悪徳貴族に狙われたため、ホモのふりしてます。
「俺の可愛いルーファを奪おうとするなんて、良い度胸してんな」
伯爵家主催の舞踏会にて、伯爵家令嬢と見目麗しい青年のやり取りは、青年の見目の身に目を奪われる人間は嫉妬を、青年の身分を察したものは若さによる青春劇かと苦笑をともに、大勢のものから関心を得ていた。
が、初々しい少女と青年のやり取りは、彼の人-男狂いの傀儡人形-にぶち壊された。
常は、柔らかいカーブを描く眉が吊り上り、サファイアの瞳は燃え上がるようにギラリと輝く。
温室育ちの令嬢にその瞳は受け止められず、有無なく青年を奪われた。
颯爽と、青年を引き連れ伯爵家の扉を出ていく姿に、令嬢は物語の悪役の姿を見た。
輝かしい表舞台から降り、青年2人はきらびやかで悪趣味な馬車に乗り込む。内装も、無駄な装飾がうっとおしくついている。そのことに、この飾り引きちぎったらまだましな見た目になるだろうと思いながら、ため息とともに座席に沈み込むように、持たれた。
「アーノルド様・・・・・・」
こっちを心配そうにみる、ルーファを今は見ることが出来ない。自分の心内を伝えることもできないだろう。
イケメン(ルーファス)爆発しろ、なんて。
「クソホモやろうって思われてんだろうな、良い男独占して。俺だって本当は、本当は、可愛い女の子に癒されたい!」
そこには、伯爵令嬢に凄んだ姿は欠片もなく、ただもてない男の嘆きをもらすアーノルドの姿があった。
モテない男の嘆きを漏らすような男、アーノルドがなぜ男狂いの傀儡人形といわれるようになったのか。
良くある話。アーノルドは、侯爵の一人息子として生まれ、両親を叔父に謀殺され、流れるように傀儡となった。ごく一般の人間と違うのは、アーノルドが幼い頃より物事に聡く、またどこかぶっ飛んだ思考の持ち主だったため、「そうだ、叔父に有望な人間をとられないよう、ホモのふりをしよう」と決意し、有望な男を見つけては愛人、恋人と称して囲ったことから、男狂いの傀儡人形とよばれるようになったのだ。
これもすべて、くそ叔父が悪い。
そう心内を整理し、叔父にばれぬよう動揺をおさめ、笑顔をうかべる。激昂をうまくあらわすように、アーノルドは普段笑顔がデフォルトになっている。また、叔父に害されぬよう凡君を演じている。凡君を演じるのに、ホモだということもうまく影響しているのが皮肉だなと、アーノルドは自身に苦笑する。
今日もアーノルドは、部屋に愛人(ほんとは部下)を呼びつける。
「多少腰痛めたふりしてろっ!ばれんだろ!」
ああ、早く成人してくそ叔父蹴落としたい。
アーノルド御年13歳の嘆きだった。