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13節 野戦攻城

SF的説明と戦闘が中心です。

 深夜12時。悲哀の獣の塔にて。

「さぁて、準備はできたか?」

 廃墟に等しい塔の三階にデクトはいた。夜の為、月明かりしか光の頼りがない塔の中、その階の中央は吹き抜けており、一階へと貫いていた。一階にはこの歴史観ある塔には不釣り合いな、最新の大型機械が設置されていた。

 周りには十数人の兵が待機しており、塔の周りも同様、警備を張るかのように数十の装甲兵がその塔を守っていた。

「はい、あとは床に穴を空け、媒体を投下するだけです」

ひとりの兵が言う。デクトはにやりと笑った。

「しっかし、まさかこの俺が直々に塔に来るとはな。仲立人ほかのやつらも呼んでおけばよかったか。まぁ、俺のものになるんだ。生みの親として見届けてやらねばな」

 デクトは塔の壁を見る。そこには縄で縛られたリードとエリナが身動きを取れずにいた。

「おい! さっさとこの縄ほどけ!」リードは叫ぶ。

「少しは反省すると思ったがなぁ。折角の偉大なる瞬間を台無しにしないでほしいんだが」

 デクトはやれやれと呆れる。随分と悠々と余裕ぶっている。

「この塔で何をするつもりなの?」

 エリナは聞く。

「それは見てのお楽しみだ。と言いたいところだが、生憎お前も関わっているからな。すべて話してやるよ」

 デクトはパイプを咥え、煙を吐く。

「俺が、いや俺らの会社がこの塔を売れと言い続けてきたのには理由があってな、どうしてもこの塔を手に入れなければならなかったんだよ。少なくとも、テメェの家を売られたって何の価値にもなんねぇからな」

「そんなにこの塔には価値があったのかよ」リードが聞く。

「勘違いしているようだが、金銭的な価値じゃねぇよクソガキ。軍事的な価値だ」

「でもこの塔には何も――」

「あるんだよこの地下深くにな!」

 デクトは決定づけるかのように怒鳴った。塔の中でデクトの声が反響する。

「あの一族の末裔と一緒に暮らしていたテメェなら知ってるだろ。大地の神が一度この地を滅ぼしたってな」

 それを聞いたエリナは心当たりがあったのか、顔を青ざめる。

「……っまさか、そんな……」

「あぁそのまさかだ! 密かに調査を続けてきた結果、この塔の真下の地中深くにその神と畏れられたバケモンがいるんだよ。それも化石とかじゃねぇ、卵があるんだ」

 おい、とデクトは言うと、傍にいた兵がなにやら書類をデクトに渡した。デクトはそれをパラパラとめくりながら、説明を続けた。

「正確にはまゆなんだが、この生物特有の成長過程があるようで、環境に合わせてそいつは皮膚を内部脱皮して卵殻、まぁ繭代わりになって、気圧、温度、日射量、卵殻外に生えている繊毛せんもうを触覚代わりに情報収集して己の遺伝子配列を変えるらしい。そして、その環境に適応した種へと変態する。場合によっちゃあ両生類のかえるよりも劇的な変貌を遂げられる」

「な、なんでそこまで知ってるんだよ。大昔のことなんだろ?」

 少し興味を持ったリードは質問をする。

「はん、今の技術を見くびるなよ田舎者。なにもこいつ一匹だけじゃねぇ。どっかの大陸で同種の化石のひとつやふたつ手に入れてできるだけ復元してDNA調べれば一発だ」

「……その繭を掘り起こすのが目的なの?」

「ああそうだ。それを新しい軍事力として取り入れるんだよ。この先時代は荒れ狂う。世界各国で戦争が勃発するかもしれねぇ。そこでデクト財閥の最新兵器、そしてこの斬新な生物兵器を得、改良、増殖して軍事力、つまり財力の強い国を治めようってわけだ。なにより交渉相手はあのバイロ連邦だ。この時代の中心になるであろう超大国のひとつだ。この大船にのってりゃ嫌でも財力は上がる!」

「財力財力って言うけど、そんなに財力って必要なのか?」

 すると、「はぁ?」とデクトは顔を歪ませ、リードの目の前に立つ。

「世の中なぁ、腐っても金なんだよ。愛だのなんだのほざく平和主義者もいれば、金は厭らしく汚いという奴までいるが、結局は金が無きゃあこの世界では生きていけない。そんな下らん幸福論はいらねぇんだよこの現実社会に! 金がありゃあ権力だって土地だって軍事力だって医療だって手に入る。金で手に入らないものもあるとはいわせねぇぞ。金は万物だと思ってんのかよ、金を小汚いものでしか見てねぇくせによぉ。確かに金で買えんものはある。だが、金で買えるものの方が多いんだよ。愛とか友情とかの感情や時間とかは買えないだろって、当たり前だろ現実見とけや! と俺はそんな妄想信者に言ってやりたいもんだ。なにより、金は命より重い。これは何よりの事実だ。金のねぇ奴は権利をも奪われる。不自由なもんだよ」

「……」

 さて、話を戻そうと冷静に戻ったデクトはパイプを再び吸い、

「生物兵器となるそいつは何千年も続く生命維持の為仮死状態にある。乾眠ってやつだ。水分で生き返るんだが、大地震でも起きない限りそこに水が往き渡らないからよ、俺らが人工的に呼び起こそうとしているんだ」

「でも、呼び起したところでどうやって捕まえるの? 言うことを聞くとは限らないし、神話のような力はないかもしれないでしょ?」

 エリナの問いにデクトはあっはっはと笑いあげる。

「良~い質問だ。まず言っておこう。神話ではなく、記録としてこの土地で栄えた国を滅ぼしたのはその生物だというのは事実だ。そして、俺たちにはその神と畏れられる程の生物を操れる手段を既に用意してある」

 デクトは壁際の透明なボックスを持ち、ふたりの前に見せる。

 その箱の中には黒い石のような塊があった。月明かりに反射して、少しだけ紫色の光沢を放っていた。

「……石?」

リードは目を凝らしてそれを見続ける。

 デクトは自慢するような表情で話し始める。

「こいつは鉱物かと思ったら大間違い。厳密には粘菌。生物だ。夜行性なんだが、この個体だけなんでか昼の状態にあるんだ。体内時計でも狂ったのか?」

 とデクトは冗談を言う。

「どこにも見ない新種の菌だ。昼間はこのように石や壁のシミなどに擬態するんだが、夜になると活発化し、アメーバ体になり、植物や眠っている小動物の栄養分を吸収する。おかげで、このあたりはすっかりと腐食地帯となったがな」

「もしかして、幽霊塔の噂の正体って……この菌の仕業?」

「まぁ、妥当だな。しっかし、人まで襲って命を奪うまでに至るとは流石に驚いた。まぁこれにも訳はあるんだが」

「なんでなんだ?」

「はっきりしていることは、俺たちがこの菌を新兵器開発に利用する為に回収していることだ。仲間が減ったことでもっと数を増やさないとってこの菌は判断したんだろ。それで年々増殖し続けている」

「でも、この菌で兵器? 生物兵器とかの材料に使うのか?」

「れっきとした機械兵器の補助代わりだ。どうやら、この粘菌には母体がある様で、地表に出てきてんのは蜂でいう『ワーカー』ってやつだ。母体に栄養を届けるためにワーカーがこうやって養分を求めているんだろ。ほうら、おまえのすぐそこにそいつがいるぞ」

「え……ってうわぁっ!」

 リードは床に倒れ込む。リードのいた壁際には手と同じぐらいの黒いアメーバがべたべたと壁を這うように活発に移動していた。

「リード君! 大丈夫?!」

「危うく餌になるところだったな。ハハハハハ」

「これがその菌かよ……き、気持ちわりぃ」

「で、でも、これがどう関係しているの?」

「この菌の母体があの生物の繭に寄生してるってことが判明した。それだけじゃねぇ、この菌は無線電波みたいにマイクロサイズの胞子をレーザー状で飛ばして意思疎通していることも、個体の意志で神経や電気系統を菌糸で操作し、動物や機械を操れることも判明した。これでもう、わかるな?」

「……! そのカビを使って、逆に母体を操作するってこと?」

「正~解だ。そうすれば母体が寄生しているその生物を操作できる。実験も成功している。確証ありだ」デクトはにたりと笑う。

「てことは、おまえらは戦力を手に入れるためにこの塔の地下に眠るバケモノをその黒いカビを使って目覚めさせるってことか」

「その通りだクソガキ。だが、それだけじゃあそのバケモノは目覚めねぇ。ある物質が要る」

 そう言ってポケットから取り出したのは赤い液体が入った小瓶だった。

「それは……?」

 エリナが聞くと、デクトはにたぁっと笑い、

「血だ」

「え……?」

 デクトは蓋を開け、透明の箱の中にいた個体の黒カビにその血をかけ、すぐに箱の蓋を閉めた。

 すると、その黒い石はたちまち溶け出し、アメーバ状になったが、動きが先程見た個体とは異なり、格段と移動力、というよりは攻撃的な動きに変わっており、ガタンガタンと箱を揺らし、横に倒れる。箱の蓋は開いてなかったので逃げ出すことはなかった。

「な……っ」

 リードはその現象を前に驚きを隠せなかった。エリナも同様だった。

「こいつは変わった生き物でな、ヘモグロビンによって酸素ではなく自身から微かに発生している独自の酵素と結合することで分子立体構造が変化するに伴い、酵素の基質親和性が変化し、酵素の働きが促進される。アロステリック促進といったか、まぁそれによって凶暴化と言わざるを得ない程に活発化するんだ。これなら、この菌にすっかり寄生されてしまったバケモノを呼び起こすのも不可能ではない」

「……っ、そんなことさせるかよ!」

「ほう? ならやってみろや。手足身体縛られているお前に何ができる」

 デクトはリードの腹部を蹴り、起き上がろうとしたリードを床へ倒す。

「リード君!」

「……あぁ、おまえらを連れてきた理由をまだ答えてなかったな」

 デクトは二人を見下し、パイプを吸って吐き捨てるように言った。

「地下のバケモノを呼び起こすための媒体にしようと思ってな」

「「……っ!」」

「ははは、まぁ驚くだろうな。死ねと言っているようなもんだからな」

「お……俺らの血で呼び起こす気なのかよ……っ」

 その声は震えていた。

「人工で造ったヘモグロビンより人間の大量の新鮮な血の方が活力が上がると思ってな。あぁ、大丈夫だ。死因は事故にしておくから安心しろ」

「……そういう問題じゃねぇよ! ふざけんな!」

「うるせぇなぁガキって奴は」「うぐっ」

 そう言って再びリードの腹部を蹴る。リードは蹲ってしまった。

「黙ってりゃあ良いものを。少しはこの女を見習えってんだ」

「……」

「どうした? 死ぬのが怖いか? そりゃそうだろうなぁ、バケモノの一部になるんだから。ま、いいじゃねぇか、テメェの恋人にもうすぐ会えるんだからなぁ」

 そう言った途端、エリナはキッとデクトを睨んだ。

「……なんだその目は。文句あんのか?」

 癪に障ったのか、デクトは不愉快な顔になり、エリナの髪を鷲掴み、殴りつけようとしたときだった。

「社長!」

 下の階段からひとりの兵が駆け寄ってきた。

「……なんだ。トラブルか?」

デクトはエリナを突き放す。

「いえ、森に誰かが入ってきたという報告が先程ありまして……」

「市民か? それとも役人か?」

「いえ、まだ特定は……」

「まぁいい、さっさと追い払え」

「はっ」

 兵がその場を去ろうとしたとき、もうひとりの兵がデクトのもとへ駈けてきた。

「社長! 侵入者です! こちらの警告を無視し、強行突破されました!」

 包囲網を張った兵も役に立たなかったのをデクトは歯を噛み締めるばかりだが、冷静に応えた。

「……誰が来た」

「はい、確か――」


       *


「我々の警告を無視したな! その上暴力を上げるとは!」

 十数人の装甲兵がふたりの人物に銃を向け怒鳴る。

 目の前には悲哀の獣の塔が月明かりに照らされていた。その姿は幽玄さを誇り、古き故の威厳を放っていた。しかし、その塔の周りには何十人もの装甲兵が銃や剣を構えている。

「あーあー、見ろ言わんこっちゃない」

 アウォードは苦笑し、数メートル先の前方で倒れている一人に兵を可哀想にと見る。

「赤髪ちゃんって見た目通り力あるんですね。あそこまで蹴り飛ばすなんて」

「これでも最近鍛えてない方だぜ? 大丈夫かよここの兵は」

「どこの者だ! 名乗れ!」

「いやいつの時代だよその台詞」

 アウォードは再び苦笑する。

「ただの剣持った市民と旅人ですよ。そこ通りたいんですけどいいですか?」

 アウォードの傍にいたイノは銃を向けている兵へと近づく。

「う、動くな! これ以上近づけば撃つぞ!」

 と兵は警告するも、イノの歩む足は止まらない。

「……だから何度も言うけどな」

 アウォードは背負った錆びた大剣を抜刀し、イノの前に盾として構えた。同時に発砲された弾丸が大剣に被弾するも、カン、と簡単に弾かれる。

「銃ってもんを知らんのか死に急ぎ野郎が!」

「あっはは、いやぁ何度もすいません。ありがとうございます」

 アウォードは半ば怒っても、イノは呑気に笑う。

「だったら勝手な行動をするんじゃねぇ!」

「それにしても、こんなに集まって何をするんでしょうね。祭かな?」

 ふたりは目の前に広がる大勢の兵を見た。

「ふん、こんな物騒な祭りがあるかよ。けどまぁ、血祭には最適ってやつか」

 アウォードがニィッと歯を見せて笑ったとき、

「――おい! テメェらか! 侵入者っていう奴は!」

 塔の方から声が聞こえてきたので塔へ目を向けると、崩れかけて窓の様になった壁の空洞から装甲ではない、高級そうなスーツを着た小柄の中年男性が見えた。デクトだ。

「お、あいつが主犯か。……よくみりゃデクト財閥の社長じゃねぇか。なんでこんなとこにいるんだよ」

 大剣を背にしまい、デクトを見る。

「……白髪頭の小僧に赤髪の男か……誰だが知らんが、こんな時間にこんなところに来てもらっちゃあこっちも困るんだよ。これから大事な用事がここで行われるんだ。できれば今す――」

「――エリナさんとリードを返してください」

 言葉を遮り、イノは言い放った。その目はまっすぐとデクトを見ていた。

「……なんだ小僧、そのふたりの知り合いか? ……あぁなんかクソガキが言ってたな、もう一人いるって。それがテメェってわけか。はん、テメェもまた随分と貧相だな。……で、そこにいる赤髪は何の用で来た」

「セコイ詐欺財閥のクソ社長の質問に答える筋合いはねぇよ」

 声を張り、塔にまで反響する。ここからの距離は少しあった。

 デクトの蟀谷こめかみに血管がうっすらと張る。

「随分と口が達者だなぁ。あぁそうだ、俺は器が広いからな。最後のチャンスをやろう」

「ああ言ってる時点でかなりの小心者だぞ」

「おお、なるほど」

 ふたりは周りに聞こえない程度に話した。

「おまえら二人に金をいくらでも払おう! だからここから立ち去ってほしいんだがね。さぁ、いくら欲しい」

 それを聞いた途端、アウォードは呆れた表情でため息をついた。

「ハッ、なーにを言うかと思えば、金かよ結局。ある程度名の知れた社長も所詮こんなもんか」

 アウォードは救いようがないなと見下した目で苦笑した。

 だが、イノは目を輝かせて、

「マジですか! いくらでもいいんですか!」

「……おまえ、マジで言ってる?」

「だって、いくらでも払ってくれるんですよ? 遠慮してたら勿体ないじゃないですか」

「……まさかおまえがそういう奴だとは思いもしなかったぜ……」

 アウォードは片手で頭を抱え、これ以上ない程の呆れた目でイノを見る。

「はっはは! どうやらその白髪の小僧はこの話に乗ったようだな。それじゃ、森の入り口で手配させておくから、そこへ行ってくれないかね?」

「え、いまここで貰えないんですか? いますぐここで貰いたいです」

「大金を貰えるんだ、そのぐらいの条件は呑んでほしいがね」

「でも、僕ここから立ち去る気ないですよ」

 素朴に言った言葉がデクトの顔をぴくりと動かした。

「……は?」

「お金貰っても、僕は帰る気はないですよ」

「……? あぁ、そういう考えか」

アウォードは小言で納得する。

「……話聞いてたのかおい、それだと交渉は成立しねぇぞ。馬鹿かお前」

「エリナさんとリードを助けるのを優先してますんで。まー、ついでに何か貰えたらよかったんですけど」

 デクトはイノの会話のペースに耐えきれず、言葉を挟む。

「……あぁそうかよ。そんだけなんか貰いたいんなら、銃弾でもくれてやるよ!」

 それを合図にデクトの持った銃から発砲音が轟く。すると、それが全兵への合図なのか、何十人もの兵がふたりに襲い掛かってくる。

「結局こうなんのかよ」

「話し合いで解決できればよかったんですけどね。あとお金――」

「バーカ、一端の財閥相手に俺たちみたいな庶民の説得が通じるかよ。でもま、やっぱ喧嘩は漢の華だな。腕が疼くぜ」

 そういうと、アウォードは背中の大剣を抜刀し、片手でそれを地面へ突き刺す。刃は錆びてボロボロになっているので、土に刺さったというより重みで剣が埋まったように見て取れる。

「結構いるが……まぁ俺一人でなんとかなる。おまえは下がってろ」

 後ろにいるであろうイノに言ったあと、アウォードは大剣を片手で抜き、叫びながら前方を薙ぐ。

「うぉおおおおあああああああああああ!」

 ドゴォン! と装甲がまとめて砕けるような粉砕音が響く。

「「「ぎゃああああああああ」」」

 剣を構え、斬りかかろうとした数人の装甲兵は軽々しく前方へと吹き飛ばされる。

 剣で振り払う。その一撃は、その場の装甲兵を畏怖させるのに十分だった。

「おお、すごいですねー」

 イノは楽しそうな顔で感心する。

「ぎゃっはっは、やっぱ現役の時が一番だな。鍛冶ばっかりですっかりナマっちまった」

「な、なんだあいつ! ただの市民じゃないのか!?」

 兵の声を聞きながらアウォードは大剣をブゥンと片手で振り回し、肩に置く。

「おい、『罪狩り』って知ってるか?」

 アウォードは叫ぶようにその場の兵全員に、イノに、塔の中にいるデクトに問いかける。

「犯罪者を捕まえるために武力行使できる警察、というよりは自警団といってもいいか。所詮賞金稼ぎのようなもんだが」

「そんなのあるんですか」

「まぁ知らんのならそれでいい。あまりいい職じゃねぇからな」


「っ、思い出した……!」

 ひとりの兵が呟く。その表情は真っ青だった。

「思い出したって……?」

「そもそも罪狩りってなんだよ」

 他の兵が訊く。

「『罪狩り』は軍人よりも残虐、まるで賊衆だ。しかもかなり強くて、犯罪者の殺害を許されている、非常に危険な組織さ。けど、そんな罪狩りの中にも化物みたいに恐れられていた奴らがいたんだよ」

「ど、どんな……?」

「今も数人いると思うが、数年前、『罪狩り』内でも危険視された問題児がいて、そいつは大量殺人を何度も繰り返してきたんだ。罪人はおろか、罪のない善良な市民も見境なく皆殺し。罪でない者を多く殺してしまったから2、3年前その組織から外されたけど、それでもかなり強く、全盛期で幾つかの国軍を殲滅してきたほどだ。噂じゃ竜巻の様に兵を薙ぎ、戦車を大剣で叩き斬ったらしい」

「そ、それが、あの傷だらけの赤髪の男か?」

「あぁ、確か名前はアウォード・アルセンディア。あの大剣の錆びは人の血によって酸化されたと聞くぞ」


「うぉらぁああああああああああああ!!」

 ドゴン! と衝撃が轟く。その度装甲兵が悲鳴を上げ、数メートル吹き飛ばされる。

「ぎゃっははァ! こんなもんか雇われ兵はよォ!」

 近接戦では敵わないと知ったのか、装甲兵の群はいったん退き、銃を担いだ装甲兵に前線を張らせた。

「ま、正しい判断だな」

 発砲音とともに数発の銃弾が向かってくる。アウォードは大剣を前に翳し、盾として銃弾を防ぐ。巨大な剣なのでその盾はアウォードの大きな身体を覆う程だった。銃弾はいとも簡単に弾かれる。

 兵は銃弾でも効かないと判断し、今度は迫撃砲を向け、砲弾を放つ。

「おいおい、こんなとこで戦争でもやるつもりだったのかよっ!」

 アウォードは大剣を地面に突き刺し、身を構える。

 ドガァン! と被弾し、爆発するも、アウォードは爆撃に堪え、吹き飛ばず、その錆びた大剣も傷一つ付かなかった。

「バ、バケモンかよあの男! それにあの剣もただの鉄じゃねぇぞ!」

 「ぎゃっはは」と笑いながらアウォードは大剣を見せつけるように前にかざす。

「そんじょそこらで造った剣と思うなよ。素材も工程もわざわざ選んで丹精込めて造った俺の相棒だ。切れ味も耐性も重さも生半可じゃねぇ。刃が錆びても鉄鎧ぐらいなんてことはねぇよ。忙しくて剣の手入れができなかったが、おまえら救われたな。テメェの身体ぶった斬られずに済むから……よぉ!」

 迫撃砲を叩き壊し、大剣を振り上げて兵ごとその重兵器を斬り飛ばした。

「「「ぎゃぁあああああああああああ」」」

「どんどん行くぜぇ、覚悟しな軟弱共ォ!」

 百キロは越えているであろうその巨大な剣の重さでも軽々しく振り、鋼鉄の装甲を砕きながら一気に何人もの兵を薙ぎ飛ばしている様は鬼の様であった。

「ぎゃっはっは! もう少し歯ごたえのある奴ぁいねぇのかァ!」

 赤虎はその血を滾らせ、赤く錆びたその牙で獲物を食い荒らしていく。


初の戦闘シーン。表現がよくわからずに自分なりに書いてみましたが、気になるところやよかったところがありましたら感想をお願いします。

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