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第七十四話 アキの語る、ベストだけど最低な復讐方法

 とっておきの復讐法を思いついたというアキに連れられて、俺とアリスは、近隣の中学校を訪れていた。そこは意外に近隣にあって、駅三つ分くらいしか離れていなかった。


「ここが例の間男が通っている中学校ですか」


「間男と言うな……」


 下校時間ということもあり、授業を終えた中学生たちが、続々と校門から出てくる。何人かは、こっちを物珍しそうに見ている。だが、高校生に食ってかかる勇気はないのだろう。興味はあるが、接触してこようとするやつはおらず、みなちら見するだけで、通り過ぎていく。


「これから、あの糞ガキのところに殴り込みでもかけるのか?」


「まっさか~! 彼がどのクラスかも分からないんですよ?」


 アキは笑って否定していたが、仮に殴り込みをかけようとしていたとしても、俺が止めていたけどね。


「大体お義兄さんや私が入ったら、すぐにばれちゃいますけどね。お姉ちゃんなら、上手く立ち回れば侵入は可能だと思いますけど」


「ぶつわよ。本気で」


 アキのあまり冗談には聞こえない言葉に、アリスが真顔で返す。アキは、平静を装っていたが、結構マジでビビっていた。


 いやいや。制服を着ていない時点で、三人共すぐにばれるから。年齢や外見の問題じゃないから。


「何を企んでいるかは知らんが、それは学校に潜入しないといけないものなのか?」


 アキが考えている作戦については、まだ何も知らされていない。雲をつかむような気持ちで、アキに質問してみるが、違うと否定されてしまった。


「いえ。人と会うだけですから。潜入の必要は全くありません」


「じゃあ、どうしてここまで来たの? あ、分かった。私をからかいたかったんでしょ。ねえ、そうなのよね。そうだって言いなさいよ。そうしたら、あなたのほっぺをつねってあげるから」


 アリスがにじり寄ってくるのを、アキは涼しい顔で流している。ただ、冷や汗をダラダラ流しているところを見ると、図星のようだな。


「潜入の必要がないなら、どこか落ち着いた場所で作戦をまず聞かせてくれないか。お前に訳が分からない状態で連れ回されるのは、いい加減にしんどい」


 こっちは起きた時から振りまわっされぱなしなのだ。本音を言うと、どこかで休みたいというのが本音だけど。それに、こいつがちゃんとした作戦を考えているのかも、一度吟味しておきたかった。


「そうしたいのは山々なんですけど、持ち合わせがないんですよねえ……」


 そう言って、明らかに媚びる視線をこっちに向けてくる。アキにたかられることの多い俺は、こいつが何を言いたいのかを、すぐに理解出来てしまった。


「分かったよ。奢ってやればいいんだろ?」


 投げやりな返事をすると、アキがにっこりとほほ笑んだ。成る程、最初から喫茶店や、ファーストフード店に行かなかったのは、俺に奢らせるためか。この商売上手め。結局、またたかられる訳ね。




 面白くない気分で、中学からそんなに離れていないファーストフード店に入ると、いつもの調子でアキの分の料理を注文してやった。アリスの分も払おうと思ったが、さすがに出来た姉だ。申し訳ないと、やんわり断ってくれた。


「それで? いい加減話してくれるんだよな。お前の考えた復讐方法」


 席に着くなり、単刀直入に切り出した。財布を軽くしてくれた分、とっとと白状してもらうぞ。


「もぐもぐ……。あ! このハンバーガー。ソースとトマトの相性が抜群!」


「……」


 俺の話より、ハンバーガーに舌鼓を打つ方を優先するか。相変わらず良い根性をしているな。


「もっとマスタードをかけた方が美味しいんじゃないか? 手が塞がっているみたいだから、俺が直接口の中に注入してやるよ……」


「あ、お義兄さん。今、話すから、ちょっと待って……!」


 俺がカスタードを片手に立ち上がると、口の中が黄色まみれになるのは嫌だったらしい。明らかに慌てだして、食べる速度を上げた。そして、ゴクリと飲み込むと、作戦をようやく話し出した。


「一言でいうとですね。浮気相手をぶっ飛ばすんですよ。あ、ぶっ飛ばすといっても、お義兄さんやお姉ちゃんがやるんじゃないですよ。だからといって、私がやる訳でもありません」


「じゃあ、誰にやらせるんだ?」


 殺し屋を雇うとか言い出さないよな。こいつなら、言いかねないから、何か不安だ。


「浮気相手の彼女、もしくは元カノにやらせようと思います」


「……ずいぶん思い切ったことを考え付くわね」


 敵に回した場合、ある意味では殺し屋より厄介な存在ではあるのは認めるけどな。


「話を聞く限り、やつは相当の数の女性を泣かせていますね。でなければ、あそこまで簡単に鉄の女であるお姉ちゃんを翻弄できる筈がありません」


「誰が鉄の女よ……」


「きっと一人や二人は、やつに恨みをいだいている女性がいる筈です。その子に接近して、こう囁くんです。『一緒に復讐しよう』と……」


 一緒にといっても、実行するのは、その恨みを抱いている子なんだろ。早い話が丸投げじゃないか。


「恨みを抱くねえ。そんな都合よくいるかな。いても、見つけられるかなあ」


 万が一、見つかったところで、俺たちに協力してくれるとも思えないしな。実現すれば、面白いことになると思うけど……。


 疑いの眼差しをアキに向けるが、そんなことは計算済みだったらしい。自信満々の笑みを浮かべて、話を続けた。


「そこでお義兄さんの出番です」


「え!? ここで俺が登場しちゃうの?」


 絶対にろくな役割じゃねえよ。出来ることなら、最後まで蚊帳の外にいたかった……。これは、俺の復讐劇でもあるから、面倒くさいところだけ他人に押し付けることは許されないとは、分かっているんだけどね。


「やつに騙されて、精神的に落ち込んでいるだろう彼女に接触して、甘い言葉と端正なルックスで、ハートを射止めちゃうんです。そして、すっかり自分の虜になったところで、復讐を依頼するんですよ!」


「最高の作戦みたいに語っているけど、それって、結婚詐欺師の手口じゃない。しかも、爽太君が浮気することが前提になっているのも、気にかかるわ」


「大丈夫。心が傾かなければ、浮気にはなりません」


 何が大丈夫なんだろうか。今回だって、アリスは、あの糞ガキに心が傾いていないのに、ぎくしゃくする羽目になったんだぞ。


「大体作戦が成功した後、口説いた彼女はどうするんだよ。俺にはアリスがいるから、そのまま関係を続けることなんて出来ないぞ」


「そこは……。お義兄さんの方で上手く処理してください」


「一番肝心なところがオフレコって、どういうこと? 下手したら、今度は俺が恨みを抱かれるんだぞ」


 処理の仕方を間違えたら、俺まで女を弄ぶ最低野郎になってしまうじゃないか。最悪の場合、逆上した彼女に、糞ガキと同じような制裁も与えられてしまう。


「寝取られた分は、寝取り返してやるんですよ! やられたら、やり返すの原則です」


「私、寝取られていないから」


「そもそも寝取るって表現は、どうにかならないのか」


 そう言うと、途端にいかがわしくなってしまう。実際のところは、キスしかしていないんだよな。それをいかがわしいという人もいるけど。


「さて……。どうしますか? 私の編み出した作戦。乗りませんか?」


 料理を食べ終えたアキが、口元にハンバーグの食べかすを付けたままで、身を乗り出して尋ねてきた。


 どうするかだって? そんなことは考えるまでもない。俺は、間を置かずに、はっきりと断言してやった。


「あり得ないな」


「ふえ?」


 俺があっさり断ると、アリスはホッとしたように胸を撫で下ろし、アキは唖然としていた。何だ、その反応は? 俺が首を縦に振るとでも思っていたのか? そんなことをするくらいなら、自分で殴るわ!


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