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第百五十九話 携帯電話未開の地での、待ち伏せキャンプ

 日常生活で携帯電話のアンテナが立たない場所に入ると、たいへん不便に感じるが、今だけは、それをありがたく思ってしまった。


「きっと携帯電話が圏外になってくれなかったら、未だに優香からの電話を切ることが出来ていなかったな」


 これから虹塚先輩と力を合わせて、潰そうとしている相手に、こんな弱腰でいけないことは分かっているのだが、どうも優香だけは苦手なのだ。


「あの女、急に通話が出来なくなったから、今頃怒り狂っているわよ」


「その後で、血眼になって、俺たちを探し始めるだろうね」


 そして、いずれはここを突き止めるんだろうな。目を真っ赤に充血させながら、獣のような荒い息遣いで、俺たちの前に姿を現す優香。想像すると、全身がブルッときてしまうな。


 恐怖から目をそらすように、圏外になったことために、一時的とはいえ、使用不能になった携帯電話を見つめる。さっきまでは、これを通して優香と話していたのが、何となく信じられないな。いつもこれがないと、何も始まらないというのに、今では役立たずに成り果てている。後は、懐中電灯のアプリくらいしか使える機能は残っていないか。


 さて。いつまでも使い物にならなくなった携帯電話を眺めていても仕方がないので、ポケットにしまう。


「どれくらいで、ここを突き止めるかしらね」


「あっという間に辿り着きそうな気はするが、今晩くらいはゆっくりと寝させてほしいよ。体中がバキバキで、明日は筋肉痛がすごそうだ」


「あらあら。それなら、筋肉痛が癒えるまでに変更すべきじゃないのかしら」


「それもそうだ」


 優香への恐怖心を、筋肉痛の話題で誤魔化しながら歩いていると、目的の廃屋が見えてきた。


「あれじゃないかしら。ネットの画像で見たのとそっくりよ」


「初めて来るところだし、途中で迷うかと思ったが、案外あっさり到着出来たな」


 ただし、迷わなかった代わりに、かなりの時間を擁してしまった。体力も、もう限界だった。


 ようやく解放される喜びに浸りながら、荷物を地面に置く。虹塚先輩の荷物を地面に置いた時に、土煙と共に、地震が発生したが、ツッコむ体力も減退していたため、見なかったことで済ませた。


 しかし、周辺の衛星写真から適当に選んだ廃屋は、思っていた以上のボロ屋だった……。ていうか、崩壊寸前だ。こんなもののために、ここまで歩いてきたのかと思うと、やるせなくなってしまう。


「まあ、衛星写真で見た限りだし、このくらいが関の山ね」


 落ち込む俺をよそに、虹塚先輩は、あっけらかんと言い切った。彼女からすれば、暴れることが出来れば、どこでも良いのかもしれない。


 それに、虹塚先輩と優香が本気で暴れたら、この廃屋など跡形もなく消える可能性もあるので、どうせ滅茶苦茶になるのなら、構わないだろうと俺も割り切ることにした。


 予想通り、水の類は使えなかった。以前は使えたらしく、蛇口はあるのだが、いくら捻っても、水が流れ出てくることはない。


「コンビニで水を大量に買ってきておいて正解だったわ」


 俺に持たせていた荷物の中から飲料水を取り出して、疲労のピークに達している俺に手渡しくれた。


 自身も疲れているだろうに、次は折りたたまれたテントを取り出した。


 虹塚先輩の荷物が、妙に重い理由が分かった。一週間分と思われる水と食料。それからテントなどのキャンプグッズを入れていたからだ。長期戦の準備とは、ずいぶん年の言ったことだ。ただ、これだけの量を、どうやってあのリュックサックに入れていたのかは、不明のままだがね。


 しかし、これだけの物資の詰まった荷物を運んでいたのか。知らなかったとはいえ、自分の力を見直してしまうな。自分はひ弱な部類だと思っていたが、その認識は改めないといけないみたいだな。などと自己満足に浸りながら、飲料水で喉を潤した。ちなみに、俺が代わりに持つまで虹塚先輩が、途中まで涼しい顔で、これらを運んでいたという事実は、きれいに頭から抜けていた。


 その後、急ピッチで、廃屋の中にテントが組んだ。言っちゃなんだが、これはかなりシュールな光景だったりする。ていうか、テントを張るくらいなら、こんな廃屋まで足を運ばなくても良くないかと思ったが、空気を読んで、発言は自重しよう。代わりに、率直な感想を述べさせてもらう。


「黒魔術か何かの儀式を行っているみたいだな。今にもテントの中から悪魔が出てきそうだ」


 もし、誰かが通りがかって、廃屋内の様子を伺ったら、きっとそう思うに違いないだろう。警察に通報されても厄介なので、誰の目にも触れないことを、切に願うばかりだ。


「うふふ。悪魔は呼び出せないけど、爽太君との愛の儀式は、遠慮なく行えそうね。あっ、でもそうなると、かわいらしい小悪魔ちゃんが誕生しちゃうかもしれないわ……!」


「上手いことを言ったつもりか?」


 頬を赤らめて、暴走気味に盛り上がっている虹塚先輩には悪いが、今の俺は、そういう気分にはなれそうにない。


 テントを張った後、簡単な食事をとった後は、廃屋の周りに罠を張る作業に入った。罠といっても、侵入者を撃退するようなものではない。接近してきたら、音が鳴って、俺たちに知らせてくれるというものだ。落とし穴の底に竹やりを敷き詰めたり、うっかり作動させると爆発したりという派手な罠も、虹塚先輩から提案されたが、自重する様に、やんわりと釘を刺しておいた。そうでないと、先輩が加減を忘れて、こっちまで被害を被りそうな気がしたからだ。


「思い出すわ……。あの時も、こうして爽太君と知恵を出し合って、あの女を迎撃したものよ」


「あの時? 俺たちがまだ子供の頃の話か?」


 実は、俺と虹塚先輩が、優香から狙われるのは、今回が初めてではない。子供の頃にも、一度狙われているのだ。確かその時は、俺が記憶を失って終了だったっけ。どんな因果か、今回も記憶の消しあいをすることになっている。あまり良い記憶ではないので、今は控えてほしい類の話だ。


「あの頃は、怖がるばかりだったせいで、何の対策も取っていなかったのよね」


 でも、今回は違う。そう言いたいのだろうか。それを肯定するかのように、虹塚先輩は、廃屋の周りにピアノ線を張っていた。その先には空き缶が括りつけられている。


「うっかり引っかかっちゃうと音が鳴るやつだな」


「そうよ。これ以外にも、面白い罠を山ほど張っているの。かかってみてのお楽しみだけど、期待には応えて見せるから、大船に乗ったつもりでいてね」


「……さっきも言ったけどさ。漫画じゃないんだから。あまり殺傷能力の高いやつは控えてくれよ。うっかり優香以外の人が引っかかったら、洒落じゃ済まなくなるんだから。いや、優香だったら、良いって訳でもないけど」


 不穏なことを考えているようなので、釘を刺してやったが、微笑むばかりで、聞き入れてくれない様子だ。取り返しのつかなくなるようなことだけは止めてくれよ。


 というか、どこから空き缶を出したのだろうか。確か荷物の中には入っていなかった筈だ。この辺に、ごみ箱もないので、現地調達も出来そうにない。などと、小難しいことを考えそうになるが、そんなことはどうでもいいと切り捨てることにした。大方、虹塚先輩が、闇の力か何かで呼び出したのだろう。


 こうして、どうせその内にここへたどり着いてしまうだろう脅威への対処は、着々と進んでいった。


最近、思ったよりストーリーが進んでいない気がします。

もっと話を進めたかったのに、その日の投稿分をまとめる頃になると、

今回はここまでしか進んでいないのかと思う頻度が増えています。

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