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最終回 母と、娘と、新しいお父さんと

100話くらいで完結するものと構えていたのですが、

終わってみれば、倍近くに膨れ上がっていました。

 優香との戦いが終わって、数か月が経った。後から思い返せば、一連の出来事で、ゆうちゃん以外で、俺に好意を寄せている女子のほとんどが記憶喪失になって、俺への想いを忘れたんだよな。


 嫌われた訳ではないのでショックはないが、こういう解消方法もあるんだな。


 そして、唯一残ったゆうちゃんとの交際は、順調に進んでいた。周りには内緒にしていて、非公認のカップルを続けている。語らいの場所が、放課後の喫茶店であることは、相変わらずだ。


 ゆうちゃんは高三だが、進学する気が一切ないので、周りが受験勉強でひぃひぃ呻いている中、トレードマークともいえる笑顔で、マイペースに毎日を過ごしている。俺としても、彼女と過ごす時間が削られないのは嬉しいことだった。


 ああ、そうそう。優香と戦っている間、学校を休んでいたのだが、その間に図書委員に任命されていた。何でも、図書委員が二人とも転校してしまったので、その穴埋めに任命されたとのこと。みんながやりたがらない仕事が、休んでいる者に回されるのはよくある話だ。俺が悪いので、仕方がないのだが、どうも釈然としない。


 しかも、驚いたことに、どういう因果なのか、アリスも、同じ図書委員に選ばれてしまっていたのだ。だが、そこから何かが起こるということもなく、俺のことをすっかり忘れたアリスに、ただどやされる毎日だ。


「おいおい! 今日も熱いねえ~。そのきつい言葉も、愛情の裏返しなんだろ? な! お二人さん♪」


 俺が怒鳴られているのを、木下が面白がってからかってくるのが、鬱陶しい。


 アリスは俺と付き合っていたことなど、きれいさっぱり忘れているので、からかわれる度に、「そんなことがある訳ないでしょ」と頑なに否定してくる。事情を知らない木下は、さらに面白がって、喧嘩別れでもしたのかと、俺に突っかかってくる。


 アリスといえば、妹のアキだ。昔は、俺をお義兄さんと呼んで、向こうから勝手に突っかかってきたものなのに、今ではたまに廊下ですれ違う程度だ。今でも明るく挨拶はしてくれるが、彼女との間に見えない壁でも出来てしまったみたいで、どこかよそよそしさを感じる。おそらく姉との関係が、完全に終わったことで、彼女なりに身を引いたんだろう。俺のアパートを訪ねてくることも、もうない。あんなに鬱陶しく思っていた筈なのに、いざ距離を置かれると寂しいものがあるな。


 優香とは、本当に顔を合わせなくなった。転向したという話は聞かないので、同じ学校に今でも通っている筈なのだが、全然見かけないのだ。ハンバーガーショップで別れた時は、本当に軽い挨拶で別れたのだ。その時は、これからもちょくちょく会うことになる予感がしたのだが、蓋を開けてみれば、永遠の別れになってしまいそうな勢いだ。


 報告することはまだある。


 ゆうちゃんの実家で働き始めたのだ。


 休日に、ゆうちゃんのお母さんに、結婚を前提に交際している旨を報告しに行ったら、その場で採用されてしまったのだ。俺も店のお手伝いをしたいと思っていたのだが、俺の意見を聞くことなく決まってしまったのが、微妙に引っかかっている。穏和に見えて、強引なところがあるのは、娘と変わらないな。


 という訳で、今では昼間は学校、夜はゆうちゃんの家でバイトの日々だ。忙しいが、充実した日々を送っている……、というには、まだほど遠い状況だ。実際は、学問と仕事を覚えることで、頭がパンク寸前の日々だったりする。楽しいと感じることの出来る境地には、未だ至っていない。


 基本的にずっと厨房で皿洗いだが、たまに酔っ払いの相手もさせられたりしている。ゆうちゃんのお母さんと違って、まだ客あしらいに慣れていないので、困ることばかりだ。しかも、中には、密かにゆうちゃんを狙っていたというおじさんも多く、彼氏としても困っている。


 高校を卒業したら、そのまま店員として、本格的に働くつもりでいる。大学に行くつもりはなく、叔父さんとも、話し合いの末、了解がとれている。というか、俺が決心を口にするより先に、規定事項として成立しつつあるのだがね。


 ここ数か月の内に起きた一連の出来事で、俺の交流関係はずいぶん変わった。親しくなったやつもいるが、関係の途絶えてしまったやつも多い。変わっていないのは、木下くらいか。


 木下との縁が一番深いのは意外だが、ちょっと不本意に思っている自分もいる。ちなみに、最近また新しい彼女を作って、わずか8時間で別れるという偉業を成し遂げている。作るのも、消し去るのも、速い男だ。


 交流の途絶えた連中との日々を懐かしむことも結構あるが、俺なりに選択した結果が、今に繋がっていると思うので、掴んだ未来を大事にしていきたい。


 正体を隠したゆうちゃんに脅されて始まったこの物語。締めくくりは、俺がゆうちゃんから相変わらず脅されているところで、幕を下ろすことになる。ただし、脅されている内容は、早く結婚してくれないと、怖い目に遭わせるという、なんとも可愛いものだったりする。










「そうだ。お父さんからね……。連絡があったそうよ。浮気相手と別れたから、また一緒に暮らさないかって」


「ずいぶんと急な話だな……」


 それでいて、ずいぶんと調子の良い話でもある。よく連絡が出来たものだ。自分のせいで、離婚した妻と娘が、どんなに大変な目に遭ったのかも、想像出来ないのだろうか。


「で? お母さんはどうするって?」


 俺としては、あまり会いたい類の人間ではないが、どうするのかを決めるのは、ゆうちゃん母娘だ。


「断ったそうよ。その場で」


 そりゃそうだろうな。今更修正出来ない関係も、この世にはある。俺も経験済みだから、よく分かる。


「うちには新しいお父さんがいるから、もうあなたは必要ありませんだって。元お父さんは絶句していたそうよ」


「え?」


 あれ? 今、新しいお父さんって言ったな。ゆうちゃんの母親が再婚した様子はないし、あの家に最近入った男といえば、俺くらい……。


「それって……、俺のこと……?」


「さあさあ。今夜も忙しくなるわよ。気合を入れて乗り切りましょうか」


「い、いや。それも重要だが、俺の質問に答えてくれよ~!」


 慌てる俺を楽しむように、ゆうちゃんが駆けていく。その後を俺が追いかける。何ともバカップルな追いかけっこをしている間も、陽は落ちていく。今夜も開店の時間が近いな。


 想定していたよりも長くかかってしまいましたが、今回で最終回です。

 前2作より、投稿出来ない日が多くあり、調子が悪いのか不安に思うことも

ありましたが、こうして終わることが出来て、ひとまずホッとしています。

 次回作は、ハーレムものではないのですが、またコメディでいきたいと

考えています。なるべく早く投稿できればいいのですがね……。

 作品への感想がありましたら、常時募集中ですので、どうか送ってくださいませ。

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