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3節 列車の旅

 花の町の活気溢れる賑やかな商店街を抜け、駅へと着く。イノとリードは黒光りしている古びた列車に乗る。蒸気の排気音を唸らせ、列車はガタゴトと走り始める。

「すごいなー、列車に乗ったのいつぶりだろう」

 リードは目を輝かせながら車窓から見える景色を眺める。イノも同様だった。

「イノ、知ってるか? この列車って炭出さないんだって」

 頬に貼られた白いバンドエイドを少し気にしながらリードが話しかける。

「蒸気機関車なのに?」

「うん、燃料の石炭を使わずに一回で大量の電力を発電させる機械があって、それを一定間ごとに発電させることで、その電力を使って熱へと変えて、燃料の水を蒸発させて動かしてるんだよ」

 固い腰掛けから伝わるリズミカルな振動に揺られる。景色は既に田んぼなどは無く、ただ緑の大地が広がっていただけだった。開いた窓から吹き抜ける風が微かに髪を揺らす。

「へー、よく知ってますねぇ。でも大量に発電できるならその電力で列車動かせるんじゃないですか?」

「そこまで電力は無いし、列車が造られたときの技術がまだなかったから電気を熱に変えることぐらいしかできなかったんだ。でも、黒煙出さない列車って結構自然に優しいよね。それが何か好きなんだ」

「僕もそう思いますよー」

「だよね! 最近なんでか息苦しい煙を出す機械や乗り物が増えてさ、どんどん空気汚れてるんだよ。正直自殺行為だと思う」

「技術の進歩ですか。まぁそのとき便利だと感じたら真っ先に使いたがりますからね僕等って」

「そうか?」

「そうですよ。デメリットより目先のメリットを選びたがるのは人間の性ですし、野生の生き物でも同じです」

 景色は緑の大地に変わりはなかったが、奥地には蒼白色の急峻な山脈が聳えており、雪が積もっていた。風も涼しくなってきたのでここは高原なのだろう。高原に咲く白い花が風で散り、舞い上がるそれは美しいものだった。

「そっかー。イノはさ、どこから来たの? 服装もなんか旅人のイメージとはちょっと違うし」

 リードの言う通り、イノの服装は白いワイシャツのような上着に黒いアンダーシャツ、黒に近い藍色のジーンズに見えるズボン。生地は上質ではないが、肌触りの良い、動きやすそうな服だ。

 旅人というよりはどこか街に住んでいる私服に近く、見た目だけではどうも旅をしている様には見えない。そうリードは思った。

「遠いとこからです。山に住んでました」

「山? 山村に住んでたの?」

「いえ、人一人いない大きな山です。名前は分かりません。そこがどこかも知らなかったんで」

「他の場所にはいったことなかったんだ。なんか随分大変な生活だったんだね」

「そんなことないですよ~」

 イノは呑気に言う。

「あと、なんで髪が白くて目が赤いの? もしかしてそういう病気?」

「そうだと思いますよ。自分でもわかりませんけど」

「へぇー、じゃあ、イノはなんで旅を始めたの?」

「うーん……やっぱり自由にいろんな場所を見てみたいことですね」

「何か目指してることはある?」

 質問攻めにされても、イノは丁寧に答える。

「……特に決まったことはないです。ただ―――」

 そのとき大きな汽笛が鳴り響く。同時に列車のスピードが減速し、やがて停車する。

「駅に着きましたね」

「ここは確か……遊牧地で有名な『ヘルボル高原』だったと思う。この先に集落があるんだ。更に奥へ行くと油田があるよ。ほら、こういう切り立った山脈って石油が多くあるから」

 リードはつらつらと説明する。イノはへぇーというしかなかった。

 列車の扉が閉まり、再び動き出す。ガシャン、ガシャンと一定間隔で続く機械音が振動と共に響く。

「そういえば、初めて会ったとき、どうやってあいつらを追い払ったんだ? あいつら、イノの左手見て顔面真っ青になって逃げていったけど……」

 すると、イノは「にひひ」とイタズラな笑みで

「魔法です」

「……へぇ、そうなんだ」

 リードはこれ以上問い詰めないことにした。

 この世界に魔法という非科学現象は実在しない。世間ではそう唱えられている。

 故に、リードはイノの言うことは冗談として受け入れたが、あまりにも自信満々に言うので少し気が引いた。

(で、結局なんだったんだろうな……手からなんかやばいものでもだしたのかな? 手品なら有り得そうだな)

「この列車って都会とか繋がってますか?」

 イノは先ほどの会話がなかったかのように話題を変える。

「この列車は昔からあるやつだから、都会とはつながってないんだよね。だから駅の数も少ないんだよ」

「あと幾つ駅があるんですか?」

「あと二つでサドアーネにつくよ。1時間ぐらいで着くと思うけど」

「結構スピードあるのに時間かかるんですね」

「それだけ距離があるんだよ」

「じゃあ寝ようかな」

「え、寝ちゃうの?」

 リードはつまらなさそうな顔で言う。もっと話がしたいようだ。

「うん、疲れたし」

「じゃあ駅についたら起こすから……って、もう寝たの?」

 イノはぐっすりと寝付いてしまった。相当疲れていたのだろう。

「……まぁ、話したいことは後ででも聞けるか」

 リードは変わる景色を浮き浮きした気分で眺望していた。


今回は少し短くなりました。

もしかしたらこのような短い回が続く可能性があるかもしれませんね。

自分次第ですが(笑)

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