背後からクレハの視界をかすめた。

 「!!」

 咄嗟に彼女は振り返る。

 実験の動向を観察している場合ではない。と、彼女の経験と直感から求められる最適解がそれだったからだ。

 そして欠片の正体は明らかになる。


 虚空に突如として現れた黒いひび。

 窓ガラスに黒いひびが入っているといえば伝わりやすいだろうか。だが、その規模を窓ガラスと比較しようとすることは愚考である。

 虚空に刻まれる黒いひびは、大樹が枝を伸ばす様にしてLPD-2024が起動している実験場ビルを中心に今尚、広がっている。

 毎秒3~5メートルは亀裂が入っていくその速度は脅威的で実に横暴であるといえる。


 これが、崩壊である。

 単純だが意味を明確に理解できるこの名で呼ばれるその現象は今、クレハを含め百数名の眼の前に体現した。


 (抜かった……! まさかここまでの規模になるなんて!)


 この実験に関わった誰もがそう思った。しかし、無情にも一度広がった世界の亀裂は無謀にただただその範囲を広げていく。

 実験の要因となった先の事件とは確実にその脅威度が違う。

 このままでは崩壊(・・)ではなく、この現象は崩落(・・)へと転化し、周囲一帯を境界の彼方に飲み込まれてしまう。

 そして、もちろんこの実験に関わった誰もがこう思った。


 (崩壊を止めるには装置を止めるしかない!)


 異論は無かった。悩むことも無かった。皆が自身らの周囲に走る亀裂から眼を離し、実験場となっている七階建てのビルに眼を移した。


 だが、それを成し遂げた者は一人としていなかった。

 皆が眼を離した僅かな一瞬その一瞬だけで、そのビルはーー、二階建てになっていた。



 「……………!!」

 とても長く感じる2~3秒。クレハは唖然と五階減ったビルを見つめていると、上に違和感を感じ、咄嗟に空を見上げる。


 「嘘でしょ……」

 ポツリと呟いた。

 単純に五階建てのビルが空にあった。

 紛れもない……実験場ビルの三階から七階までの部分がそのまま上空へ飛ばされ、それが落下している。

 もちろんものの数秒もしないうちにそれは、再び元の座標に戻り、残った2階部分とぶつかりあった巨大なコンクリートの塊同士は、少しだけ細かく分散し、ビリヤードの様に周囲のビルにも二次被害を及ぼし、着々と被害を広げていく。

 もちろんそれは隣のビルに立つクレハも被害を受ける対象である。


 (崩れる!?)

 はるか上空からの自由落下によるエネルギーにより、巨大な弾丸となって拡散するコンクリートは彼女の立つビルの外壁を次々と破壊し、いずれ被害は支柱にも到達した。

 そこからは簡単だ。

 支柱を失った直方体のコンクリートの塊は、実験場となったビルに向かって倒れこむ。

 幸いにも屋上にて待機していたクレハは、上空からの障害を持つことなく灰色の瓦礫の上に着地することに成功する。

 ーーが。

 「…………これは」

 蒼天の瞳が周囲365度一周し、一言そう口にする。

 通数秒前まで人を見下げていた摩天楼よ群は、あたり一面で屈服した様に崩れ落ち、その辺に散らばっている。

 実験場含め、周辺のビルは漏れなく崩れているため、中で待機していた面々の安否は絶望的。外部にて待機していた者たちも倒壊に巻き込まれ、飲み込まれたのか人影は周囲に見当たらない。

 しかし、無情にも新たに明確になる事実は存在せず、倒壊した大地の上で崩壊の亀裂が広がり続けているだけだった。

 「……酷い有様ね」

 「ほう、この惨事を生き残った者がいるか」

 「!?」

 突如として声が響く。

 方向は、ーー中央の瓦礫の中からだ。

 コンクリートの山が、ガラガラと音を立てて崩れ始める。

 「……だれ?」

 クレハの脳内には二つのパターンが、想定されていた。

 一つは、中央のビルから生き残った味方。

 もう一つは、五階分のビルを上空に飛ばした敵。

 「私がそれに答えたところでお前は私が何者なのかを明確に知ることはないだろう」

 灰色の塊をどかしながら現れたのは、全く見覚えのない男だった。

 背は高めで190センチあるかないかといったところ。

 髪は灰色でなんだか黒く軍服のような服装の外から見える体格はぼんやりとだが、それとなく引き締まっているように見え、彫りの深い顔立ちと威厳のある口調も相まって武人のような印象を受ける。

 そして、その瞳は常に色を変える玉虫色だった。

 「あんた……まさか!?」

 「なぜなら、我々は人を超えた存在なのだからな」

次回バトル回!

ちょっと本気で書きたいですw

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