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第八十五話 王子様は、白雪姫に口づけをすることなく去ったのでした

 ~前回のあらすじ~


 廊下で倒れていた優香を運ぼうと、一人で奮闘した木下は、誤って彼女のスカートを無残にも再起不能にしてしまったのでした。



 ……ひどいあらすじだ。もう少しまともな文章に出来なかったものかね。


 ため息をつきながら、優香を見ると、依然横たわっていた。一応、スカートの下は見えないように、俺の上着で隠しているが、こんなものでは応急措置にもならない。木下は、頭を抱えてうずくまっているし……。お前が主犯なんだから、もっとシャキッとしていろよ。


「やっちゃったものは仕方がないだろ。俺も一緒に謝ってやるよ。お前は一人じゃない……」


「無理だって。絶対にムラムラして襲ったって思われるよ……。誰も俺たちの言葉なんて信じちゃくれないって……」


「そんな取り乱すまでのことじゃないだろ。お前の目を見れば、助けようとしていたことくらい、みんな分かってくれるよ。もっとも、優香が意識を取り戻して良い仲になったら、最終的には襲うつもりだったんだろ? ある意味、間違いないけどな」


「お前……。前からすごいやつだと思っていたけど、斜め上にもすごいやつだったんだな……」


 それは褒めているのか、呆れているのか? どっちとも取れるような、微妙な表情でしみじみ言うのは止めてほしいものだね。


 まあ、俺に後の処理を、本気で丸投げして、逃走を図らないだけマシか。仕方がない。すごいやつとして、腐れ縁の危機に、救いの手を差し伸べてやるか。


 とりあえず急がないとな。ここは昼の学校。いつ人が、通りがからないとも限らない。そもそも、さっきから誰も通らないという事態が、奇跡みたいなものなのだ。いつ、現実に戻ってもおかしくないのだ。仮に奇跡が続いても、優香が目を覚ましたら、アウトだ。彼女の悲鳴で、みんなが駆けつけてくる。落ち着いて会話をしているが、実は結構、一刻の猶予もなかったりする。


 俺は、携帯電話を取り出して、増援を頼むことにした。


「あ、アリスか」


 電話に出たアリスに、これまでのことを詳しく話した上で、あるお願い事をした。この際、あとで面倒にはならないように、下手な嘘はついていない。


「彼女に頼むのかよ……」


 横で会話を聞いていた木下が、それは止めておいた方が良いんじゃないのかという顔で、こっちを見ている。俺だって、彼女に、こんなことを頼みたくはない。決して、本意ではないのだ。


「他に手はあるのか?」


 あるのなら、今すぐにでも計画を変更して、お前の案に、全力で乗っかるが? だが、予想通り、木下は情けない顔で、俺から視線を外した。


「ほら……、これを使いなさい」


 アリスが替えを持ってきてくれた。危惧していた通り、呆れかえっていた。だが、仏頂面ながらも、優香に着せる作業までしてくれた。彼女曰く、男どもにやらせる訳にはいかないとのこと。俺も、彼女の前で、女子にスカートを着せるのはごめんだったので、むしろホッとした。


「アリスのスカートを標準レベルの女子に着せると、ミニスカートにしているみたいで、何か興奮するな……」


 この状況の元凶ともいうべき木下が、アリスのスカートでは隠しきれなかった、優香の生足を見て、興奮気味に呟いていた。当然、俺とアリス、両方の耳に聞こえた。


 そこからは、反射的に足が出ていた。目的地はもちろん、木下の顔面。俺の蹴りがやつを届くのと同時に、もう一本の足が並行して飛んできた。アリスの足だ。申し合わせた訳ではないのに、アリスと息の合ったダブルキックを浴びせてやったことになる。


 これには、木下もたまらずのけ反っていた。それを、アリスと二人で、ドヤ顔で見下してやった。木下、ざまあ!


「この子って、木下君が最近、ご執心になっている雪城優香よね」


 顔面を抑えて悶えている木下を横目で見ながら、けだるそうに呟いた。アリスによると、優香とは、何度か面識もあるとのことだ。表情から察するに、あまり愉快なエピソードではないみたいなので、敢えて聞くようなことはしない。


「そうなんだ。本当、何も学校の廊下で倒れることもないだろうに」


「私はもう行くけど、ここからは爽太君だけでも大丈夫よね」


「ああ」


 厳密には、木下もいるんだがね。さっきの失言のせいで、一時的に空気扱いされてしまっているようだ。哀れだが、自業自得ってやつだな。


「呼び出して悪かったよ。ありがとうな」


「本当よ。こんなことで呼び出すのは、これっきりにしてほしいわね」


 呆れながらも、アリスは俺と木下を見て、露骨なまでに深いため息をつくと、優香を一瞥して去っていった。優香に対して、何かを言いたそうな顔で睨んでいた気もするが、今は保健室に運ぶのが先決だ。今度は俺が、優香を運ぼうと、彼女を掴む手に力を入れた。もちろん、スカートの裾を踏んでいないか確認するのは忘れないし、おんぶで運ぶようにもした。


 保健の先生が丁度いたので見てもらうと、軽い貧血の様で、しばらく休ませれば問題ないだろうということだった。


「おおかた、こんな校則スレスレのミニスカートなんぞ着ているから、体調でも崩したんだろ」


 優香のスカートをつまみながら、からかうように先生は言った。さっき観てしまったばかりなのに、スカートの下が見えてしまいそうで、思わず顔を背けてしまう。


 本当は、ちゃんと校則に準拠したスカートを着ていたんですよ。彼女は、決して校則を破るような子ではありません。濡れ衣です。……と、これまでのことを洗いざらい説明して、優香の身の潔白を証明してやりたかったが、そんなことを出来る筈もなく、愛想笑いをするしかなかった。


「……それにしても、お前ら。よく耐えたな。こんな美少女が寝ているんだったら、ちょっかいを与えてもいいものだけどな」


 捉えようによっては、手を出さなかったことを非難しているようにも聞こえる。この先生、相変わらずだなあ。アリスを保健室に連れてきた時にも感じたことなんだが、腕は確かなんだが、性格がなあ……。


「……ええ、まあ」


 とりあえず曖昧な笑顔で誤魔化す。本当は誤解される一歩手前だったんだが、そこは黙っておくことにするか。


「本当に、つまんねえの……」


 あれ? 何か舌打ちされたんだが、どういうこと? 俺たち、間違ったことはしていないよな。なのに、この対応を間違ったような顔をされたのは、何故!?


 腑に落ちないものはあったが、俺たちの役目はもう終わったみたいだし、下手に長居したら、さらなるトラブルに巻き込まれそうな気がしたので、教室に戻ることにした。先生は、もう少し遊んで行けと言ってくれたが、俺は嫌がる木下の手を引いて、強引に保健室を後にしたのだった。


「あのまま保健室にいたら、絶対に、教師との背徳恋愛が待っていたのに~!」


 俺に手を引かれながらも、木下は盛んに叫んでいる。俺はそうは思わない。弱みを握られて、奴隷にされると思うね。「X」とは別の意味で、あの先生からはやばいものを感じる。許嫁のおかげで、そういう感覚は磨かれているのだ。


「くっくっく! 目を覚ました優香は、俺のことを保健の先生から聞かされるんだよな。そこから愛が始まるんだぜ」


 しばらくしたら、今度はこれだ。つくづく懲りない男だよ、木下は。


 ほとんど働いていないのに、ずいぶん過剰評価するんだな。少なくとも、ロマンスは始まらないと思うぞ。先生の話術にもよるが、せいぜい「ありがとう」で終わりだろう。もう少し厳しい現実と向き合ってほしいものだ。




 翌日の放課後、優香が俺のところにやって来た。何の話かと思っていたら、昨日の件でお礼を言いに来たのだと言う。来ないと思っていただけに、ほんの少し面食らってしまった。


「保健の先生から、話は聞いています。何でも、爽太君一人で、廊下で倒れていた私を、保健室まで運んでくれたとか……」


 優香は、俺に向かって、深々と頭を下げた。本当は、後二人、手を貸してくれた人がいるんだけどな。保健室に行かなかったアリスはともかく、木下の存在は、完全に忘れられた訳だ。


「廊下で倒れているところを見かけたから、運んだだけだ。貧血はもう大丈夫なのか?」


 優香は、笑顔で頷いた。そして、運んでくれたお礼に、自宅に招待したいとまで言ってくれた。優香の自宅というと、先日拓真を運んだ、あの家だよな。立派だったんだが、いたずら書きでデコレーションされた拓真の顔しか、印象に残っていない。


 また拓真と会う気がしなかったので、気を遣わなくてもいいとやんわり断ったのだが、しきりに誘ってくる。しかも、俺を誘う優香の顔が、妙に熱っぽい。


 これは恋愛フラグが立っているな。もし、木下だったら、歓喜の涙を流しているところだが、彼女持ちの俺としては、絶対に断らなければ!


今更なことですが、優香の名字、雪城よりも白雪の方が良かったですね。

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