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16節 少女の記憶

 イノとアウォードは月光の差す中央ホールへ歩き、辺りを見回す。内部はおろか、外から一切の音が聞こえない。不思議に思うほど、静寂だった。

「もう、いねーよな。にしても兵がここへ入ってこないのはなんでだ?」

「ここでなんか始めるんじゃないんでしたっけ」

「そうか……でもよ、こんなぼろっちい幽霊塔に何があるってんだよ」

「まっくろくろすけですね」

「なんだよそれ」

「真っ黒なカビですよ」

「は? それがなんだってんだよ」

 アウォードは呆れ、奥の方へ行こうとする。



「――――ぅわああああああああああああああ」



「ん? ……っ! おいマジか!」

 上を見上げると、リードとエリナが落ちてきていた。

 アウォードは一瞬唖然し、即行動へ移る。

「くそっ!」

 アウォードは身体を構え、落ちてきた二人を両腕で抱くように受け止め、落下の衝撃で受け身を取るようにその大きな体躯を地面へ倒した。アウォードが巨体な分、子供のリードと女性のエリナの小柄な体格はしっかりと受け止められたのでこれといった怪我はないようだ。

「……あ~痛ぇな畜生。おい、大丈夫か?」

 アウォードは身を起こし、ふたりを地面に座らせる。リードとエリナは震えていた。それはそうだ。塔の屋上から落ちてきたのだから。

「はぁ……はぁ……」

「し、しぬかと……思った……もうダメかと……おもった……」

「もう大丈夫だ。ここは一階だ。もう落ちねーし、死にはしない」

「……あ、アウォードさん」

 リードが震えた小声で言う。

「おう、また会ったな坊主」

 アウォードはニッと微笑む。

「いやー無事でよかったです。ナイスキャッチです」

「……っ! イノ……無事だったんだね……」

 エリナは今助かったときのとは別の安堵感を表情に浮かべた。

「イノ、あれ、撃たれたんじゃ……」

 リードはイノをまじまじと見つめる。

「無事ですよー」

「な、なんで?」

「まぁいいじゃないですか。リードも無事でよかったです」

 あははとイノは笑った。

「おまえなんでそんな余裕なんだよ。こいつら無事だったからよかったものの」

「そんだけ赤髪ちゃんを信じてるからですよ」

 自慢げにそう言った。

「……はぁ。ま、んなことより、なんで屋上から落ちてきたんだ?」

 アウォードが訊くとリードははっとした表情になり、イノらに説明する。

「あ、あの社長が縄を解いた途端につき落としたんだ! 何考えてんだあいつ! 殺す気か!」

「まぁまぁ落ち着いて牛乳でも飲みばひょぃ!」

 アウォードがイノの顔面に軽く裏拳を振るう。

「少しはこいつらの気持ちを考えてやれバカ白髪。死ぬとこだったんだぞ」

「まー、今生きているんだからいいじゃないですか」

「……ねぇ、なにあれ……?」

「はい?」「あ?」「え?」エリナの指差した方向を3人は見る。

 その先は真っ暗だが、目を凝らせば瓦礫や柱とは違う何かがあるのが確認できた。

「なんだぁありゃ」

「機械っぽいですね」

「もしかして、この塔の地下にいるあれを呼び起こす装置じゃ……?」

「ていうかここだけじゃねぇ、この部屋中になんか電線とか装置とか設置してあるじゃねぇか。暗くて気が付かなかった」

「盲目ですね」

「うるせぇ」

 そう言ったとき、上から声が聞こえてくる。デクトの声だ。

「……てっぺん高いな。あいつの声がよく聞こえん」

「他にも兵とかいるみたいですね。なんかこの機械を起動させて、ここを深く掘るっていってますよ」

「おまえよく聞こえるな……おい、それってこっから早く出ないとやばいんじゃねぇの?」

「ですね」

 イノはにこっと笑う。

 同時に機動音が塔の中央であるこのホール中で共鳴する。

「――っ! 早くここから出るぞ! 急げ!」

 アウォードはそう叫び、エリナを抱える。イノはリードの手を掴み、走るアウォードよりも早く塔を脱出する。

 外まで出た4人は塔を振り返る。塔の中からはドドドド、と大型の機械が地面を掘るような轟音が響いていた。

「……っ、兵がいない……?」

 外に兵はひとりもおらず、がらんとしていた。どこかへ避難したのだろう。

「ちょっと危なかったな。いつからあんなの施してあったんだよ」

「い、イノ……走るの速すぎ……腕とれそうだった」

「まぁ無事だったんですから。でも……」

 イノは塔を見る。内側から大量の砂埃が漏れ出し、大きな振動は今にも塔を崩しそうだった。

「…………」

 エリナは黙ったまま悲哀の獣の塔を見続けていた。


       ※


「――ここって……?」

「――『悲哀の獣の塔』。俺ら一族が代々守っている、ある神様のお墓だよ。この街でもあまり知られていないところなんだけど、ここに来たばかりのエリナには見せておきたいって思って」

「――……」

「――な、なんかごめんな、紹介した場所がお墓だなんて、正直気味悪いだろ。見た目が廃墟だもんな。で、でも俺の知ってるとこってここぐらいしかないしさ……それに」

「――あはは、私まだ何も言ってないよ? とってもいいところじゃない! 神秘的で素敵だと思うな私は。なんだか感動しちゃった」

「――え、ほ、本当に?」

「――うん! それに、ここってなんだか落ち着く。気持ちが安らぐっていうか。そうだ、中も案内してよ。ね?」

「――あぁ、いいぞ。……ありがとな、エリナ」

「――うん。ねぇフィル」

「――なんだ?」

「――……ううん、やっぱりなんでもない」

「――そうか。……な、なぁエリナ」

「――なあに?」

「――……俺、おまえを守れる男になるから……今は情けないし、差別人種だけど、

ちゃんと強くなって守れるようにするから……ずっと、ずっとだ。だ、だから……

 ――俺と、結婚してください」

「――……っ!」

「――………」

「――……ぇ……ぁ……」

「――っ! ご、ごめん! 泣かせるつもりは……! あの、やっぱり今の言葉は」

「――何も言わないで……違うの……嬉しいの、私……」

「――……え……?」

「――あ……うん……え、と……こ、こんな私ですが、よろしくお願いします……!」

「――エリナ……! あ、ありがとう……!」

「――……うん……っ!」


      ※


「――エリナさん」

「…………え?」

 そこにいたのは自分の恋人によく似た旅人だった。

「エリナさん、大丈夫?」その横にはリードがいた。とても心配そうに見ていた。

「……え、と、うん、大丈夫……」

「かなりぼーっとしてたよ。ずっと塔を見続けて」

「そう、だったの……」

 そのとき、急に音がなくなり、しんと静まり返る。

「……終わったみたいだな。にしてもこんな塔の中に何があるってんだ?」

「怪物だよ、昔神様と言われていた生き物がこの塔の地下で眠っているんだって」

「……ほんとうか」

 冷静にアウォードはリードを見た。

「うん、それをあいつが狙っているんだ。戦争の為とかどうか」

 それを聞いたアウォードは深い溜息をつく。

「……ま、政治や経済云々の動機でこんなことするのはくだらねぇが、厄介なモンに手ぇ出したってことに変わりはねェな」

「……どうしよう、本当に目覚めちゃったら……」

 フィルから詳しく教えてもらっているエリナにとって、その神様の存在は恐ろしいものだと把握していた。

「流石に、俺もさっきのですっかりボロボロだ。普通の兵ならともかく、怪物なんかと連戦できるかどうか」

「へー神様が埋まっているんですか。どんな味がするんでしょうね」

みんなが不安に思っている中、イノだけはうきうきしていた。


明日からこちらの都合上、しばらく投稿することができませんので、ご了承ください。大変申し訳ありません。

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