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第百五十八話 探り合い、あなたは今どこにいるの?

 優香と人の目の届かないところで、派手に戦おうということになり、山中の廃屋に虹塚先輩と向かっている。行き先は、優香には告げていないが、あいつなら、地球の裏側だろうと嗅ぎつけてくるから問題はない。


「ふう、ふう……」


 重い荷物を持って歩いているせいで、さっきから息が上がってきている。そのため、進行速度も落ちてきていた。これから、暴れようというのに、なんとも不安な気持ちを掻き立ててくれる醜態を晒しているものだなと我ながら思う。


「ちょっと休む?」


 見かねた虹塚先輩が、気を遣ってきてくれるが、その行為に甘える訳にはいかない。というか、既に何回か甘えている。


「大丈夫……。さっき休んだばかりだから……」


 本音は休みたかったのだが、十分前に休憩したばかりだ。ここで踏んばらないと、廃屋に着く前に、陽が暮れてしまう。


 俺の疲労を増大させるかのように、かなり間の抜けた着信音が鳴り響く。ある人物専用に設定した着信音なのだが、遊び過ぎだな。その場のノリで選んだのだが、こんなにも脱力させられるとは思わなかった。


 電話に出ているどころじゃなかったので無視していたが、着信音はいつまでも鳴り止まない。横を見ると、虹塚先輩もじれったく思っているのか、トレードマークの笑顔が、どこかぎこちないものになっていた。


「電話が鳴っているわね」


 たまらず催促されてしまった。


「ああ。聞こえているよ」


 素っ気なく聞こえてしまっただろうか。だが、そこは虹塚先輩。俺が電話に出ない理由を察してくれた。


「ひょっとしてあの女からなの?」


「ああ。あいつからかかってきたら、この着信音になるように設定しているんだ」


「あらあら」


 こうして話している間にも、携帯電話からは、間の抜けた音が鳴り続けている。人気のない山中で、こんな馬鹿な音を鳴らしながら、歩いているというのも、ずいぶん締まらない光景といえる。


「出たくない気持ちは十分すぎるほど分かるわ。私だって、あの女とは一秒たりとも話したくもないもの。でも、出ない訳にもいかないんじゃないのかしら」


 そこがつらいところなんだよな。いざとなったら、電源を切るという最後の手段もあるけどね。


「……仕方がない。出るか」


 考え抜いた末に、とりあえず出ておくことにした。出来れば、優香の現在地も知りたいし。


「あっ、やっと出た」


 ずいぶん待たせたので、さぞかし気をもんでいるかと思ったが、電話口から聞こえてきた優香の機嫌は、あまり悪いものではなかった。


「また居留守を遣われているのかと思って、冷や冷やしたよ」


「……用件は?」


 また居留守を使っていたので、早々に本題へと移らせてもらうことにした。虹塚先輩ほどではないが、俺もあまり長い時間、話していたい相手ではないというのもある。


「用件ってほどでもないんだけどね。虹塚心愛が今どこにいるか知らないかなあ~って」


「……」


「早速あいつを脱落させてやろうと、意気込んで登校したのに、いつまで待っても姿を現さないの。逃げたのかなあ? 爽太君なら、あいつの居場所を知っていると思って、電話したの。……それとも、そこに一緒にいるの?」


 相変わらず勘が鋭い女だな。俺は何にも話していないのに、ベラベラと確信に近付いていきやがる。


 話ぶりからすると、虹塚先輩の教室付近で、ずっと張り込んでいたらしいな。そして、先輩が登校してきたところを襲うつもりだったんだろう。


 何が、授業中は手出し禁止だよ。授業の前に決める気満々じゃないか。登校しなくて、やはり正解だったぜ。


「そういえば、爽太君も、今日学校を休んでいるよね。教室まで会いに行ったのに、姿を拝めなくて、本当にショックだったのよ」


「それは悪いことをしたね」


 もうすぐ永遠に会えないところへ追いやろうとしている相手だ。あくまで社交辞令の謝罪に過ぎない。


「でも、声を聞いて安心したよ。元気そうで何よりだね。……それなら、どうして学校を休んだのかなあ」


 さっきまでフレンドリーに会話していたと思ったら、いきなり攻めてきた。だが、この程度は、予想の範囲内。慌てることはない。


「俺が休んだ理由? とっくに気付いているんだろ? わざわざ言わせないでくれよ」


「ええ~。冷たいなあ。敢えて爽太君の口から聞きたいのにさあ~。……ねえねえ、今どこにいるの? 会いに行くから教えてよ」


「教えない。自分で探せよ」


「あははは! どうせ私を迎え入れるつもりなんでしょ? それなら早い方がいいじゃん。もったいぶらないでよ」


 もちろんいずれは、お前を迎えるつもりで入る。だが、まだ準備が整っていないのだ。時間稼ぎ的な意味もあるから、お前には教えてやらないよ。


「うふふ……。なかなか電話を切らせてくれないわねえ」


 思った通り、長電話になってしまったのを、横で虹塚先輩が愉しそうに聞き耳を立てている。


「でも、それももうすぐ終わるわ。携帯電話が圏外になるまでの辛抱よ」


 確かに、さっきから通話が途切れ途切れになってきているから、圏外になるのも近いと思うんだよな。それは優香も感じているらしい。


「……どうも会話が途切れ途切れになるね。電波状態が悪いのかな? ……もしかして、人のいないところにいるの?」


「ご想像にお任せするよ」


「この辺りで、該当するところとなると、かなり限られるね。これは爽太君の居場所を突き止める上で、重要な手掛かりになるのかな」


「どうかな」


「……ていうか、虹塚心愛。隣にいるよね。さっき声がしっかりと聞こえたよ。相変わらず虫唾の走る声だな。ええ、おい!!」


 だんだん本性が透けてきたな。最初から、そっちの声色で話せっていうんだ。その方がお前らしいんだよ。


「これだけは言っておくよ! どこに行ったって、私からは逃げられないからね。絶対に、私の元に……」


 そこで電話は唐突に切れた。待ち望んだ圏外になったのだ。


 通話不能になった携帯画面をしばらく眺めた後、そっとポケットにしまう。そういえば優香の現在地を聞くのを忘れていたと、今更ながら悔やんだ。


「あの女。何て言っていたの?」


「ぶっ潰すってさ」


「あらあら……。奇遇ねえ。私も、全く同じことを考えていたわ。私とあの女って、実はかなり似た者同士なんじゃないかしら」


 ヤンデレという点では、同種だろうな。ちなみに、ヤンデレ全開の時の虹塚先輩は、あまり好きじゃないけどね。


「ふう……、重い……」


 そろそろ最後に休憩してから、三十分だ。これなら、弱音を吐いても、面目が立つかな?


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