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第八話 許嫁が不敵にほほ笑む中、他の女子に誘われた

 俺のクラスに向かって、二人の女子が歩いていた。ただし、一人の女子が、もう一人の女子を引っ張ってきているという構図だ。


「や、やっぱり止めようよ~。爽太君をデートに誘うなんて」


「弁当を渡しておいて、何を今更、怖気づいているのよ。それにデートじゃないわ。ただ友人として休日に遊びに行くだけよ」


「友人?」


 さっきまで赤らんでいたアカリの顔に、落胆の色が混じる。何だかんだ言って、やはり俺の彼女になりたいらしい。いくら仲が良くても、友人では不満ということか。遠慮しがちな外見に似合わず、思ったより欲張りな一面もあるかもしれない。


「そ! いきなり彼女にしてくださいはないでしょ。今まで玉砕した奴らは、結果を焦り過ぎたのよ。だから、私たちはじっくり攻めるわよ」


「で、でも……。いきなり押しかけたら爽太君に迷惑だよ」


「迷惑なもんですか。女子に言い寄られて嬉しくない男子なんて、この世にはいないのよ」


 ずいぶん強引な理屈の気もするけど、木下を見ている限り、あながち間違いとも言い切れない。


「第一、歯牙にもかけていない女子から、弁当を受け取る馬鹿がどこにいるのよ。あんた、脈ありよ」


「脈あり!」


 さっきまで沈んでいたアカリの顔が、また赤らみだす。沈んだり、元気を出したり、なかなか忙しい子だ。


「とにかく! あんたは黙ってさえいれば、学校でも一・二を争う美少女なんだから、自信を持ちなさい! 援護射撃が必要なら、私がいくらでも飛ばしてあげるから」


「び、美少女なんて……」


 顔を赤らめてうずくまるアカリに、ゆりが耳打ちする。


「今晴島君と付き合っているチビなんかより、あんたと歩いている方がずっと画になるわ。美男美女のカップルで、校内の噂は独占よ」


「そ、そんな……、褒め過ぎだよ」


 そう言いつつも、アカリはまんざらでもない表情をしている。きっと俺とのラブラブな学校生活を妄想しているに違いない。




 アカリとゆりが幸せな会話でキャーキャー騒いでいる間、俺はアリスと歩いていた。登校拒否になったら、どうしようと心配していたが、一日休んだだけで、健気にも学校に来たのだ。さすがアリス。記憶喪失になっても、俺の惚れた女だ。


「学校に来て大丈夫なのか? 警察には行ったのか?」


「うん、被害届は一応提出してきたけど……」


 警察か。ちゃんと動いてくれるといいんだけど。ちなみに、Xを見つけた場合、どんな罪に問われるんだろうか。他人の記憶を奪った罪では逮捕されないから、脅迫罪とかに問われるのかな。


 それで捕まってもすぐに出てきちゃうよなと思っていると、メールが届いた。着信音が鳴らない設定にしていたので、アリスは気付いていないみたいだ。


『警察に届けても無駄だよ……』


 差出人の名前は書かれていなかったけど、誰からのメールなのかは、すぐに判断がついた。Xだ……。こいつ、警察に届けられたというのに、まだこんな余裕ぶった態度でいるのか。


 気になったのは、前回とメルアドが違うことだ。


 アリスに気付かれないように、態度に出さないようにして、返事を出す。


『無駄ってどういうことだよ。自分は警察に捕まらないとでも思っているのか?』


 アリスと警察のことについて話している時に、このメール。この近くに、また潜んでいるのか。昨日と同じで、どこにいるかは分からず……。


 俺がメールを出すと、すぐに返信が来た。


『そもそも警察のことを考えないで、メールを送ったりすると思っているの? 私のことを甘く考えているよ。甘く考えるのは、私との幸せな生活だけでいいんだよ。それなのに、相変わらずアリスと仲が良いんだね』


「どうしたの? 怖い顔をして」


「いや……、何でもないよ」


 俺の様子がおかしいことに気付いたアリスが、心配そうに顔を覗き込んでくる。アリスを不安がらせるのは嫌なので、無理に笑顔を作って取り繕った。


 どういうことだ? 警察に動かれても、平気だということか? そんな馬鹿な……。


『分からないって顔をしているね。でも、今に分かるよ……。じゃあ、今日はここまで❤』


 意味深なことを言って、また一方的に打ち切ろうとするX。でも、ひとつミスを犯したな。


 やつはメールで、俺の表情について触れている。つまり、あいつは俺の顔が覗きこめる角度にいるということだ。


 全方位を探すよりも、場所が限定できる分、探しやすい。全神経を集中させて、近くにいるだろうXを探す。


 このまま逃さない。見つけてやる……。その時、前方のドアがガチャリと開いた。


「そこか!」


「わわっ!?」


 許嫁のことを考えていたから、きっとすごい顔をしていたと思う。俺と目が合った瞬間、茂みから出てきた二人は、思い切り驚いていた。


「あ、ごめん……」


 出てきたのは、アカリと、彼女の友人と思われる名前も知らない女子生徒だった。根拠はないが、たぶんこの二人はXとは違う。


「ご、ごめんね。いきなりドアを開けたからビックリしたんだね」


「あ、ああ……。ちょっと神経が昂ぶっていてさ」


 どういう訳か互いに言い訳を始めてしまう。


 何となく気まずい雰囲気に苦笑いしていると、アカリの連れが、俺の顔を見ながら、何かを耳打ちしている。これは告白の類を後押しする時の動作だ。そう思っていると、アカリの顔が赤らむ。おいおい……、こっちは隣に彼女がいるんだぞ。別に告白するのは自由だけど、タイミングを考えてくれよ。


 そう思って、アリスを見ると、彼女はアカリの胸元を凝視していた。自分にはないものを、恐る恐るというか、興味津々というか、とにかくわき目もふらずにじっと見ている。


「え、え~とね」


 アカリが意を決したように声を出す。咎められると思ったのか、アリスはビクリと全身を震わせていた。


「こ、今度の日曜日にさ。どこかに遊びに行かない?」


 来た……。遊びの誘いだ。成る程。いきなり告白するんじゃなくて、まずは一緒に行動して仲良くなっていく作戦か。


 でも、俺の返事はいつもと同じ。


「悪い。俺、最近、忙しくてさ。他の男子を誘って行ってよ」


 ちょっと素っ気ないかとも思ったけど、彼女たちに構っている暇はないのだ。


「そんなつれないことを言わないでさ。何も付き合うとかじゃなく、一緒に遊ぶだけだから」


「ごめんね」


 嘘をつけ。最終的に付き合うための布石だろ。そんな見え見えの罠には引っかからないよ。


「昨日、弁当を受け取ってくれたじゃない。その延長と思ってさ」


 他の女子から弁当を受け取ったことは、あらかじめアリスに伝えてある。だから、この話題が出ても、俺が慌てることはない。


「あれはただ人助けをしただけだ」


「人助け?」


 鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしている女子に、アカリに弁当をもらった経緯を説明してやった。最初はきょとんしていた女子も、徐々に顔を紅潮させていく。あれ? 俺の話に怒る要素なんて存在したかな。


「何を出まかせを吐いているのよ! ていうか、そんな嘘を真に受ける方も、受ける方よ。学校一のイケメンって、馬鹿なの!?」


 そう言って、アカリの頭をポカポカと殴りだす。アカリは言い訳をしながら、体を丸めていた。


 何だ、こいつ。会って早々、人のことを馬鹿呼ばわりするとは、礼儀を知らない奴め。


「おい、止めろよ。アカリが痛がっているじゃないか!」


「あ、そ、そうね。私ったら、取り乱しちゃって……」


 俺が厳しい言葉で間に入ると、赤面して笑顔を作って手を止めたけど、今更だよな。俺はまだ体を丸めて縮こまっているアカリを立たせた。


「ごめんなさい。昨日の話は嘘です……」


 申し訳なさそうに、アカリは緊張のあまり、つい出まかせを吐いてしまったことを認めた。たった今のいざこざから、そんな気がしていたので、俺は気にしなくていいと告げた。そもそもそんな嘘を信じた俺にも、非はある。


「じゃあ、誤解も解けたところで、改めて断るね。ごめんなさい」


「ああっ! 一瞬、これはいけるんじゃないかと期待したところに、まさかのノーセンキュー。これが鉄壁のガードを誇る晴島爽太の真骨頂だというの!?」


 ゆりと名乗ったアカリの親友が唖然としていたが、俺を相手にする時に、油断は禁物なのだ。


 さて。アカリからの誘いを上手く断ったら、アリスとまた雑談でもするかと思っていると、彼女が俺の裾を引いて、言いにくそうにお願い事を申し出てきた。


「私も……、行きたいかなあ……」


 顔を赤らめながら、おずおずとデートのおねだりをしてくるアリス。これはこれで、可愛いかも。


「そうか。アリスが言うのなら、仕方がない。今度の日曜日に遊びに行くか」


 さっきまで断る気満々だったのに、態度を急転換させて、行くことに賛同した。これには、アカリとゆりもびっくりだ。


「え? 本当に! やった!」


 アカリが大喜びしていたけど、彼女はむしろ歯ぎしりして悔しがるところだと思う。一緒になって喜ばれてもな。


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