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第七話 男子に人気のいじられっ子が、俺にアタックを仕掛けてきた

 学校に到着早々、一人の女子から告白されることになった俺は、木下やアキと別れて、人気のないところまで連れて行かれた。


 そして、わずか数分後、俺は力なく教室に向かって歩いていた。丁寧に断ったのに泣かれてしまった。どうも女の涙は苦手だ。


「さっきの女子が許嫁だったら、話は終わりなんだけどな」


 そんな訳はないだろう。もし、許嫁だったら、あれくらいで諦める筈がない。断り方によっては、「あなたを殺して、私も死ぬ」とか言い出して、包丁を振り回して襲ってきかねない雰囲気が漂ってくるんだよな。


 ちゃんと断れるか、不安になってきたところで、後ろから人の気配がするのに気が付いた。ここは学校だから、人が後ろにいることは珍しくない。でも、俺を付けてきているような気が……。


「ふむ。試してみるか」


 わざと同じところを何度も周回する。俺の勘違いだったら、後ろのやつは途中でどこかに行く筈。でも、律儀に尾行してくる。こんな意味のない移動をしていることを、不審に思わないんだろうか。俺に気付かれていることにも、まだ勘付いていないようだし、仕方がない。こっちから見つけてやるか。


「ねえ、君。さっきから俺の後を付けているようだけど、いい加減に出てきてくれないか?」


 誰か分からない相手に話しかけてみる。でも、向こうは姿を現してくれない。往生際が悪いな。


「姿を現す気がないなら、それでいい。接触して来ない奴に、興味はない。俺はこれから全力でここを離れる。君のスピードではついて来られないだろう。俺に話しかけたいなら、今がラストチャンスだよ」


 実際、足には自信があった。比べて、尾行しているやつはあまり速くない。俺が本気になれば、すぐに撒くことが出来るだろう。


 向こうも不味いと思ったのか、ようやく姿を現してくれた。


 物陰から出てきたのは、予想通り女子だった。確か、木下が所持している秘蔵のコレクションの中に、この子の写真も交じっていた気がする。残念ながら、名前は覚えていないけど。


「私、7組の安曇アカリといいます。付け回していてごめんなさい。気分を悪くしていないでしょうか!」


 緊張のためか、一気にまくしたてるように話し出した。よく透き通る声だったので、多少早口でも、問題なく聞き取れるレベルだったので、特に不便は感じなかった。


「あ、あの……。これを受け取ってほしくて……、話しかける機会を窺っていました……。すいません」


 いきなり謝らなくても……。差し出してきたのは、手作りの弁当だった。メッセージ付きだったりするのかね。


「ごめんなさい」


 気持ちはありがたいけど、俺にはアリスがいるので、丁重にお断りした。即座に断られると思っていなかったらしく、女子はかなりビックリしていた。


「え、で、でも……。せめて中を確認してもらうだけでも……」


「悪いね。せっかく作ってきてもらって悪いけど、それを受け取る訳にはいかないんだ」


 断るのは、これが初めてではないので、冷静に対処した。ただ、いつもと違ったのは、ここからだった。


「う、受け取ってもらわないと困ります」


「困る?」


 どうせ俺に弁当を受け取ってもらうための詭弁だろうと思って聞いていると、驚きの事実を続けた。


「あ、あの……。実は私……。苛められているんです!」


「え……?」


 予想していなかったワードの出現に、俺の余裕は崩れ去った。


「苛めっ子から渡すように言われていて、こ、このお弁当を爽太君に渡さないと、ひどい目に遭っちゃうんです!」


 そんな大変な理由があったのか……。


「君……」


「ま、まずい! 変な嘘をついたもんだから、爽太君、すごく怒っているよ!」


「そういうことなら、是非受け取らせてもらう! 苛めを黙って見過ごす訳にはいかないからね!」


「そ、爽太君……」


 アカリが嘘をついたことをポロリと言ってしまったのは聞こえず、あっさり騙されてしまった。


 無事に弁当を手渡すと、彼女は何度もお礼を言いながら去っていった。人助けをするのは、本当に気持ちの良いものだな。


 それで弁当の中身はと……。ご飯に、焼きそばにサンドイッチか。おかずの類はなし。全部炭水化物で統一している。なかなか個性的な弁当だな。




 個性的な弁当に唖然としている頃、アカリは、自分の教室に戻ってきていた。目的を果たすことが出来たので、凱旋する気分だろう。結果を親友に報告すると、相手も驚いていた。


「あのガードが固いことで有名な晴島爽太にアタックが成功するなんてね。私の睨んだ通りよ。男はみんな巨乳が好きなのね」


「え!? ゆ、ゆりったら、セクハラだよお」


「何がセクハラよ。この! この!」


「ひゃああ……! や、止めてよお……」


 いきなり胸を揉みだした親友に、アカリは止めるように懇願したが、握力は強くなる一方だ。


「何が……、『俺は胸の大きい子が好きだ』よ……。こんな脂肪の塊が、そんなに良いのか。え?」


「ゆ、ゆり……?」


「こんなもの……。私の力で潰して、ぺちゃんこにしてやるわ……」


「や、止めて~。痛いよお~」


 アカリの胸を揉んでいる内に、徐々にヒートアップしてきた。おそらく胸の大きさのせいで、苦い経験があるのだろう。


「はあ、はあ……。つい取り乱しちゃったわ。ごめんね、アカリ。こんなつもりじゃなかったんだけど、スキンシップの一環で揉んでいる内に嫌なことを思い出しちゃったわ」


「うん……。そんなことだろうと思ったよ……」


 クラスメートたちの好奇の視線に晒されながら、二人で呼吸を荒げつつ、一応の仲直りをする。


「た、確かさ……。晴島君の彼女さんって、今記憶喪失なんだよね……」


「そうよ。その隙を狙って、彼女の座を奪ってやろうという困った輩が最近増えているらしいわ。ひょっとしてアカリも狙う気なの?」


「う、うん……。卑怯かもしれないけど、そのつもりだよ。密かに想い続けてきた人だから……」


 てっきり「そんなんじゃないよ」と赤面しながら否定すると思っていただけに、大胆な告白に、ゆりの方が驚いてしまう。


「へえ、男に関して奥手のあんたが、ここまで積極的になるのを見るのは初めてかも。良いんじゃないの? 親友として協力するわよ」


「ゆりちゃん……。ありがとう!」


 Xのことだけでも頭が痛いのに、ここにもまた勘違いにより暴走する連中がいた。ていうか、苛めはどうした? 俺は弁当を渡さないと苛められると聞いたから、受け取ったんだぞ。




「う~む。やはり炭水化物の集中攻撃は、腹にくるな……」


 弁当の容器はそんなに大きくないのに、もうお腹がいっぱいになりつつある。おかずのありがたみに、今更ながら気付かされる。


 捨てる訳にもいかないので、中身は責任を持って、消化することにしたけど、心が折れそうだぜ。


 それにしても、さっきの子、大丈夫かなあ。苛められているって言ったから、弁当を受け取っちゃったけど、これって根本的な解決にはなってないよね。


「おお! 上手そうなものを食ってんじゃねえの!」


 俺の背後から、恨めしそうな顔で弁当を睨んでいるのは、木下だった。俺がアカリの手作り弁当をもらったのを誰かに聞いたのだろうか。見るからに、機嫌が悪い。


「これには訳があるんだ。この弁当を受け取らないと……」


「サンドイッチをもらうぞ」


 俺の話に聞く耳を持たずに、ひょいとサンドイッチを取り上げると、勝手に食べ始めた。さらに言うなら、食べて良いとも言っていない。


「学園ナンバー2の巨乳の持ち主、アカリさん。密かに狙っていたのに、お前にお熱だったとはね。これで虹塚先輩にまで、お前にアタックされた日には……」


「悪かったよ」


 また木下の愚痴が始まりそうだったので、早めに謝っておくことにした。俺が悪い訳じゃないのは百も承知だけどね。


「安曇アカリ。校内でトップクラスの容姿を誇る美少女で、胸以外には余分な脂肪がつかない体質と、もっぱらの噂だ。実際、胸以外はほっそりしているしな。その分、胸にはとことん脂肪をため込んでいる。今にもはちきれそうで、見ているこっちが冷や冷やするくらいだぜ」


「冷や冷やしているのは、お前みたいな男子からの好奇の視線に晒されているアカリの方だろ。お前のことだ。アカリとすれ違うたびに、胸ばかり凝視しているんだろ?」


 俺の追及に、目を反らしているところを見ると、どうやら正解らしいな。とにかく、やけに旨を強調した説明をありがとう。熱弁の割に、偏っているせいか、彼女のことをたいして理解出来なかったよ。


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