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第二十四話 俺と彼女の密会情報が、彼女の親にばれてしまった

 俺たちがフランス料理に舌鼓を打っている頃、アリスの家で、小ぢんまりとした撮影会が開かれていた。


「いい! 今の表情はグーだ!」


 妙に少女っぽい服を着た遊里がポーズを取っている姿を、年配の女性がおだてながらシャッターを切っている。


「次はこれを着てもらおうか」


「あっはっは! これはまたずいぶん可愛らしいデザインだね」


「笑うな。私の自信作なんだぞ」


 自作の服を笑われ、女性は顔を強張らせるが、あまり怒ってはいないようだ。


「でもさあ。パパって、お抱えのモデルさんが何人もいるんでしょ? 私なんかに着せないで、そいつらに着せればいいじゃん。ま! 私は撮影料が入ってくるから、文句ないけどね」


「私が担当しているのは、大人の女性向けの雑誌なんだ。こんな子供っぽい服を着せようとしたら、立場がなくなる」


「でも、本当は子供向けのファッション誌を作りたかったんだよね」


 痛いところを突かれて、女性は苦笑いした。お返しとばかりにシャッターを切ると、愚痴を続ける。


「最近は家庭でも頭痛の種が育ってきているんだ。ただでさえ仕事で忙しいというのに、アリスは男を作った上に記憶喪失になるし、アキは馬鹿だし、夫は娘二人にベッタリだ。たまにガス抜きをしないと、ストレスが爆発しそうなんだよ」


 パパと呼ばれた人物は、アリスに彼氏が出来たことが特に気に食わないようで、しきりに愚痴をこぼしている。もっとも、その彼氏というのは、俺のことなんだが。


「チビでお子様のくせに色気づきやがって、ませガキが」


「あはは! パパ、口が悪~い!」


 愚痴がツボに入ったのか、遊里はまた大笑いした。シャッターを切りながらも、女性はムッとしたようだ。


「あと、それからな……。私のことをパパっていうのは止めろ。私は女だ。せめてママと言え」


「え~? その辺の男より、男らしいから、パパの方がしっくりくるんだよ。パパのままでいいでしょ?」


「む……。確かに男らしいとか、女傑とか言われるけどな」


 おだてられるのに弱いのか、今まで通りパパと呼ぶのを許してしまう。案外乗せやすい人なのかもしれない。


「ああ、そうだ。とっておきの情報があったんだっけ。ちょっと小耳に挟んだことなんだけどね」


「何だ?」


 したり顔の遊里を不思議そうに見つめるパパ。その顔が怒りに震えるのは、それから間もなくのことだった。




 それから数日後、大事な話があるというので、アリスに屋上へ呼び出されていいた。同じく呼ばれたのか、アキも一緒だ。


「実は、爽太君が私の家に来たことが親にばれちゃったの……。みっちりお説教されて、もう大変……」


 開口一番、衝撃の事実を告げた。


「な、何だって~!?」


 あの場には、俺とアリスの他に、アキと木下しかいなかったんだぞ。木下がチクったとも思えないし、どうしてばれたんだ?


「う~ん。一体どこからばれたのか。全く心当たりがありません。誰かが親にチクったんですかねえ?」


 俺とアリスの視線が、アキに注がれる。自分が疑われていることに気付いたアキがにわかに慌てだす。


「わ、私じゃないですよ。何でもかんでも私を疑わないでください!」


 疑われたアキは、自分ではないと抗議の声を上げる。しばらく観察してみたが、どうやら本当に心当たりがないようだ。こいつでないというのなら、一体誰が……。


「近所の叔母さんから聞いたとか?」


「私の両親は、二人共仕事人間だから、ご近所付き合いなんて皆無よ。考えられないわ」


 仕事人間。そういえば、この間行った時も、仕事でいなかったっけ。


 いろいろ話し合ってみるが、結局、噂の出所は分からずじまい。確かなことといえば、アリスとイチャイチャするのは自重しなきゃいけないということだけ。


 やれやれ。とんだ事態になってしまったな。やましいことは何一つしていないし、それどころか、ゴキブリ退治のボランティアまでしたというのに。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


 俺は悪いことをしていないと、腑に落ちないものはあったが、アリスの両親に睨まれてしまっているというのなら、これ以上事態を悪化させないように、行動に気を配るしかあるまい。


「悔しいけど、とりあえず事態が沈静化するまでは大人しくするか」


「そうだね……」


 彼女の家に行けたということで、舞い上がっていた部分があったのも事実だ。丁度いい機会だから、一度自重することにしよう。


「そうです、そうです。……と言いつつ、羽目を外しちゃうんですよね。それを私が激写……」


 アキが不謹慎な計画をポロリと口にしたので、制裁の脳天チョップをお見舞いした後で、カメラを没収してやった。


「イチャイチャできる時間が減ったことで、ストレスがたまったら、これでキャッチボールでもするか」


「バレーボールの練習も良いかもね」


「お、お義兄さんも、お姉ちゃんも、ひどい~!」


 アキをからかいつつも、やはりこいつが犯人なのではないかと改めて思った。義理の妹を疑いたくはないが、現状で一番怪しいのはこいつだ。




 アリスたちと別れると、アキから没収したカメラで遊びながら、今後のことについて考えた。


 冷静に考えてみると、大人しくしているのは、結構難しい気がしてきた。最近の俺は不幸に見舞われやすいからな。特にこういう時に限って……。


「あ、爽太君、発見。やっほ~!」


「う……」


 思った矢先にいきなり不幸の兆候が訪れた。やはり最近の俺は不幸体質になりつつある。そんな俺の元に向かってくるのは、アカリと、その親友。確かゆかりだっけ? くそ、こんな時に……!


「どうしたのよ。浮かない顔をしたりなんかして~」


「……別に」


 お前らと会ったからだとは、さすがに言えず、曖昧な返事で誤魔化す。


「ちょうど、あなたに会いに行くところだったの。教室まで行く手間が省けたわ。あなたの憂鬱を吹き飛ばすビックなニュースがあるから、喜びなさい!」


「へえ……」


 どっちにせよ、こいつらの相手をすることになっていた訳か。アリスとはベタベタ出来なくなるし、今日は厄日か?


「単刀直入に言うわね。次の休みに、プールに行きましょうよ」


「プール……」


 ビックニュースって、プールのことか? プールと聞けば、全ての男子高校生のテンションが上がるとでも思っているのだろうかね。……概ね正解だけどさ。


 とはいえ、トラブルの匂いしか漂ってこない。最近、暑い日が続いているから、涼みに行きたいというのが本音だけど、行ったら面倒くさいことになりそうだ。


「ふふん! プールといってもいやらしい展開を期待しちゃ駄目よ? 年頃の健全な男女が水遊びに興じるだけなんだから。あっ、でも、トラブルは起こるかもしれないわねえ」


 思わせぶりな口調で話しやがって。トラブルを自ら起こす気満々じゃねえか。こいつの口車に乗って、プールに行くのは非常にまずい。きっぱり断らなくては。


「ごめん……。今度の休日は予定が……」


「プールといったら、水着よ。私はもちろん、アカリもすごいから、期待しちゃってよね」


 何気なくアカリよりも、自分を推してきた。え? まさかお前までアタックしてくるつもりなの!?


 俺が圧され気味でたじろいでいると、アカリがおずおずと話し出した。彼女なりに、このままだんまりは不味いと思ったのだろう。


「ち、ちなみに私はスク水で臨みます……」


 そこまで話したところで、アカリの頭を、ゆかりがはたく。


「馬鹿! 昨日せっかく新しい水着を買ったのに、あれを着ないなんて、どういうことよ。分かっているの? ここが勝負どころなのよ!」


「む、無理よ。だって生地が少ないんだもん。あれじゃ、見えちゃうよ……」


「見せればいいでしょ! むしろ、そのために買ったのよ。いい加減覚悟を決めなさい!」


「おい……。盛り上がるのは結構だけど、健全な精神を忘れるなよ」


 際どい水着で落としにかかって来るとは。こいつらのやりたいようにやらせていたら、十八禁になってしまう。もったいない気はするが、やはりプールは断ってしまおう。


 ゆかりが落ち着くのを待って、断ろうと思っていると、頭上から声をかけられた。


「あれ? 爽太君じゃん!」


 この声は……、遊里か? くそ……! アカリたちだけでも面倒なのに、遊里にまで鉢合わせするなんて。


 他人の振りをして誤魔化そうかと思っていると、俺の体を衝撃が襲った。遊里がいきなり俺に肩車する形で、のしかかってきたのだ。当然俺は、体のバランスを崩して、転倒しそうになってしまう。


「よお!」


「「よお」じゃねえ!」


 よろけながらも、どうにか持ちこたえる。俺が踏みとどまったのを確認すると、遊里は華麗に着地した。


「だ、誰よ、あんたは!?」


 突然の乱入者に、アカリとゆかりも、驚きを隠せない。というか、こんな登場をすれば、誰だって驚くか。


彼女とイチャイチャするのは自重することになってしまいましたが、

この展開を確実に喜んでいる人間が一人。

それは、最近出番のない、謎の許嫁「X」……。

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