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第十六話 浮気(?)談義中に、彼女からSOSが届く

 放課後、アカリの後を付けていたら、彼女の裏の顔を見ることになってしまう。


 日頃からおっとりしていた彼女が、チャラ男を一蹴する姿は、見ている俺たちにも衝撃を与えたのだった。


 立ち去るアカリを、再び追おうともせずに、遠ざかっていく背中を見ていた。


「……とりあえずヤンデレの要素があるのは分かったかな」


 Xもヤンデレだし、証拠は掴めなかったが、容疑は深まった。


 まだ尾行を続ければ、どんどんボロが出てきそうだが、続ける気がしなくなってしまったので、この日は帰ることにした。


 去り際に、さっきの不良を見たら、アカリにやられたショックから、まだ立ち直れないのか、その場に横になったまま、立ち上がれないでいた。不憫だとは思うが、自業自得なので、放っておこう。


「いやあ! 収穫大アリですなあ」


 自分が殴られた訳ではないのに、意気消沈気味の男二人をよそに、アキの瞳が煌めいていた。これは、何か企んでいる時の輝きだ。


「アカリさんの容疑が深まったところで、一気にたたみかけちゃいましょうか」


 たたみかける……。物騒な響きだ。まだアカリだと決まった訳じゃないんだから、お手柔らかな作戦をお願いしたいね。何を企んでいるのか知らないけど、どうせ実行するのは俺なんだろう?


「私、思ったんですけどね。お義兄さんが言い寄るってのはどうですかね? お義兄さんなら、さっきのチャラ男君と違って、ひどいことはされないでしょう。それで、ベタベタしていても、Xから脅しのメールが届かなければ、アカリさんが犯人と考えられませんか?」


 やはりそうきたか。その作戦は俺もチラリと考えたよ。


 でも、駄目だ。その作戦は根本的に駄目。アリスを裏切ることを前提にした作戦だからだ。Xを炙り出すためとはいえ、それは出来ない。


 仮に百歩譲って、実行したとしても、アカリがXだろうが、そうでなかろうか、想いを受け入れる気はないのだ。どうせ遊びで終わることになり、別れ話の時に怖い思いをすることになる。


 そういう訳で、一見すると筋が通っているようにも思えるが、アキの申し出は却下することにした。


「でも、でも……! 怪しいのは確かですよね。イチャイチャしないにしても、仲良くはしておいた方が良いと思いますよ」


「俺もそれが良いと思うぜ。証拠を掴めなくても、アカリと一緒にいる時に限って、Xからメールが届かなかったら、怪しさが倍増する訳だから。それに、上手くいけば、付き合えるかも……。おっと! 今の失言は忘れてくれ」


 いや、しっかり聞いてしまったよ。さっきアカリの凶暴な一面を見て、すくみ上っていたくせに、まだ諦めていなかったのか。こいつの女好きには、頭が下がるよ。


「お姉ちゃんは、彼氏を束縛する人じゃないからさ。二人きりで遊ばなければ、うるさいことは言わないと思うよ」


 アキがもう一度言ってくる。どれだけ推しなんだよ。


 あまり気が進まなかったが、アカリとは仲良くするしかないか。本当なら、不用意に同年代の女子と仲良くなりたくはないんだけど(アリスに余計な心労をかけちゃうから)、あれも駄目、これも駄目じゃ、いつまで経ってもXは捕まえられないしな。不本意だけど、妥協しなきゃいけない部分はある。


 でも、でもなあ……。


 最近、アリスに悪いことばかりしている気がする。どれもこれも俺が発端となっているものばかり。気丈に振る舞っているけど、本心では迷惑しているんじゃなかろうか。名誉挽回という訳ではないけど、ここら辺で、何かアリスの力になれればなあ……。


 重いため息が、口から漏れそうになったところで、携帯電話にメールが着信した。


 一瞬、Xのことが脳裏に浮かんだが、アリスからだった。


 ホッとして確認すると、驚きの内容が送信されていた。


『た、助けて……』


「……え?」


 目に入ってきた驚愕の文面に、間の抜けた声を出して、固まってしまう。


「お姉ちゃん、何だって?」


「どうしたんだよ、震えて」


 俺の様子がおかしかったのか、木下とアキが内容を聞いてくるが、返答している余裕はない。


 『助けて』? アリスに何かあったのか?


 画面をスクロールさせて確認するが、文章はこれだけ。


「なあ、アリスって、今どこにいるか分かるか?」


「お姉ちゃん? さあねえ、今日は予定もないから、家に入ると思うよ。ふ~ん、今のメールはお姉ちゃんからなんだ。何て内容? ……って、お~い。お義兄さ~ん!」


 アリスが家にいるということを聞いて、俺は駆け出した。俺の様子が気になったのか、アキと木下も後を追ってきた。




 数十分後、俺たちはアリスの家までやって来た。全速力で走ってきたので、息がかなり上がっているが、そんなことはどうでもいい。


「アリスちゃんからSOS!? マジかよ!」


「お前に嘘を言ってどうするんだよ! あれから携帯にいくらかけても繋がらないし、アリス……! 無事でいてくれ!」


 X……! まさか俺がなかなか別れないから、実力行使に出たのか? だとしたら、許さない……!


 逸る気持ちを抑えきれずに、エントランスまで走ると、ドアの前でアリスが震えながら蹲っていた。


「アリス! 大丈夫か?」


 俺が近寄って、顔を近付けると、アリスが弱々しい素振りで首を縦に振った。


 怪我はないみたいだ。だけど、余程覚えているのか、何を聞いても震えるばかりで、何も答えてくれない。


「ここで震えているということは、アリスを怖がらせている原因は、まだ中にいるかもしれないということか」


 そうでないなら、中に引きこもって、鍵をかけていればいい訳だからね。


「アキはアリスを見ていてくれ。中を確認してくる。行くぞ、木下」


「おう」


 詳細は聞けなかったが、早めに確認することにした。警察に電話することも考えたけど、何があるか分からないんじゃ、イタズラと間違われる可能性もある。危険だけど、まずは確認だ。


 玄関に傘が何本かさしてあったので、一本だけ拝借する。いざという時に、武器代わりにはなるだろう。


 初めて入る彼女の家。出来れば違う形で来たかったなと思いつつ、一部屋一部屋丹念に調べていく。


 ところどころ花瓶や雑誌類が落ちているのは、慌てて出てきた時に倒してしまったものだろう。一部屋だけ乱雑に散らかった部屋があったが、部屋の持ち主がだらしないだけで、問題性はなさそうだった。


 中が無人なことを確認して、エントランスに戻ると、アリスはだいぶ落ち着いていた。


「中はそんなに荒らされていない。金目の物は盗られていないみたいだ」


 アリスを安心させようと、声色に気を配って、笑顔で語りかけた。


 でも、アリスは首を横に振って、聞こうとしない。


「い、今は姿を隠しているだけよ。どこかに潜んでいるに決まっているわ」


「でもなあ……。隅から隅まで探したぜ?」


 木下が反論するがアリスは聞く耳を持たない。でも、人が隠れられるような場所もなかったんだよな。


「れ、冷蔵庫の裏は見た? 箪笥の裏とか……。アキの部屋とか……」


「お姉ちゃん! 私の部屋を例えに入れないでよ!」


 アキが抗議していたが、みんなで聞き流した。この家に来るのは初めてだったが、アキの部屋がどれかはすぐに分かった。確かにあそこなら、隠れ場所にはもってこいだ。


 ただ、気になったのは、アリスが話してきたのは、人間というより、虫の隠れ場所ということだ。


「アリス。相手は人間?」


 思うところがあったので、優しい声色のままで、アリスに尋ねた。


「ち、違う……。あいつは人間じゃない……」


 俺の裾を掴んだまま、アリスが弱々しく言った。相手は人間じゃないか。それで、女子が怖がるもの……。俺の中で、考えがまとまってきた。アキもほぼ同じタイミングで、事情を掴んだようだった。


「ああ。また出たんだ。ゴキちゃん」


「ゴキブリか」


 おそらく、ゴキブリが出てきたので、錯乱してしまい、俺に助けを求めてきたのだろう。一時は慌てたけど、相手がゴキブリだと知ると、恐がっているアキが急にかわいく思えてきた。


「アリス。ゴキブリが苦手だったんだな」


 俺に指摘されると、恥ずかしそうに首を縦に振った。何があったのか、駆けつけた俺に言えなかったのは、きっと怖くてパニックになっていたからだけではあるまい。


「記憶を失う前は、明らかに怖がっているのに、私に弱みを見せまいと頑張っていたからね」


 成る程。記憶の失った今のアリスは、ゴキブリの襲来に耐えられるほどのプライドがなくなってしまっているので、素直に助けを求めてきた訳か。


「お前は平気なんだな」


「うん。全然大丈夫」


 ゴキブリが平気なのは構わないけど、男子の前では怖がった方がモテるぜ、義妹よ。


「とにかく! ゴキブリがどこにいるのか分からない状態じゃ、安心できないだろ。俺に任せろよ。炙り出して、始末してやるから!」


 騒ぎの原因がXじゃなかったことに安堵しつつ、俺はゴキブリ退治にとりかかるのだった。


主人公と彼女がイチャつく話が少ないと思っていたので、今回の話を書いてみました。感想など、お待ちしています。

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