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4節 赤髪の男

 景色を眺めている内にリードもうとうとと眠っていたようで、目が覚めたときには3つ目の駅で列車が停車していた。

(ここって……ああ、『カラジェス』か。湖の町の『ライラント』の駅は過ぎちゃったのか)

 リードは目をこすりながら外の景色を眺める。緑一面の大地とはうって変わり、草木がほとんどない、涸れきった、しかし自分の故郷よりは賑やかな情景だった。

 砂の街「カラジェス」。海岸沿いにあるが、海岸に流れる海流が寒流の為、雲が出来ず、雨が降らない日が続く。そのため、砂漠地帯と化している。

 故に砂漠なのに涼しさを感じるが、空は暑く感じる程、燦々(さんさん)と晴れていた。

 リードの住む花の町「エーデル」とは違った文化が見られる。服装や街並みは勿論、駅前の広場にある灯台のような黄石の巨大な彫刻には驚いた。リードの知る限り、奥地にはこの街の先祖が遺した遺跡があるらしい。ちなみに財宝なんてものはない。

 イノは二人掛けの固い腰掛けの窓よりに座ってすやすやと寝ている。寝顔がとても美しく見えた。

(よくみると綺麗な人だなぁ。イノって女性なのかな?)

 そう思いながら見つめているリードはどこかうっとりとしていた。

「―――おい」

 突如声を掛けられリードはびくりとする。振り返ると、見るからに自分より倍はあるんじゃないかと思うほどの大柄な体に、和服のようなものを着た赤い髪の筋肉質な長身の20代後半に見える男がこちらを見下していた。

「は、はい!」

 屈強そうな男の荒っぽい表情と肉食獣のような鋭い目にリードは身体を強張らせる。なにより、リードが恐れていたのは顔や腕、胸に刻まれた数多くの傷痕と体中に巻かれたボロボロの包帯だけではなかった。背中に担いであったその男よりは大きな、如何にも重たそうな刃が錆びた大剣があったことだ。

(どこかの兵士かな? いや、狩人かもしれないな)

 関わるのは危なそうだと思いつつも、怖くて断ることができなかった。

「隣座っていいか? 空いてる席ねぇんだ」

 そう言われ、辺りを見渡すと、確かにこの車両では誰一人座っていない席はなかったように見えたが、人一人座れるスペースは幾つかあったはずだ。しかし、それを何故敢えてここを選んだのか。

「い、いいですよ」

 リードは恐る恐る答えた。「わりぃな」と赤髪の男はどかっとリードの隣を座る。そして担いでいた錆びた大剣を寝ているイノの隣に置いた。ズンッ、とこの車両が微かに振動し、床がミシ、と軋んだ音が聞こえた。それでもイノは起きなかった。

(ど、どれだけ重たいんだ)

 リードがますます怖く思いながらも黙り続けた。列車が汽笛と共に動き始める。

「おい坊主」

「は、はいっ」

「おまえひとりでサドアーネに向かってるのか?」

「あ、いえ、そこで寝ている白髪の人と一緒に……」

「白髪の人ぉ? いねぇぞそんなやつ」

「え?」

 リードはその言葉を疑ったと同時に何かの焦りを覚えた。

 そのとき、ガタンと列車が少し大きめに揺れ、イノのとなりに置いてあった大剣が傾き倒れ、寝ているイノにガツンと当たる。

「う……ん……?」

 イノはその衝撃で目を覚ます。その瞬間、「うぉっ」と隣の男が驚いたのは何故なのか。

「……こいつのことか? お前の言ってたやつ」

「え、はい、そうですけど……」

「なんで気付かなかったんだ……?」

 と男は何か考えているようだったが、リードにはそれがわからなかった。

(見えてなかったのかな? だったらイノって影薄すぎだよな)

「……あれ、もう着きました?」寝ぼけ眼でイノは尋ねる。

「あ、まだだよ。この次で着くよ」

「ふーん……あり、こんなのありましたっけ。あ、どうもこんにちわー」

 イノは赤髪の男に軽く挨拶する。寝ぼけてとろんとした声は気分を和ませる。

「お、おう。お前名前は? 俺はアウォード。鍛冶職人だ」

 イノは眠たそうな様子で話を聞く。今にも寝付きそうだ。

「あ~はい、イノって言います。旅人やってますね」

「旅人? ほぉ、見た目の割になかなか度胸があるじゃねぇか。このご時世、いろいろと物騒だからなぁ」

 んで、坊主はこいつの付添いか? とアウォードと名乗った男は訊く。

「は、はい。自分は花の町『エーデル』から来ました、リードって言います」

「エーデルか。何だ坊主、おまえ水の都へ買い物しに行くのか?」

「え、いや……」

 リードにとっては大冒険のつもりだったが、アウォードにとってこの列車に乗ってどこかへ行くことはただの移動手段にしか思っていないようだ。リードは自分の世界の狭さを恥じた。

「リードは旅人になりたいんですよー」

「ちょ、イノそれを言ったら……」

「ほぅ、旅人になりたいからこいつと一緒にいて何かを学ぼうって考えてるのか、坊主」

「え……あ、はい……」

 すると、アウォードは大きく笑った。その様子に流石にリードはむきになった。

「な、なにがそんなにおかしいんですか?」

「ハハハッ、いやぁ物好きもいたもんだ。お前みたいなガキんちょでも死にたがりはいるもんだな。それも、手始めに近所のサドアーネに旅っておまえ。あっひゃっひゃ」

「お、俺はこの世界を見て回りたいんです。生きるがままに、自由になりたいんです」

 すると、アウォードの表情は急変し、リードを睨みつける。殺されそうな勢いだった。

「まだ何も知らねぇ甘ちゃんが調子に乗ったこと抜かすんじゃねぇぞ。人が支配する人間界も、人が敗けた自然界も、おまえが思う以上に過酷だ。この白髪頭はどう生きているのかは知らねぇが、たぶんそいつも相当な目に遭ってきたはずだ。命が幾つあっても足りない。そんな世界の中で生きていく覚悟はあんのか」

 一瞬、その問いにリードは迷った。

 もしかしたら、自分の夢はただの憧れに過ぎなかったのか。死を覚悟したことはあったのか。

 ただ、今まではなかったかもしれないが、今は違う。

「……あ、ありますよ当然! 生き抜いて見せますよ!」

 アウォードは一瞬ぽかんとしたあと、また豪快に笑った。

「あっひゃっひゃっひゃ! 言うじゃねぇか坊主! 男に二言はねぇぞ?」

「も、勿論ですよ!」

「あっひゃっひゃ! あーおもしろ。お前名前は? あぁ、リードと言ったな確か。覚悟があるのはいいが、旅を知る為に旅人から何かを教えてもらおうとついていくようじゃ、まだまだアマチュアだ。ま、最低限教えてもらうのは別にいいとするが」

「そ、そうなんですか?」

「自由を選ぶんだろ? これから社会が発展して、義務として建物の中で人事に尽くす生涯を過ごす。そうなっていく時代に逆らうんだろ?」

「……はい」

「だったら、何事も一人で切り拓いていけるようになれ。頼っている様じゃ旅なんぞすぐに終わる。続きやしない」

「……」

「ま、見たところお前まだ青年期じゃなさそうだから、まだ旅立つには早いんじゃねぇの? まぁこの変な旅人から学ぶのもいいが、しっかり体鍛えとけよ。畑仕事程度じゃまだまだ足りねぇぞ」

 畑仕事を行っていることを見破ったアウォードにリードは「え」と驚くが、自分の手や身体の匂いを嗅いでみればそれはすぐに分かった。

「わ、わかりました。ありがとうございます」

「おうよ」

 アウォードは少しだけ笑う。その表情がリードにとってかっこよく感じられた。

「……んで、おまえは本当に旅人なのか?」

 アウォードは眠りかけたイノに話しかける。ふぇ? と目をこすりながらイノはひとつ大きな欠伸をする。

「そうですよー」のほほんと答える。

「でもよぉ、旅人なら荷物のひとつやふたつ、あってもおかしくはないと思うがなぁ」

 アウォードの言う通り、イノの手持ちは一切なかった。リードも今更ながら気付く。

「お金は服の中にありますよ」「……そうかよ」

「で、服は着ているそれだけか」「今のところそうですね」

 それを聞いてリードは驚く。だが、体臭は感じられない上、新品とまではいかないが、服がボロボロというわけでもない。

「食料は?」「そこらへんでなんか採って食べてます」

「獣を狩ったことは?」「ありますよー」

「武器は?」「ないですよー」

「素手でやってんのか」「そーですよー」

「どのくらい旅してる」「結構続いてますね。何年も」

「盗賊とかに襲われたことは」「結構ありますよ」

「人と戦ったことは」「あんまりないです」

「……」

 アウォードはイノの眼を睨むように見続ける。イノは首を傾げ「?」を浮かべていた。

(逃げて生き延びている輩か。いや、素手で獣捕えている奴が逃げる程の弱さじゃあるまいし……)

「見た目やその眼もそうだが、おまえみたいな変な旅人は初めて見るぜ。よく生きてこれたもんだ。おい坊主、こいつを参考にしねぇ方がいいぞ。普通の人じゃ長く続かん。生まれてからずっと密林の奥にでも住んでいない限りこんな旅のやり方はできねぇ」

「は、はぁ……」

「……ま、それはさておき、これも何かの縁だ。よろしくな、おふたりさん」

「よろしくです」

イノはアウォードと握手を交わす。

「お、陸繋路線に入ったか。もう少しだな」

 外を見てみると、砂漠の地域を抜け、辺りは青一色。水平線が見えた。

「うわぁ、海の上走ってるみたいですねー」

イノは感心して窓の景色に釘つけになっている。

「この大陸とサドアーネは土地的に繋がってんだよ。陸繋島と言ったか確か。まぁ、今この列車が走ってんのは海に浸かった陸繋砂州トンボロよぉ。海列車のようでなかなか景色がいいもんだろ」

 アウォードも窓から見える海を眺めている。相変わらずガタゴトと列車は揺れる。波の音がすぐそこから聞こえる。

「そういやイノだっけか? おまえはサドアーネに行くのは初めてか」

「そうですね」

「坊主は?」

「小さいころお父さんと一度行ったきりです」

「そうか。サドアーネはいいところだぞ。なにより街並みがいい。人は多いが、都会よりは窮屈じゃねぇし、街のやつらは大体が人がいい。居心地もいいから、俺はそこに住んでんだけどな」

 アウォードは懐かしそうな表情を浮かべて微かに笑う。

「アウォードさんはそこで鍛冶職人をやっているのですか?」

リードが訊く。

「おうよ。腕には結構自信あるんだぜ? あと、これからの産業発展の為に機械技術もかじってる」

「そうなんですか」

「こう見えても、サドアーネじゃ少し有名な方でな。ま、大体この顔つきじゃあ寄ってくるやつは多くねぇが」

 アウォードは目や頬などに刻まれている古傷を歪ませ、豪快に笑う。

「へぇー。あ、イノ寝てる」

「寝るのが好きだなぁこいつはよぉ」

 ふたりはその幸せそうな寝顔を見る。汽笛が大海原へと響く。

 列車は海を走り、もうすぐで水の都へと辿り着こうとしていた。


正直、自分の文章がちゃんとした文になっているのかわからないんですよね。

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