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第七十二話 仲直りの後は、復讐の密談を 前編

 二日連続で学校を休んだ俺を心配したアキが、わざわざ家まで起こしに来てくれた。俺の横に、謎の女子が寝ているのが発見されるというハプニングはあったが、どうにか丸く収めた。


 その過程で、俺とアリスが、ぎくしゃくした関係になってしまっていることを知ったアキは、仲直りさせようと、俺を学校へと引っ張っていったのだった。


 年下の女子に手を引かれながら進んでいると、どうしても通行人から好奇の目を向けられたが、アキが手を放してくれないので、されるがままにしておいた。そして、三日ぶりの学校へと足を踏み入れることになった。


「おい! お前、どこまで俺を引っ張っていく気だ。まさか教室までついてくるつもりじゃないだろうな?」


「? 当たり前じゃないですか。何を言っているんですか」


 さすがにそこまではしないだろうと思って聞いてみたら、何を当たり前のことを聞いてくるのだろうという顔をされてしまった。彼女の妹に仲直りの仲介をされているところを、クラスメートたちに見られると思うと、全身に寒気を感じた俺は、アリスを呼んでくるから、屋上で待っているようにと伝えた。


「大丈夫ですかあ? 結局、声をかけられないまま、授業が始まっちゃうオチじゃないですかねえ」


「馬鹿にするな」


 正直、その可能性も考えられない訳ではないが、アキにそこまで気を回されるのは、胸にイラッとくるものがある。やつの頭をコツンと叩くと、一人で教室に向かっていこうとした。もちろん、完全に強がりだ。


「あれ? ちょっと待ってください。お姉ちゃんを発見しました。中庭を歩いています」


「……マジか」


 窓から中庭を見下ろすと、確かに俺たちのいる校舎に向かって、中庭を歩いていた。となると、先回りすれば、下駄箱のところでアリスと会うことが出来るな。


 そう思って走り出そうとしていると、アキが思いきり深呼吸した。何をする気かと思っていたら、次の瞬間、アリスに向かって、大声で叫んでいた。


「お姉ちゃ~ん!!」


 こいつ……。窓から身を乗り出して、恥ずかしげもなく……。名前を呼ばれたアリスは、当然気付いたが、校内で呼びかけたものだから、全然関係のない生徒まで振り返る始末だ。他人の振りをしたいのだろう、気付いているのは間違いないのに、こっちを向こうともせずに、足を速めている。


「あっ、こっちのことを無視してやがる。ひでえ~!」


 姉の気持ちなど考慮することのないアキは、さらに暴走を続けた。本当なら、俺が止めなければいけないところなんだが、他人の振りをするのに急がしくて、手が回らないのだ。


「ねえ! お義兄さんと喧嘩しているんだよね~? 私が間を取り持っているから、今から屋上に……」


「ばっ……」


 こともあろうに、こっちに内情まで暴露しだした。途端に、他の生徒から、クスクスと含み笑いが漏れ始める。ここまで言われると、俺も動かざるを得ない。アリスも同じ気持ちだったようだ。


「「馬鹿野郎!!」」


 気が付いたら、アリスと一緒に叫んでいた。俺が校内で、アリスが中庭だというのに、なかなか気が合っているな。




「本当に信じられない。人の多いところで、あんな恥ずかしいことを叫ぶなんて……」


 アリスが妹の所業に対して、まだぶつぶつと文句を呟いている。


 あんな派手に喧伝した後では、屋上に集合することなど出来る訳もなく、アリスとは校舎裏で合流したのだった。さっきから屋上が騒がしい気がするのは、きっと気のせいだろう。


「私は、お姉ちゃんたちに仲直りしてもらいたいだけなの。悪気はないわ」


 それは重々承知しているが、こいつが言うと、裏があるように思えてしまうのは何故だろうか。とはいえ、せっかく用意してくれた仲直りのチャンスなのだ。是非とも、この機会をいかして、アリスと以前の関係に戻りたかった。アリスが、まだそう願ってくれているかどうかは分からないけどな。


 アキのことは放っておいて、一歩前に踏み出した。アリスも、すぐに妹から視線を俺へと移した。


「よお……」


「……おはよう」


 昨夜のメールの件が脳裏をかすめ、お互いあいさつすらぎこちない。俺の顔を見ながら、アリスは何かを言いたそうにしていたが、やがて諦めたようだった。おそらくメールを読んだかどうかを聞きたかったんだろう。メールの件を今話すと、より一層ぎくしゃくする気がしたので、する必要がないなら、俺から切り出そうとも思わない。何年か後に、笑い話の類で話すまで胸にとどめておこうと思う。


「今日は来てくれたんだね。昨日、学校を休んだから、ずっと心配していたんだよ」


「ははは……、悪い」


「……」


「……」


 駄目だ。会話が続かない。これでは、仲直りまで漕ぎつけるのは、困難を極めるのは明白だ。そんな空気を察したのか、アキが口を開く。


「聞いたよ。お義兄さん以外の男性と、濃厚なキスをしたんだって? しかも、熱い抱擁付き」


「お互い同意のもとでやったみたいに言わないでくれる? 私は拒否したけど、向こうが強引にしてきたのよ」


 アリスが表情を歪ませながら弁解するが、アキは馬鹿にしたように鼻で笑った。


「そうですかあ? 本当は気持ち良かったんじゃないんですかあ?」


「なっ……! そんなことないわ。言っているでしょ。向こうから無理やりされたって」


「された時こそ無理やりだったけど、徐々に快感に変わっていったと……」


「あんた……。一度、頬をつねられたいの?」


 アキの軽口に激怒したアリスが、両手を妹に向けた。過去にされた時の痛みを思い出したのか、アキが全身を震わせてたじろいでいたのが、何か笑えた。


「む、無理やりされたんなら、お姉ちゃんが責任を感じることなんてないじゃないですか」


「必要がなくても、何か責任を感じちゃうの。大人の世界は、あなたみたいに単純じゃないのよ」


「大人……」


 姉の台詞に、アキが笑いを堪えているのが分かったが、敢えて突っ込まないでおこう。アリスも顔をしかめているが、追及する気はないようだ。


 何か話がわき道に反れそうなので、俺も口を出す。


「俺も……、最初はアリスを信じようと思っていたんだ。でも、この写真を見たら、気持ちがぐらついて……。ごめんな」


 家を出る時に、密かにポケットに忍ばせておいた写真を、アリスに見せた。いずれは、俺の知るところになると覚悟はしていたようだが、それでも現物を見ると、わずかに動揺したのが分かった。


「昨日、ドアノブにかかっていたんだ」


「そう……」


 アリスは食い入るように写真の写った自分を見つめていた。あまり熱心に見ているので、手渡そうとしたが、やんわりと拒否された。写真を見ている間、ずっと何かを言いたそうに、怒ったような顔をしていたのが印象的だった。


「へえ、どれどれ」


「あっ……、勝手に見るな」


 アリスがあまりにもまじまじと見ているので、アキも興味を持ったのだろう。俺の肩から、顔を覗かせてきた。慌てて叱咤したが、もう遅かった。アキの瞳は、例の写真を、しっかりと捉えていたのだ。


 慌てて写真を引っ込めるも、アキは、しばらく放心したように黙り込んでいた。だが、徐々に頬を風船のように膨らませていく。そして……。


「ぶっ……!」


 堪えきれなくなったのか、堰を切ったように笑い出した。


「あははは! 何、お姉ちゃんの浮気相手? 小学生じゃん! 成る程、小学生に彼女を取られたら、さすがのお義兄さんだって、意気消沈しちゃうわ。うん、こりゃ納得!」


 当事者の気持ちなどお構いなしに、声が続く限りに笑い続けた。


「お、お姉ちゃん! いくら身長にコンプレックスを持っているからって、相手は選ぼうよ! まあ、確かに。同じチビ同士、周りから見たら、お似合いのカップルだけどさあ……。あははは! 駄目、笑いが止まらない。お腹が苦しい!」


 こいつ……。いくらツボにはまったからといって、アリスにチビと連呼するとは。それがタブーだということは、妹のお前が一番よく知っている筈だろ。


「ていうか、小学生相手に、強引に押し切られちゃったの? なっさけねえ~」


 痛いところを突かれて、アリスが羞恥のせいで泣きそうになる。俺も不謹慎に笑いそうになってしまったが、何とかこらえて、アキを言い過ぎだと叱った。


「も、もう……。お義兄さんと仲直りするのを止めて、この子の元に走ったら? まあ、この子が高校生になって慎重に差がつく頃には、チビって言われて、捨てられちゃうのがオチけど……」


 爆笑のあまり、警戒心が緩んでいるのだろうか。急速に目が据わっていくアリスに気付かずに、暴言のオンパレードは尚も続く。それに伴って、アリスが殺気に満ちた赤いオーラを纏っていくのだ。


 ブチリ!


 そろそろキレる頃かと思っていたら、その瞬間は唐突に訪れた。


「チビチビうるさい! ちょっと平均的に発育しているからって、調子に乗んな!!」


 アリスが豪快に平手打ちをお見舞いすると、アキの体が派手に宙を舞った。


「ふっ……。今の一撃は、なかなか熱い魂がこもっていましたぜ……」


 地面に叩きつけられると、謎の感想を言い残し、ガッツポーズをすると、アキはその場に倒れた。


「……気絶したふりをしなくて、いいのよ」


「あっ! ばれちゃってた?」


 気絶したと思っていたアキだったが、演技だったようで、アリスが語りかけると、ムクリと起き上がったのだった。


 ていうか、俺とアリスの仲直りの話はどうなっているのだろうか。もう完全に姉妹喧嘩の様相と呈しているよな。


深刻な話も、アキを間に挟むと、途端に毒気が抜かれちゃいますね。

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